どうなる規制改革の司令塔、規制改革推進組織の行方  常設化が検討されるも抵抗強く

6月13日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

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延々と看板は付け替えられてきたが

政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授)が6月6日、具体的な規制緩和策について答申をまとめ、安倍晋三首相に提出した。経済財政諮問会議がまとめた経済財政運営の指針(いわゆる「骨太の方針」)や、未来投資会議で決める「成長戦略」と共に、6月末にも閣議決定され、実行に移される。

今回は働き方改革に重点が置かれ、副業や兼業を推進する観点から、複数の企業で働いた場合の労働時間の管理ルールの見直しなどを提言した。勤務地や職務内容を限定する「ジョブ型正社員」の権利を守るために、労働条件の書面化を義務付けることも求めた。

骨太の方針や成長戦略が「マクロ」「総論」的な方針を示すのに対して、規制改革の答申は「ミクロ」「具体論」を盛り込むため、既得権を握る業界団体などの抵抗が強い。

2016年9月に設置され、当初は全国農業協同組合連合会(全農)改革などに取り組んだが、後半は小粒のものが目立った。漁業や医療、雇用、投資といった分野での「岩盤打破」を目指してきたが、抜本的な規制緩和には抵抗が強かった。

規制改革会議の存続期間は3年で、今回の答申をもって、現体制は終了することになる。

規制改革推進会議の前身は、「規制改革会議」。1995年の行政改革委員会規制緩和小委員会(座長、宮内義彦氏)からの流れをくむ。

森喜朗内閣で「総合規制改革会議」、小泉純一郎内閣で「規制改革・民間開放推進会議」と名前を変え、議長も宮内氏から草刈隆郎氏へと変わったが、2010年3月に任期満了と共にいったん廃止された。

第2次安倍内閣の2013年に「規制改革会議」(岡素之氏)として復活させたもので、2016年7月に任期満了、解散となった後を受けて「規制改革推進会議」として設立されていた。

安倍首相はかねてから、「アベノミクスの1丁目1番地は規制改革だ」と繰り返し述べてきた。そのうえで、医療、農業、雇用分野を「岩盤規制」だと名指しして、その改革を強調してきた。当初は「国家戦略特区」を使って岩盤に穴を空ける試みが繰り返されていたが、森友学園獣医学部新設を巡って「特区」が批判にさらされたことで、一気に改革姿勢が薄れている。

特区が開店休業状態になったことで、規制改革推進会議に期待が集まったが、3年間の時限組織であることや、一般の審議会と同じで法的な権限が弱いこともあり、十二分の成果が上げられなかった。政府の主要会議体の中で規制改革会議だけが、首相が議長を務めていないのも、政治のリーダーシップを発揮しにくいという事情があった。

焦点は、7月で設立期限を迎える現状の「規制改革推進会議」が、今後どうなるか。安倍内閣自体の改革姿勢が弱まっているという見方もあり、後継組織がどんな位置づけになるかが注目されている。

常設化には抵抗勢力が多い

そんな中で、自民党行政改革推進本部(本部長・塩崎恭久衆議院議員)が6月11日に、「規制改革の新新体制について」と題する提言をまとめ、菅義偉官房長官に手交した。

提言では、「規制改革推進機関の法定化・常設化」と「担当大臣の一元化、規制改革関係閣僚会議の設置」、「改革人材のプールと人事評価への反映」が盛り込まれた。

規制改革推進会議の後継組織を、内閣府設置法18条が定める「重要政策会議」として位置づけ、常設化すべきだ、とした。重要政策会議は経済財政諮問会議などがそうで、そこで決めた方針(骨太の方針)を実行に移す責務を負う。

一方、これまでの審議会と同等の位置づけでは、答申を実行に移す義務感が官僚組織の中では薄い。霞が関は、民間人などがメンバーの規制改革推進機関で決まったことによって政策の手足を縛られるのを嫌うため、法定化には抵抗している模様だ。

常設化については、最終的に閣議決定される「骨太の方針」には盛り込まれる方向だが、法定化は自民党と政府の間で水面下の折衝が続いている。

2番目の担当大臣の一元化と規制改革関係閣僚会議の設置は、これまで規制改革の担当が分散していたものを一本化するとともに、規制を握る各省庁の大臣と「政治折衝」して規制を改革する道筋を付けようというもの。政治主導での規制改革を実現するためには不可欠の仕組みだ。

3番目の人材のプールは、現状の規制改革推進組織には各省庁から出向で官僚が集まっているが、規制改革を進めれば親元の省庁の利益を削ぐことになりかねない。その官僚の人事考課も現状では出身官庁が行っており、改革派の官僚は出身官庁に戻った場合、人事で不利益を被っているケースが多いとされる。規制改革を推進する官僚をプールしたうえで、人事評価を各省庁から切り離すべきだ、というのが提言になっている。

自民党行政改革推進本部がこうした提言をまとめた背景には、「旧来のアナログ時代の規制を新時代に適合させることは急務」だという問題意識があり、「その成否は日本経済の国際競争力に直結する」としている。

新たな規制改革推進組織がどんな形になるのか。安倍内閣の規制改革に向けた本気度を知ることができるだろう。