司法試験と公認会計士試験、明暗分かれた“士業”どちらが生き残るか 抑制か拡大か

現代ビジネスに11月21日に掲載された連載記事です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68567

合格者増が受験者数増をよぶ

いずれも難関な試験で知られる弁護士と公認会計士の試験の結果が大きく明暗を分けた。会計士の合格者が4年連続の増加となる一方、弁護士資格を得るための司法試験の合格者は4年連続の減少となった。合格者数に対する業界の姿勢が反映されている。

公認会計士・監査審査会が11月15日に発表した2019年の公認会計士試験の合格者数は、1337人と前年から32人増えた。2015年の1051人を底に増加に転じ、2012年の1347人以来7年ぶりの高水準となった。

合格者に占める女性の比率は23.6%と、2006年に新試験制度に移行して以降、最高となった。合格者の平均年齢は25.2歳だった。

1999年以降、政府の方針もあって、弁護士や会計士といった専門職の人数を大幅に増やす施策が取られた。

会計士試験も2006年には前年に8.5%の合格率だったものを一気に14.9%に引き上げ、合格者を1308人から3108人に増やした。ところが2008年のリーマンショックを機に、資格を取っても会計事務所に就職できない「浪人」が発生。2010年以降合格率を引き下げ、合格者数を絞り込む流れになっていた。

ところが、合格率が下がると共に、大学生らが試験の難易度が高まったことを敬遠、試験を受ける人の数がみるみる減少した。2010年に2万5648人を記録した願書提出者数は2015年には1万180人にまで低下、1万人割れが目前に迫った。若者の公認会計士離れが鮮明になったわけだ。

これに危機感を抱いた日本公認会計士協会監査法人は、合格者を増やすよう金融庁などに働きかけを始めた。その結果、合格者が増え始めたのである。合格率は再び11%前後になり、受験者数が増加に転じたというわけだ。

女性中心に志望者減少中

これと対照的なのが弁護士業界だ。9月に発表した2019年の司法試験合格者数は1502人と前年の1525人を下回り、4年連続の減少となった。

司法制度改革で弁護士数を増やすことに重点が置かれた結果、合格者数は年間2000人を突破、旧司法試験時代と比べて倍増した。これに対して「弁護士の質が下がった」「仕事がなくなった」と言った批判が噴出。2012年の2102人をピークにほぼ一貫して減少している。

司法制度改革では年間3000人の合格者を謳ったが、2015年に弁護士会が年間1500人にそれを引き下げ、以降、1500人台の合格者数になっている。

合格者数が減ると共に、会計士試験と同じ問題が生じた。出願者数が急速に減少しているのである。2013年まで1万人を超えていた出願者は、減少が続き、2018年には5811人にまで減っていたが、2019年には4930人と遂に5000人を割り込んだ。

弁護士の職業としての人気が一気に落ちているわけだ。中でも女性の志願者が大きく減少しているのが特徴だ。

皮肉なこと1500人の合格者を維持している結果、合格率は2019年は33.6%にまで上昇、3人に1人が受かる試験になっている。合格者数を減らしたことで、むしろ質が落ちるのではないか、と危惧する声も出始めている。

活動の幅が広がる会計士

会計士業界が合格者を増やす方向に舵を戻したのは、現場で人手不足が深刻化していることがある。新規に上場する企業が増え、監査をする会計士が必要になっていることもあるが、コンサルティング業務など、会計士の仕事の幅が広がっていることが大きい。

かつては、会計士資格を取れば、会計事務所に入るのが当たり前で、一生食いっぱぐれのない安定的な職業とみられていたが、最近では資格を持ちながら、企業に就職したり、他の金融系の専門職として働くケースが増えている。つまり、人数が増えたことで、活動領域が広がったわけだ。

資格を取って会計事務所に勤めることが前提だった一昔前は、大学卒業後も浪人して受験を続けるというのが当たり前だったが、その前提が崩れた結果、長期にわたる浪人生活を送る人は減少傾向にある。

2019年の会計士試験の願書提出者のうち約3割は大学や大学院に在学中の人たち。合格率は大学卒業者の9.8%に対して、大学在学中は14.7%とむしろ高くなっている。

つまり、会計士試験の性質が大きく変わり始めているのだ。合格後、何が何でも会計事務所で働くのではなく、様々な分野で働く上で、役に立つ資格という見方が学生の間にも広がりつつある。それが志願者の増加につながっているのだろう。

業界が合格者抑制を主導

一方の弁護士業界は、合格者を増やす方向に舵を戻す様子はない。弁護士資格を保有する人を企業が雇う「企業内弁護士」も増えてはいるが、合格者が減り続ける中で、そうした需要に応えることは難しい。

司法制度改革では、法学部以外の学生でも2年間の法科大学院に進めば弁護士になれる道を開こうとしたが、合格人数を絞り込んだ結果、法科大学院を出てもなかなか弁護士資格を得られないため、進学者が激減。法科大学院の仕組み自体が事実上行き詰まっている。

法務省が11月7日に発表した司法試験予備試験の合格者数は476人と、前年より43人増えて、2011年の試験開始以来最多になった。

予備試験の合格者は法科大学院を修了しなくても、5年間、司法試験を受験できる。本来は経済的な理由で法科大学院に行けない学生の救済策だったが、現状では法科大学院を回避する「抜け道」となっている。学生の間では、予備試験で合格することを「優秀さの証明」と捉える向きも出ている。

危機感から受験者数を増やすことに何とか成功しつつある会計士業界と、頑なに人数を抑え続ける弁護士業界。将来、どちらの業界が発展することになるのか、注目し続けたい。