菅新首相の「携帯料金下げ」は新型コロナ経済対策として有効だ  業者支援ではなく生活支援の視点を

現代ビジネスに9月25日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75888

何に対する期待の高さか

経済危機の真っ只中に誕生した菅義偉内閣への支持率が予想以上の高さを示した。

読売新聞社世論調査では支持率は74%に達し、第二次安倍晋三内閣の65%を上回った。小泉純一郎内閣の87%、鳩山由紀夫内閣の75%に次ぐ歴代3位の高さだそうだ。

では、いったい菅内閣に国民は何を期待し、菅首相は具体的に何をやろうとしているのだろうか。

安倍前首相の辞任表明が突然だったからだろうか。菅氏からは国民に夢を抱かせるような政権ビジョンやキャッチフレーズは出て来なかった。「自助・共助・公助・絆」といったフレーズも目新しいものではなく、「霞が関の縦割り打破」も「デジタル庁創設」も国民にどんな恩恵が及ぶのか、なかなか見えない。

「国民のために働く内閣」という発言には、「いやいや、国民のために働かない内閣なってないだろう」というツッコミがネット上に溢れた。それでも支持率が高いのは「他に適任がいない」ことはもちろん、「実直そうな人柄」が期待を集めているのだろう。

個別政策が出始めたが

「菅さんは個別政策の人。全体像を描くことは得意じゃない」

菅氏を良く知る大臣経験者はこう語る。「女性活躍促進」や「一億総活躍」、「働き方改革」といったキャッチフレーズが先行した安倍首相とは180度違うという。

打ち出す政策に魅力が薄いと考えたのだろうか。それとも菅流というべきか。さっそく「個別政策」がニュースに踊るようになった。「デジタル庁創設」に続いて、「携帯電話料金の引き下げ」、そして「不妊治療の保険適用」といったメニューが上っている。

デジタル庁は仮に創設しても、国民にどんな効果があるのか見えにくい。だが、携帯電話料金の引き下げや、不妊治療への支援は人々の生活に直結する。さっそくテレビの情報番組などに取り上げられ、不妊治療を経験した女性たちへのインタビューなどで、賛成の声が報じられている。

「ライフワーク」携帯電話料金引き下げ

そんな中でも、携帯電話料金の引き下げは官房長官時代を通じて繰り実現を迫ってきた個別テーマだ。菅首相にとっては「ライフワーク」と言っても過言ではない。少なくともそういうイメージを多くの国民が抱いている。

というのも、2018年に「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある」と発言し、ニュースなどで大々的に取り上げられたからだ。それ以来、通信会社間の競争を促すことで、料金を引き下げようとしてきたのだが、実のところ、今ひとつ効果が出ていない。

 

総務省の家計調査(2人以上世帯)の年平均の家計消費支出をみると、「通信」への月額支出は2012年以降2019年まで8年連続で増加している。一方、家計消費全体は伸び悩んでいる。

2019年の平均月額で家計消費総額は29万3379円。このうち「通信費」が1万3591円を占める。割合は4.6%に達しているのだ。消費が頭打ちになる中で、通信料だけはどんどん増えている。通信サービスの多様化もあり、生活になくてはならないものとして、携帯電話を持つ人が増えている。家族でも全員が持つようになってきている。

こうした通信料金負担が家計に重くのしかかっていることを考えると、菅氏が主張してきた携帯電話料金の引き下げは理にかなっているということになる。国民の多くが支持する政策ということになる。

また、この「通信」費を劇的に下げることができれば、新型コロナに伴う経済収縮で大打撃を受けている生活者を支援することにつながる。

コロナ対策としても

実は、ドイツは新型コロナ禍での経済対策として、似たような手を打った。7月1日から半年間の限定措置として、日本の消費税にあたる「付加価値税」の税率を19%から16%に引き下げたほか、食料品などに適用されている軽減税率も7%から5%に引き下げた。

それと同時に政府が財政支出して電気料金を引き下げたのである。ドイツでは電気料金が非常に高く、電気料金の引き下げが生活者への支援に当たると考えられたのだろう。

日本で消費税率の引き下げを野党などが求めているが、同時に通信費を大幅に引き下げることができれば、生活者の支援を行うことができる。仮に通信費を半分にできれば、家計消費の2.3%分を支援できる計算になる。

 

もちろん、だからと言って、通信事業者に補助金を出せば、競争を阻害することになる。家計に通信料の半額クーポンなどを配布し、事業者の選択を個人に任せれば、競争を促した上で、個人の負担を小さくすることが可能だ。

消費税率の引き下げについても、現在8%の軽減税率が適用されている食料品など生活必需品を、思い切ってゼロ%にしてはどうだろう。生活必需品に限った税率引き下げならば、高所得者優遇といった声は出にくいだろう。

一般の税率が10%、軽減税率が0%となると、外食産業などでは一気にテイクアウトやデリバリーへのシフトが進む。店で食べれば10%かかるものが、デリバリーなら0%になるわけだ。新型コロナ対策としてデリバリーなどへのシフトを促す効果もありそうだ。

今後、経済活動の停滞による企業業績の悪化などが一段と深刻になってくるとみられる。菅内閣が打ち出す政策が、経済対策に結び付き、効果を上げていると思われない限り、国民の期待は失望へと変わっていくことになりかねない。