コロナ倒産件数の増加ペースが「とりあえず」目に見えて鈍化 政府の対策が奏功しているが

現代ビジネスに10月8日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76229

 

6月をピークに減少傾向

新型コロナウイルスの蔓延に伴う経済活動の停滞をきっかけに倒産する企業が増えていたが、ここに来て、目に見えて鈍化してきた。政府の支援策が効果を上げているためだと見られるが、このまま倒産は減少に向かうのか。

帝国データバンクが10月6日に発表した「新型コロナウイルス関連倒産(法人および個人事業主)」は2月末から10月6日まで累計で582件となった。破産や民事再生法などが504件、事業停止が80件となった。

業種別で最も数が多いのが「飲食店」の85件で、これに「ホテル・旅館」58件、「アパレル・雑貨小売店」41件と続く。外食したり旅行するなど人の移動が減ったことから大打撃を受けた業界だ。

ところが、この倒産件数を月別に見ると、6月の118件をピークに、7月は113件、8月は96件、そして9月は78件と明らかに減少傾向になっている。緊急事態宣言の解除で経済活動が再開したこともあるが、政府の施策が功を奏している模様だ。

政府の助成効果

政府は売上高が大幅に落ち込んだ事業者を対象に「持続化給付金」を創設、中小企業には上限200万円、個人事業主には100万円が給付されている。10月まで給付件数は346万件にのぼり、4兆5000億円が支給された。

さらに「家賃支援給付金」も設けられ、中小企業など法人に最大600万円、フリーランスを含む個人事業主に最大300万円の家賃補助が一括支給されている。加えて、自治体による休業補償や、全国民ひとり当たり10万円の定額給付金も給付されている。

明らかに、こうした各種の助成が、企業や個人事業の資金繰り破綻を防いでいるのは間違いない。手続きに時間がかかる、なかなか給付金が支給されない、といった問題も指摘されたが、8月以降、資金が行きわたり始めたことが、倒産件数が鈍化し始めた要因だろう。

だが、回復の兆しは見えない

問題は、倒産件数の減少傾向が、今後も続くかどうかだ。当面の資金繰りはついたとしても、事業が黒字にならなければ、いつかは資金が底をつく。

日本フードサービス協会の統計によると、8月の売上高は前年同月比16.0%減と依然としてマイナスが続いている。ファーストフードは洋風が8.2%増加するなど、全体で前年同月の96.6%にまで売り上げを戻した。だが、ファミリーレストランは1年前の75.1%、パブ・居酒屋に至っては半分以下の41.0%とまだまだ回復の兆しはみられない。

多くの飲食店では売り上げが2割も落ち込めば採算ラインを割り込み、赤字に転落する。客数の減少に合わせて、パートやアルバイトなどの従業員を減らすなどコスト削減に取り組んでも、黒字を維持するのは並大抵ではない。

大手チェーンでは、不採算店舗を閉めたり、業態転換する動きが広がっている。前述の日本フードサービス協会の統計では居酒屋の店舗数は前年同月よりも10.3%減っている。中小の飲食店事業者は、とりあえず資金繰りをつないで耐えているが、このまま来客数が増えなければ、時間の問題で経営破綻するというというところが少なくない。

固定費が重い旅館やホテルなど、旅行関連業者も苦しい。観光庁がまとめている「主要旅行業社の旅行取扱状況速報」によると7月の国内旅行の取り扱い額は、昨年7月に比べて78.4%も減少した。

6月の87.9%減に比べれば、いくぶん持ち直したとはいえ、大幅な減少に変わりはない。当然、ホテルや旅館の稼働率も落ち込んでいる。

「GoTo」の危機感

政府は7月から前倒してで「GoToトラベル」を実施したが、壊滅的な状況に陥った旅行業界を早急にテコ入れしないとホテルや旅館の破綻が相次ぐことになりかねない、という危機感があった。

本来、「GoToキャンペーン」は新型コロナが終息した後の、景気回復を促進する手段として考えられていた政策だ。1兆円を呼び水にその何倍もの経済波及効果をもたらすことで、消費を底上げし、経済を回復させることが目的だった。

ところが、あまりにも観光関連産業への打撃が大きく、業界から悲鳴が上がったこともあり、新型コロナの蔓延拡大というリスクを背負いながらも「GoToトラベル」実施に踏み切らざるを得なかったわけだ。

感染再拡大ならまたブレーキ

9月の連休は「GoToトラベル」を利用した旅行者などで久しぶりに満室になる旅館が出るなど、人の移動が活発になった。10月からは除外されていた東京発着も対象に加わり、旅行関連の事業者の期待が高まっている。

また、飲食店を支援する「GoToイート」で、飲食店の利用を促す施策も始まった。こうした政府の支援策がどこまで企業の事業収益を底上げさせることができるのか。

そのためには感染を抑える対策を改めて徹底することが必要だろう。足下では感染者数の増加ペースが比較的安定し、重症者数や死者数が大きく増えていないことから、消費者の危機意識が薄れている。

通常ならば飲食店利用が増える12月に向けて、感染者や死者が急増するようなことになれば、それこそ営業しても客が忌避して入らなくなることも考えられる。

そうなれば、今は何とか耐えている店舗経営の継続を断念せざるを得ないところも出てくることになりかねない。コロナ関連破綻が再び増加に転じないことを祈るばかりだ。