迫る「コロナ大恐慌」にも危機感薄い日本  世界最大「230兆円超」経済対策のおかげ?

ビジネス情報誌エルネオス8月号(8月1日発行)に連載中の『生きてる経済解読』に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。

エルネオス (ELNEOS) 2020年8月号 (2020-08-01) [雑誌]
 

 新型コロナウイルス対策での人の移動の自粛や店舗の休業が、猛烈な経済収縮をもたらしている。日本百貨店協会が発表する全国百貨店売上高は漸減同月比で三月三三・四%減→四月七二・八%減→五月六五・六%減とこれまで経験したことのない売り上げ減少となった。
 また、外食産業の打撃も大きい。日本フードサービス協会の集計では、外食チェーン全体の売上高は、三月一七・三%減→四月三九・六%減→五月六七・八%減となった。その中でも「パブレストラン、居酒屋」は三月以降、四三・三%減→九一・四%減→九〇・〇%減と、休業要請に応じて閉店した影響もあり、壊滅的な売り上げ減少となった。ファミリーレストランも二一・二%減→五九・一%減→四九・四%減と激減した。
 このほか、旅行需要の激減で、航空会社や鉄道会社の売り上げが激減、ホテルや旅館など宿泊業も大打撃を受けている。
 もともと日本の国内消費は昨年十月の消費増税以降、悪化傾向にあったが、そこに新型コロナが追い打ちをかける結果になった。総務省が公表している家計消費支出(二人以上世帯・実質)は昨年十月以降マイナスが続いていたが、三月は六・〇%減→四月一一・一%減→五月一六・二%減とまさにつるべ落としになっている。
 国内総生産GDP年率)は、昨年十〜十二月期はマイナス七・二%、一〜三月期はさらにマイナス二・二%と悪化が続いたが、八月に発表される四〜六月期はさらに悪化する。

 

世界大恐慌以来の経済後退

日本経済研究センターが七月九日に民間エコノミストの経済見通しを集計したところによると、予測の平均は前期比年率で二三・五三%に達するとしている。リーマン・ショック後の二〇〇九年一〜三月に記録した一七・八%を大きく上回り、戦後最悪の経済後退になりそうだ。もはや経済危機として比較できるのは米国で一九二九年に始まった世界大恐慌以来ということになりそうだ。
 問題はこの経済混乱が短期間に収束するかどうか。
 大恐慌リーマン・ショックと今回の新型コロナショックが違うのは、前者が株価暴落など金融システムの崩壊から始まり、預金取り付けから銀行破綻に結びつき、企業倒産、失業へと拡大していった。これに対して今回は、いきなり経済の末端で営業ができなくなり、失業や企業倒産に結び付いていることだ。これが今後、どのぐらい長期化し、最後は金融システム不安に結び付いていくかどうかが焦点になる。企業倒産が相次ぎ、銀行経営が揺らげば、大恐慌の再来になってしまう。
 金本位制だった九十年前には金融緩和によって資金量を増やすことができなかったため、大デフレを招くことになった。だが、その後、大恐慌を教訓に様々な経済政策や金融政策、金融システムの安定策が導入されてきた。今回はそれを総動員して危機を乗り越えようとしているわけだ。
 米国が三月末に早くも議会を通過させて、全国民への給付金支給を決めたのも、多くの人たちが失業して家を追われ国内をさまよった九十年前の教訓だったと言える。失業を産まないことが何より重要だと考えているわけだ。
 日本も米国の動きなどを参考に、大規模な経済対策に打って出ている。四月末の第一次補正予算に続き、六月中旬には第二次補正予算を国会で成立させ、事業規模で総額二百三十兆円を超える対策を打ち出した。
 雇用調整助成金の助成比率を一〇〇%にすることや補償する日当の上限を引き上げること。中小企業や個人事業主に「持続化給付金」を支給すること、さらには家賃補助を行うことなども盛り込んだ。また、大企業から中小企業に到るまで、資金繰りをつなぐための政府系金融機関などの融資拡大や、資本注入に向けた官民ファンドの整備拡充まで、まさに「大盤振る舞い」の対策を打っている。
 安倍晋三首相は六月十八日、国会閉幕を受けて記者会見してこう胸を張った。
 「事業規模二百三十兆円、GDPの四割に上る、世界最大の対策によって雇用と暮らし、そして、日本経済を守り抜いていく」

 

助成金や給付金で危機感が薄い
 実際、霞が関や永田町では、これだけの経済対策を打てば、経済破綻は防げるのではないか、という声が少なくない。年率の成長率がマイナス二〇%減になったとしても、四〇%相当の対策を打つので、穴埋め可能だと考えているわけだ。
 そうした安倍首相の発言を聞いてか聞かずか、経済の先行きに対する日本の危機感は薄い。欧米に比べて大企業の倒産がまだ出ていないうえ、身近で解雇されて失業すると言った事態が広がっていないためだろう。これには企業経営者の行動の違いもありそうだ。欧米企業の場合、収入が大幅に減るなど経営に影響がで始めると、早い段階で人員の削減などリストラに着手する。一方、日本企業の場合、多少の赤字の場合、パートやアルバイトは減らしても、正社員の雇用には簡単には手を付けない。
 また、四月、五月に休業した人件費については、政府が「雇用調整助成金」として補填していることもあり、目先の資金繰りがついていることもありそうだ。
 また、不思議なことも起きている。前述の家計消費の調査では勤労世帯の「実収入」のデータもあるが、五月は前年同月比九・八%も増加しているのだ。定額給付金などがようやく振り込まれたことで、収入増につながったと思われる。
 収入が増える一方、消費は大きく減っているため、その差額が株式市場などに流れ込んでいるという見方もある。米国でも失業保険の収入増などで「ロビンフッド族」と言われるにわか個人投資家が増えて、株価を押し上げているとされる。こうした、実体経済の悪化に反して株価が回復していることも、経済の先行きに対する危機感を削いでいる原因だと見られる。