米中どちらを取れば…世界経済「中国ひとり勝ち」で、日本に「ピンチ」と「チャンス」が同時にやってきた

現代ビジネスに10月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76801

中国GDP「4.9%成長」の衝撃

中国経済の「ひとり勝ち」が鮮明になってきた。新型コロナウイルスの蔓延で世界各国の経済活動が大きく落ち込む中で、いち早く感染を「封じ込めた」中国の経済回復が急ピッチで進んでいる。

中国国家統計局が10月19日発表した2020年7-9月期の国内総生産GDP)は、物価変動の影響を除いた実質ベースで前年同期比4.9%のプラス成長となった。

中国武漢で新型コロナが拡大した1-3月期は6.8%のマイナスになったが、4-6月期は3.2%のプラスに転換、7-9月期は2期連続のプラス成長になった。

米国は10月29日に7-9月期のGDPを発表するが、こちらは前期比年率35.3%と見込まれている。

ここで注意が必要なのは、中国のGDP統計は前年同期比なのに対し、米国は前期比でしかも年率という点だ。ロックダウンで経済が止まった4-6月期のマイナス31.4%という過去最悪の数字と比較しているのだから、当然V字回復となるわけで、「記録的な成長」と言ってもあまり意味がない。

中国同様に前年同期比にすればマイナスで、到底、元の水準に戻るわけではないのだ。

約10年前にも同じ現象が

日本の統計も同様で前の3カ月で比べるなら、4-6月期の実質年率28.1%減だったものが、7-9月期は未曾有の大幅な「成長」になる。だがこれも、前の3カ月に比べればマシということであって、1年前と比べれば経済は悪化していることになる。

つまり、世界の主要国の経済が新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大きく縮小している中で、中国経済だけが膨張を続けているわけだ。

実は、リーマンショックがあった2008年以降にも似た状況があった。金融危機を発端にした世界経済の収縮で、主要国の経済が軒並みマイナスになる中で、中国経済は拡大を続けた。その結果、中国の世界経済における存在感が一気に高まったのだ。

その後、中国は「一帯一路」構想を打ち出すなど、経済力をバックに世界各地への投融資を広げ、それがまた中国の存在感を高める結果になった。

新型コロナでは当初、中国での死者が急増、武漢市などの都市封鎖もあり、中国経済が最も大きな影響を受けたかに見えた。

ところが、その後、新型コロナは欧州、そして米国へと広がり、一気に死者が増加、都市封鎖を余儀なくされた。そのウイルス蔓延は欧米ではいまだに収まらず、スペインなどでは再び緊急事態宣言が出されるなど、経済への影響は計り知れない。

中国が日本最大の輸出先へ

そうした中で、日本も「中国依存」が一気に高まっている。

財務省の貿易統計によると、日本から中国本土への輸出は3月に前年同月比8.7%減と大きく落ち込んだものの、その後、5月は4.0%減、6月は1.9%減と急速に持ち直し、7月以降は大幅なプラスに転じている。9月は前年同月比14.0%増という大幅な伸びになった。

一方、米穀向け輸出は、3月以降8月まで2ケタのマイナスが続いた。5月は48.8%減、6月は46.6%減と凄まじい落ち込みになった。9月にようやくプラスに転じたが、わずか0.7%の増加に過ぎない。

このまま行けば、年間の輸出額は中国向けが米国向を圧倒的に上回ることになる。ちなみに年間の日本からの輸出額は2018年に中国向けがトップになったことがあったが、2019年は中国向け14兆6826億円、米国向け15兆2545億円と米国が最大の輸出先だった。

今年度上半期(4-9月)の累計を見ると、中国向け輸出が7兆4857億円と前年同期比3.5%増加、一方の米国向は5兆4158億円と29.6%も減少した。このままでは年間でも中国向け輸出が米国向けを一気に凌駕し、中国が日本経済にとって一段と重要度を増すことになりそうだ。

では、いったいどんな品物の輸出が増えているのか。

上半期を見ると非鉄金属が63.5%増と大幅に増加したほか、自動車が12.1%増と大幅に増えたほか、重電機器も25.8%増加。また、昨年後半から大幅に落ち込んでいた半導体等製造装置も12.1%増と急回復している。

またとない好機になる可能性も

一方、中国からの輸入は逆に減少傾向だ。中国経済がストップした2月には輸入額は前年同月比47.0%減と半減したが、4月にはプラスに転じた。その後、日本経済が大幅に悪化している影響のためか、7月9.7%減、8月7.0%減、9月11.8%減と輸入が再び減少している。

もともと中国との貿易は輸出よりも輸入の方が大きい「貿易赤字」だが、輸出の増加と輸入の減少によって急速に貿易赤字額は小さくなっている。

巨大な国内市場を抱える中国は、今後も輸出先として重要度が大きく増すことになるだろう。新型コロナの影響で欧州から中国への輸出が減るようなことになれば、日本の輸出企業にとって好機になる可能性もある。

韓国との貿易が輸出入ともに大きく減少、香港向けも落ち込む中で、米国経済の立ち上がりが遅くなれば、一段と中国が日本にとって経済上重要になってくる。

米国はここ数年、ドナルド・トランプ大統領が、世界経済の中で影響力が大きくなる中国への警戒感から、関税の引き上げなど「米中貿易戦争」と言われる強硬姿勢を取ってきた。

大統領選挙で民主党ジョー・バイデン候補が勝利したとしても、米中関係がどうなっていくのかは現段階では読み切れない。

日本は今後、同盟国である米国という安全保障上の存在と、最大の輸出先である中国という経済上の利益の相克に悩む局面が来るかもしれない。