コロナ「第三波」が来ているのに、大企業はなぜ「内部留保」を履き出せないのか  7-9月期の経常利益28.4%減

現代ビジネスに12月3日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77945

運輸・サービス・小売業を直撃

新型コロナウイルスの蔓延による企業の業績悪化が深刻だ。

財務省が12月1日に発表した「法人企業統計調査」によると、全産業(金融業、保険業は除く)の7-9月期の売上高は前年同期比11.5%減少、経常利益は28.4%の大幅な減少となった。

経常減益になるのは、2019年4-6月期以降6四半期連続。企業業績が悪化し始めていたところに消費税率の引き上げが打撃となり、さらに新型コロナ禍が追い討ちをかけた格好だ。

経常減益率は1-3月期の28.4%減、4-6月期の46.6%減、7-9月期の28.4%減と、3カ月連続で2ケタの大幅減益になった。

緊急事態宣言が出されて営業自粛などが一気に広がった4-6月期に比べれば、7-9月期は減益幅が小さくなったとはいえ、企業が深刻な状況に直面していることに変わりはない。売上高が5%減っても利益を確保するのは難しいのに、平均で10%以上の減収になっているのだ。

2020年9月中間決算で日産自動車が2318億円の経常赤字に転落するなど自動車産業の業績が大幅に悪化したほか、ANAホールディングスが航空需要の激減によって2686億円の経常赤字になるなど、赤字企業も続出した。

製造業に比べて非製造業の経常利益の落ち込みが大きいのも特長だ。「運輸業・郵便業」が2四半期連続で赤字になったほか、「サービス業」が54.7%減、「卸売業・小売業」が23.2%減などとなった。人の移動が止まり、航空や鉄道など運輸サービスの需要が激減、飲食店や宿泊業も業績悪化の泥沼から抜けられていない。

しかも、今回のコロナショックでは、大企業よりも規模の小さい中小企業の方が大打撃を被っている。経常利益の資本金別をみると、「10億円以上」が26.2%減に対して、「1000万円から1億円」の企業は35.4%減になるなど、それが鮮明になっている。

余力がない中小企業から人件費削減

焦点は、大幅な売り上げの減少が続く中で、企業がどこまで耐えられるか、だ。

日本企業は巨額の「内部留保(利益剰余金)」を持ち、赤字決算が続いたとしてもすぐに債務超過になって経営危機に直面するわけではない。

増え続けてきた「利益剰余金」は2019年10-12月期末の470兆円をピークに減少し始め、7-9月期末は453兆円まで減少した。減ったといっても前年同期比で3.7%減に過ぎず、本格的に内部留保を吐き出すところまで至っていない。

また、先行き不透明を警戒して、多くの企業が借り入れの増加など動いた。その結果、「現預金」は前年同期比10%増の222兆円に達している。トータルの数字を見れば、企業にはまだまだ余裕があるということになる。だが、実態は合計数字通りではない。

内部留保を手厚く持っているのは大企業が多く、中小企業は余力が乏しい。にもかかわらず、前述の通り、中小企業の方が新型コロナの打撃を大きく受けているとみられる。そうした結果からか、すでに人件費の削減が始まっていて、人件費総額は前年同期比5.0%減っている。

現状ではまだ残業料の削減やボーナスの減額などにとどまっているとみられるが、今後、企業の赤字や大幅減益が続けば、本格的な人員削減などリストラが始まる可能性がある。

こういう時こそ「内部留保」を吐き出せ

総務省労働力調査によると、雇用者全体では新型コロナの蔓延以降、7カ月連続で減少を続けているが、不思議なことに正規雇用者数は6月以降5カ月連続で増え続けている。そのシワ寄せは非正規雇用にいっており、10月になっても前年同期比85万人、3.9%の減少となっている。

飲食店や宿泊業などサービス産業でパート従業員が雇い止めになっているケースが多いとみられる。逆にいえば、規模の小さい飲食店やホテル・旅館などが、パートなど非正規雇用から「リストラ」を始めているということだろう。

政府主導のGoToキャンペーンもあり、10-12月期の経済活動は大きく戻るかに思われた。ところが11月後半になって新型コロナ感染者が大きく増加、それに伴って重症者や死者が増えるなど、新型コロナ危機が再び台頭している。

GoToトラベルから大阪市と札幌市を除外し、東京都の高齢者に利用自粛を呼びかけるなど、経済活動にも急ブレーキがかかっており、企業業績の回復は当面望み薄になりそうだ。

歴史をたどれば、ウイルス感染症パンデミックは、数年で姿を消してきた。ワクチン開発への期待もあり、この状態が3年も4年も続くことはないとみられている。

比較的規模が大きく、財務力の高い企業は、数年後のポスト・コロナ時代がやってくることを想定して、社員の確保などに力を注ぐべき時だろう。

コロナ前にすっかり戻ることはないにせよ、新しいマーケットも生まれるはずだ。企業の内部留保はこういうときにこそ吐き出し、安易なリストラに走るべきではないだろう。