「東証大証来秋合併」で大証株急騰の裏。 大証の60%を持つ外国人が狙う高値売り逃げ

 日本経済新聞が朝刊1面で「東証大証、来秋合併」と報じた7日、上場している大阪証券取引所の株価が急騰した。同日の終値は39万1500円と、前の日の終値36万5000円から、わずか1日で7・3%も上昇した。翌8日は、日経新聞の報道を、他の新聞などが後追いしたこともあり、大証株は引き続き買われた。40万円の大台を2ヵ月ぶりに回復、時価総額も再び1000億円を突破した。

 東京証券取引所大証とも、日経の報道について「こうした内容を当社が決定した事実はない」と発表したが、これはあくまでも形式の話。統合交渉が最終局面を迎えているのは事実だ。7日には、東証の斉藤惇社長と大証の米田道生社長が都内で会談。最終的な詰めの協議を行ったが、同日中に発表には至らなかった。すでに新会社のトップ人事や統合時期、基本的な統合スキームについては合意しており、両社の統合比率を巡って、最終調整が続いている。

長引く合併交渉

 合併交渉がここまで長引き、五月雨式に新聞報道が続くのは異例だ。交渉入りを日経が報じたのが東日本大震災直前の3月10日。それから8ヵ月が過ぎようとしている。

 欧米などの合併では、情報が先に漏れると株価が変動し、統合比率などに影響を与えかねないため、基本的な条件を決めるまで情報管理を徹底するのが一般的だ。大証の場合、株主の60%が外国人で、統合条件をにらみながら、株の売買を仕掛けてくることが十分に予想される。

 統合スキームについて「来年春にも東証が上限付きの株式公開買い付け(TOB)を行い、市場から大証株の過半数を取得したうえで、大証を存続会社として統合する『逆さ合併』の手法を採用することで大筋合意している」(読売新聞)と報じられたこともあり、大証の外国人株主はすでに「TOBを睨んだ動きに出ている」と市場関係者は言う。

 通常、合併合意で株価が上昇するのは、合併によって企業の収益力が高まると考えるからだ。相乗効果による企業価値の上昇である。ところが今回の場合はニュアンスがやや異なる。

 先の市場関係者は、従来からの株主にとってはTOB価格が高くなればなるほど利益が膨らむわけで、TOBが実施される予定の来春に向けて、株価を吊り上げる動きがすでに始まっているのだという。

 TOBの実施に当たっては、長期にわたる平均の市場価格にプレミアムと呼ばれる上乗せがされるのが一般的。金融庁など当局も後押しする両社の合併が頓挫することはまずないと考えれば、実現のためのプレミアムは大きくなる、という見方もある。条件が良くなれば、既存の株主はこぞってTOBに応じ、株を手放すだろう。

 大証の既存株主、とくに外国人株主が、新会社の株式を手に入れたいと思うか、TOBに応じて高値で売り払おうと思うかは、ひとえに新会社の成長性にかかっている。つまり、1プラス1が3になるかどうかだ。

合併だけでは何も生まれない

 では、なぜ今、東証大証が合併するのか。

 答えは、現状のままでは両社ともジリ貧だからである。現物株式の売買に依存している東証は、世界的に見ても取引所としては「負け組」。日本株の売買が大きく落ち込む中で、このままでは未来はない。

 一方の大証も、世界の主流であるデリバティブ(金融派生商品)が収益の中心と言いながら、実態は日経平均先物一本に大きく依存している。東証が持つTOPIX先物大証に統合、大証が持つ現物株を東証に統合すれば効率化できるというが、それに伴って大幅な人員削減でもしない限り、収益力は向上しない。

 海外ではニューヨーク証券取引所を傘下に持つNYSEユーロネクストとドイツ取引所の統合が進んでいるなど、国境をまたぐ再編が続いている。結局、破談に終わったものの、いったんはシンガポール証券取引所がオーストラリア証券取引所の買収で合意していた。新しい地域や分野を取り込むことで成長しようという戦略だ。

 東証大証の合併によって「総合取引所」を創るべきだという声が政府内にはある。もともと、二〇〇六年に安倍晋三内閣が「総合取引所構想」を打ち出した段階では、工業品取引所や穀物商品取引所と、証券取引所との分野を越えた統合を想定していた。

 各省縦割りの規制・権限を撤廃することで、資本市場に新しい息吹を吹き込むというのが本意で、東証大証が合併しても何も生まれない。各省が自らの権益にこだわっているうちに、農水省所管の東京穀物商品取引所も、経済産業省所管の東京工業品取引所も存続不能な状態にまで追い込まれつつある。

 そんな日本の証券市場の現状を見て、大証株を持つ外国人投資家はどんな未来を思い描き、どんな行動に出るのだろうか。日本の資本市場が発展し、新しい取引所会社が大きく成長すると思わない限り、新会社株の取得には動かないのは明らかだ。

 彼らが、現在持っている大証株をできるだけ高値で売り逃げることしか考えていないとすれば、日本の資本市場も末期である。