オリンパスに上場廃止反対論の欺瞞

証券界の大幹部と会ったら、「磯山君がいくら正論を書いたって、オリンパス上場廃止になりませんよ」と言われました。東証にはオリンパス上場廃止するなという猛烈なプレッシャーがかかっているそうです。その大幹部がありがたくも「正論」と指摘した記事は、フジサンケイビジネスアイに月1本書いている1面コラムでした。
産経のウェブにも掲載されていますので、以下再掲します。
オリジナルページ → http://www.sankeibiz.jp/macro/news/111202/eca1112020503000-n1.htm


オリンパスに寛大な処置を求める欺瞞
 オリンパスの巨額損失隠し事件で、同社株を上場廃止とするか、あるいは上場維持を認めるか東京証券取引所の判断に注目が集まっている。過去の決算が損失を隠す粉飾であったことは明らかだ。本来ならば問答無用で上場廃止とすべきところを、不思議なことに躊躇(ちゅうちょ)する声が聞こえてくる。証券取引等監視委員会など金融当局の周辺からも、決算書を訂正すれば課徴金程度の行政処分で済ませていいという声が漏れる。明白なルール違反になぜ厳罰をためらうのか。

 問題を起こしたのは経営者で、上場廃止で株主や従業員が損失を被るのは不当だ、という主張がある。だがこれは上場の意味をまったく理解していない主張だ。株式上場は英語でゴーイング・パブリックと言う。公のものになる、という意味だ。経営者や資本家の個人所有物から、株式を通じて社会の多くの人たちが保有する公器になる。上場企業の経営には、経営者だけでなく、株主や社員なども責任を共有しているわけだ。

 上場廃止でまっ先に損失を被るのは株主だから、株主は経営陣へのチェックを強めることになる。上場廃止制度は企業統治(コーポレート・ガバナンス)を機能させる重要な役割を担っている。

 上場廃止にはもうひとつ大きな役割がある。株式市場の質を保つということだ。投資家を欺く企業は資本市場の敵。それを排除することが取引所の質を維持し信頼を高める。

 今回の問題は海外メディアが大きく取り上げた。もはやオリンパス一社の問題ではなく、日本企業の決算書は信頼できるか、東証という市場はアングラ市場ではないのか、といった疑問が投げかけられている。

 オリンパスは12月14日までに第三者委員会の結論を受けて決算発表を行いたいとしている。その段階で、「監理ポスト」に割り当てられている同社株の扱いを東証が判断することになるだろう。

 東証は株式会社化以降、自主規制法人を別に作り、そこが上場廃止などの審査を行っている。理事会メンバーは5人。理事長の林正和氏は財務省事務次官を務めた天下りで、他の理事2人は東証の生え抜き。このほか、コーポレート・ガバナンスに詳しい久保利英明弁護士と、国際会計士連盟の会長などを務めた藤沼亜起会計士だ。だが、民間人の久保利、藤沼の両氏が正論を主張したとして、役所に頭の上がらない東証出身者は林氏の意向に逆らえないだろう。

 取引所の役割は資本市場を守ることだ。世界の投資家に信頼されることが第一である。上場企業を守ることが第一と履き違えれば、世界の投資家に見放される。東証大阪証券取引所との合併を決めた。規模を拡大して経営の安定を図るのもいいが、取引所の命である市場の質を高める努力こそ大事だろう。(ジャーナリスト・磯山友幸