財務省も困惑する野田内閣「霞が関贔屓の引き倒し」。公務員優遇で国民の怒りが爆発すれば増税シナリオは破綻する

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「ここで公務員優遇だという国民の不満が爆発したら、消費増税などすっ飛んでしまう。民主党はいったい何を考えているんだ」

 財務省の中堅幹部はそう言って語気を荒げた。

 財政再建に向けた消費税率の引き上げが財務省の悲願であることは周知の通りだ。豪腕と言われる勝栄二郎事務次官の政治力もあって、着々と増税に向けた布石が打たれてきた。野田佳彦内閣は「財務省傀儡」と揶揄されるほど、財務省財政再建路線に乗っている。ところがここへ来て、その財務省のシナリオから大きく外れる「悪手」を、野田内閣は打ち続けているのだ。

 言うまでもなく増税には国民の理解が必要だ。国民の多数が諸手を挙げて賛成することなどないにせよ、ある種の納得感の醸成は不可欠であることを、財務官僚は熟知している。だからこそ、増え続ける社会保障費を賄うには、もはや消費税率の引き上げしかない、という認識を国民の間に広げるために「社会保障・税の一体改革」を仕掛けてきたのだ。

 それでも簡単には納得しない国民に訴えるには、政府もギリギリまでムダを削っているという姿勢を示さなければならない。公務員給与の削減や、行政組織のスリム化など、国民に見える"成果"を上げることが不可欠だ、という認識を十分に持っていた。

 財務省のシナリオどおりならば、来年度の予算編成が本格化する十二月には、社会保障・税の一体改革のプランを固めて、消費税論議を盛り上げる一方、自ら身を切るスリム化策を次々に打ち出すはずだった。「そこまで政府がやるのなら、増税もやむを得ない」というムードが国民の間に広がっていなければならない時期だったのだ。

 ところが、野田内閣は次々と「悪手」を打つ。

 最大の失策が「公務員給与削減法案」を成立させられなかったことだ。東日本大震災後の4月に当時の菅直人内閣が公務員給与を10%、3年間削減する方針を打ち出し、復興財源に当てるとした。その後、平均7・8%引き下げる「公務員給与削減法案」が閣議決定されたが、菅内閣での通常国会でも、その後を引き継いだ野田内閣の特別国会、臨時国会でも、成立させることができなかった。

 民主党はねじれ国会による自民党など野党の非協力のせいにしているが、現実にはそれだけの理由ではない。民主党の支持母体である連合は傘下に公務員労組を抱えており、人事院勧告に基づかない給与の引き下げには反対の姿勢だった。

 民主党は「脱官僚依存」や「公務員人件費の2割削減」を掲げて政権を奪取した。ところが、政権交代後は自民党政権時代の公務員制度改革すら事実上棚上げし、霞が関寄りの政策を取り続けている。その最たるものが、公務員給与削減法案の不成立だったと言っていいだろう。

 夏には人事院が公務員給与を平均0・23%引き下げるべきという勧告を行った。ところが野田内閣は、削減法案の7・8%に0・23%は内包される、という論理を展開。人事院勧告の実施も見送った。その結果、年末までに公務員給与は引き下げられず、期末のボーナスが一般行政職の平均で4・1%増えることとなったのである。

 総選挙に向けて連合の支持を失いたくないとはいえ、露骨な「霞が関贔屓」である。そんな霞が関贔屓が国民感情を逆なでしていることは言うまでもない。国民の理解を得て増税に持っていきたい財務省にとっては、ありがた迷惑もはなはだしく、まさに贔屓の引き倒れだった。

 もう一つの失策が厚生労働省が示した年金改革方針だ。現在60歳から支給されている厚生年金は、今後段階的に65歳まで引き上げられることが決まっているが、厚労省がさらに68歳〜70歳に引き上げることを検討していると表明したのだ。社会保障・税の一体改革で年金制度を維持するために消費税増税が必要、という議論を始めようという矢先、年金の支給開始をさらに引き上げるという話が出れば、財務省のシナリオは瓦解してしまう。

 小宮山厚労相は「現在の課題と中長期的な課題をきちんと分けずにお話してしまった」と申し開きをしたが、時すでに遅し。また、物価下落にもかかわらず年金額を据え置いたことで「払い過ぎ」になっている支給額を引き下げる、という話も加わったため、年金受給者の間から「年金削減反対」の声が上がった。

 もう一つ。年内には明らかにされる予定で作業が進んできた行政刷新の公表も、年明けに先送りになった。独立行政法人など行政機関のムダに切り込むことなどが柱と見られるが、これも霞が関の抵抗にあっている。財務省としてはムダに切り込みたい意向だが、連合をバックとする民主党の腰が浮いている。

「いくら勝さんが豪腕でも、国民全体を敵に回して消費税を上げるのは難しいだろう」

 野田内閣の官邸周辺からは、すでに弱気な発言が漏れ聞こえてくる。選挙が近づけば近づくほど、民主党内の「増税反対派」が増えていき、内閣や党執行部でもまとめきれなくなりつつある。国際的な金融危機が静かに広がりつつある中で、「ここで増税に失敗すれば、国債市場の動揺も十分あり得る」だけに、財務省の幹部も焦燥感を募らせている。