7月18日の法制審議会・会社法部会で、会社法改正の要項原案が示されたそうです。「社外取締役義務付け見送り」と大手メディアも報じていました。8月上旬の部会で正式に決定される段取りだそうです。オリンパス、大王製紙と大問題を経て、「社外取締役1人」すら義務付けられないとは情けない限りです。反対論を展開した日本経団連の見識も問われることになるでしょう。ある商法学者と話していたら「これまで規制を緩める改正を繰り返し、規律を強化する方向での改正は18年ぶり。それすらまともにやろうとしない経済界は情けない」と嘆いていました。18日朝にアップした現代ビジネスの記事を編集部のご好意で再掲します。
オリジナルページ→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33031
法務省の法制審議会・会社法制部会での日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)強化にかかわる議論が大詰めを迎えている。昨年起きたオリンパスの巨額損失隠し事件や、大王製紙元会長による巨額資金の私的借り入れ事件もあり、会社法による規律強化策が注目されてきた。
昨年末には「会社法制の見直しに関する中間試案」を公表。「社外取締役の義務付け」などを打ち出したが、経済界の反発で「腰砕け」状態になりつつある。世の関心の移り変わりが激しいこともあり、早くもオリンパス事件も風化しつつある。このままでは、世界を騒がせたスキャンダルから何の教訓も学ばずに幕引きとなりかねない。
日本経団連などが真っ向から反対
現在の会社法制部会は民主党政権に変わった後の2010年2月に当時の千葉景子・法務大臣の諮問によってスタートした。以来、回を重ね、この7月18日で23回目を数える。当初の諮問にはこうあった。
「会社法制について、会社が社会的、経済的に重要な役割を果たしていることに照らして会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から、企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい」とあった。現在、部会はその要綱案を取りまとめる段階に入っている。
会社法改正の民主党政権の本当の狙いがどこにあったのかは不明だ。だが、「幅広い利害関係者」から信頼を得られる「企業統治」「規律」の見直しを求めたのは時宜にかなったものだった。民主党の支持母体である労働組合の代表が委員として、労働組合参加型の企業統治制度なども提案したが、これは早い段階で消えている。
議論の末に、昨年末の中間試案で出てきた改革の1つの柱が「社外取締役1人の義務付け」だった。オリンパスや大王製紙の事件が起きた直後だっただけに、世の中の関心を呼んだのは言うまでもない。会社の経営すなわち取締役会に「外部の目」である社外取締役を入れるというのは、間違いなく企業統治の強化になり、法務相諮問にも合致する。
ところが法務省の事務方が予想した以上に、反対論が巻き起こった。もちろん、規律強化を求める「幅広い利害関係者」からではない。企業の経営者自身からだ。日本経団連などが真っ向から反対したのである。その抵抗ぶりは以前に当コラムでも書いた。そのしぶとい抵抗がどうやら功を奏しつつあるのだ。
法務省が敷く3本の防御線
6月13日に開いた部会で示された「要綱案の作成に向けた検討事項」では、社外取締役の選任の義務付けについて、2つの「仮説」を提示している。1つは「仮に一定の株式会社に1人以上の社外取締役の選任を義務付けることとする場合」、義務付ける企業の対象をどうするかという点。もう1つが「仮に義務付けないこととする場合」である。
そこには例えばとして、「1人以上の社外取締役を選任するものとしつつ、社外取締役を選任しない場合にあっては、その理由を開示するものとする」と書かれている。つまり、社外取締役を選べと法律で書くが、理由を書けば選ばなくてもよい、というわけだ。義務付けのようで義務付けではない「玉虫色」ということだ。
もう1つの例として、「(社外取締役義務付けの)規律を、会社法ではなく、金融商品取引所の規則に設ける」と記載されている。つまり、法律での義務付けは諦め、取引所の規則にするというのだ。
この資料を見れば、法務省が3本の防御線を敷いていることが分かる。①適用対象を限定した会社法による社外取締役の義務付け②適用対象に逃げ道を用意した玉虫色③取引所への丸投げ---である。取引所規則となった場合、新しいルールはできるものの、法律を作る法務省的に言えば「負け」である。
だが、どうやら法務省はその「負け」路線をひた走っているように見える。
オリンパス事件などが起こり、国会でも企業統治の強化が大きな議題になった。民主党も自民党もそれぞれにプロジェクトチームを作り、党としての改革案をまとめている。仮に会社法改正案として国会に提出されれば、与野党が合意の上、法案を修正することも可能だ。つまり、玉虫色で法案を出しても、国会さえその気になれば、義務付けに変えることも可能ということだ。
「経団連の話をよく聞くように」
自民党政務調査会の合同会議が4月1日にまとめた「企業統治改革案について」では、「独立取締役」を複数選任するようにすべきだと述べている。独立取締役は、従来の社外取締役より厳格な独立性を持たせたものと定義している。自民党は法改正による義務付けを求めているのかと思いきや、そうではないらしい。
自民党の文書には「上場会社における複数独立取締役の選任を上場規則で明定すべきであり、それができなければ法律で義務付ける」となっているのだ。つまり、一義的には取引所の定める上場規則で義務化すべきだとしているのである。
法制審議会の委員の中には、取引所のルールでは違反した場合の罰則が弱いなどとして難色を示す人が多い。しかし、自民党が「取引所の規則で」と言っている以上、取引所規則で対応することを前提とした改正法案が国会に出された場合、与野党協議によって、さらに踏み込んで義務付けに修正される、というのはまず考えにくに。
関係者によると、法務省はすでに、東京証券取引所の幹部と接触、社外取締役の義務付けを取引所規則でやってくれ、と打診しているという。
では、取引所の規則に任せるとなった場合、それで企業統治は強化され、規律が働くようになるのだろうか。
取引所は現在、民間の株式会社になっている。ルールを運用する「自主規制法人」を別途設けているが、海外の取引所のように自主規制機関として独立した強力な力を持っているわけではない。独立性は建前で、許認可権をタテに監督官庁である金融庁が口出しし、事細かく「指導」しているのが実状だ。
実際、東証が独自に定めている「独立役員」の規定を強化しようとしたところ、金融庁からストップがかかったという。理由は「経団連の話をよく聞くように」ということだったそうだ。経団連はもちろん、規制強化に反対の立場。その話を聞けというのは、取引所の自主規制権限を「曲げろ」と言っているに等しい。そんな実態を知りながら法務省は会社法での義務付けを見送り、取引所への丸投げでお茶を濁そうとしているのだ。
世界の人々は、日本が相次いだ企業不祥事を受けて、どう対応するのか、静かに見守っている。きちんと反省もできず、抜本的な対策も打てないとしたら、世界の日本の資本市場に向ける目は一段と厳しくなるに違いない。