国の借金1000兆円突破でも過去最高の予算要求 永田町・霞が関にまったく感じられない「危機感」

2020年の東京オリンピックが決まりました。デフレ脱却、経済成長に向けた起爆剤になるでしょう。だからといって、何でもかんでも公共事業で作ればよいという話ではありません。100年後をにらんだ、メリハリのきいた国づくり、都市づくりが必要です。そういう意味で、予算の作り方、おカネの使い道をどう決めるか、仕組みの見直しを考えなければいけないように思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20130321/245368/


 財務省は8月、「国の借金」が今年6月末で初めて1000兆円の大台に乗せたと発表した。「国の借金」は、国債の発行残高と借入金、政府短期証券の合計で、3月末に比べて17兆270億円増えて1008兆6281億円となったという。

 「えっ、まだ1000兆円を超えていなかったの」という向きも多いのではないか。これまで新聞は何度となく「1000兆円突破確実」と書いてきたから、そんな錯覚に陥ったとしても不思議ではない。それが遂に現実のものとなったのだ。

 では、緊急事態かというと、永田町にも霞が関にもそんな危機感はない。財務省は8月30日に2014年度予算の編成に向けた各省庁からの概算要求を締め切った。それによると、一般会計の総額は99兆2000億円で、要求額としては過去最大となった。特別会計に計上する東日本大震災の復興費用と合わせると100兆円を超える。

 2013年度の当初予算は92兆6000億円だったから、一般会計分だけでも7%という高い伸びだ。安倍晋三首相が掲げる経済政策「アベノミクス」に便乗して、要求できるものは何でも要求しておこう、という姿勢が各省庁に蔓延している。国の借金が増えることなどお構いなし。霞が関に危機感などまったくないのだ。

どの省庁も要求したい放題
 どの省庁も言いたい放題の要求になっているが、中でも目立つのが国土交通省の16.3%増。総額5兆8591億円のうち5兆1986億円が公共事業関係費だ。トンネルや橋などインフラの老朽化対策や、大地震に備える巨大堤防の建設、公共施設の耐震化など「防災・減災」が名目だ。

 まだ概算要求の段階だが、自民党から民主党への政権交代が起きる直前に麻生太郎内閣が組んだ2009年度予算で5兆7000億円の公共事業関係費が計上されて以来の予算規模になる可能性がある。アベノミクスでは第2の矢として「機動的な財政出動」を掲げているが、景気対策として公共事業を重視する麻生・副総理兼財務相の影響が大きいことを図らずも示した格好だ。自民党内にも「国土強靭化」を旗印に公共事業の積み増しを求める声は多い。

 農林水産省の要求額も13.6%増の2兆6093億円と高い伸びを示した。アベノミクスでは「強い農業」を掲げて、農地の大規模化などを打ち出しているが、耕作放棄地や飛び地となった農地を集約して大規模化する「農地中間管理機構(農地バンク)」の設立に向けた予算や、農業農村整備事業などの要求を増やした。

 厚生労働省の要求額の伸び率は3.8%と小さく見えるが、これは予算要求額の規模が30兆5620億円と省庁で最大なためだ。増加額で見ると1兆1000億円の増加となる。年金や医療費などの社会保障関連費用の伸びを理由にしている。

 もちろん、これから財務省が要求額を査定して最終的に予算を決めていくことになるが、ここまで概算要求が大きくなると、前年度の当初予算を下回るような「緊縮型」になることは、到底ありそうにない。一方で国の借金が1000兆円を越えたと喧伝し、一方では大盤振る舞いの予算を組むという摩訶不思議な行動に出ているのである。

 では、なぜこのタイミングで1000兆円超えを発表したのか。6月末という期中でもあり、残高にして8兆円くらいならばやり繰りして1000兆円未満に抑えることも可能だったはずだ。それをわざわざこの時期に1000兆円超えとしたのには理由がありそうだ。

 財務省はこれまで何度も「1000兆円突破確実」という予想数値を発表し、新聞にそう書かせてきた。そのタイミングを振り返ってみると面白いことが分かる。

 2011年の秋に「2011年度末には1000兆円突破へ」という見通しを出したが、3月11日に起きた東日本大震災を受けて復興国債の発行と復興増税を議論していた時期に重なる。だが、現実には2011年度末には1000兆円は突破しなかった。

これまで、見込みに反して1000兆円は突破しなかった

 次いで「2012年末(2012年12月末)には突破確実」という発表をした。2012年5月のことだ。この時は消費税増税を巡って民主党自民党公明党の3党合意が佳境を迎えていた。消費税増税法案の審議を前に、このままでは国の借金は大変だ、という必要があったのだろう。だがやはり2012年末には突破しなかった。

 安倍政権の誕生で、大規模な2012年度の補正予算を組むことが決まり、5兆円の国債を増発することとなった。これを単純に上乗せすれば、1000兆円突破は必至だ。財務省は「2012年度末(2013年3月末)には突破するとした。消費税を増税する社会保障・税一体改革関連法は国会を通っていたとはいえ、増税を決める最後の閣議決定が残っている。借金は増え続けます、と危機感を煽る必要があったのだろう。だが、それでも1000兆円は超えなかった。

 8月の発表で遂に1000兆円を越える数字を出したのは、財務省にとって消費増税に向けてできることは何でもする、という事ではないか。安倍首相は来年4月からの税率引き上げをなかなか決断せず、10月に初旬まで先送りしている。一方でアベノミクスの効果によって税収は増えており、「国の借金」も2013年3月末は2012年12月末より減っていた。

 財務省は今、2014年3月末の「国の借金」の総額を1107兆1000億円と推計している。このままでは1年で100兆円も増えてしまう、というのだ。果たして本当か。

 もし、本当に1100兆円を突破するようなことがあったら、財務大臣はもとより、財務次官も主計局長もクビにすべきだろう。なぜか。国の借金の3月末の残高の増加率を時系列に見てみると、2004年度を境に大きな変化がある。

 それまでは毎年増加率が10%を超えることが多かったが、2005年度末に5.9%増→2006年度末0.8%増→2007年度末1.8%増→2008年度末0.3%減と増加率が大きく低下したのだ。小泉純一郎内閣の後半から第1次安倍内閣にかけての構造改革路線が借金の増加を抑えていた。


 麻生首相が予算編成した2009年度の年度末には4.3%増、民主党政権になって以降は、2010年度4.7%増→2011年度3.9%増→2012年度3.3%増と推移してきた。小泉・安倍時代に比べれば増加したものの、それ以前の2ケタ増にはさすがに戻らなかったわけだ。

 では財務省が言うように2013年度末、つまり来年3月末の借金が1107兆円になったとしたら、今年度の増加率はどれくらいになるか。11.6%の増加である。つまり、景気対策の名の下に公共事業をバンバン実施した1990年代後半から2000年代前半の伸び率に舞い戻るということだ。これは自然増などというものではなく、意図的に借金を増やす政策を打った結果だということになるのは明らかだろう。

 こんな「緩い」見通しを出し、「消費増税は不可避」と宣伝されても、本気で借金を減らそうとは考えていないのではないか、と勘ぐらざるを得ない。各省庁も来年4月には消費増税でおカネが入ってくるので、今のうちに少しでも山分けの額が増えるよう要求だけは大きくしておこう、という下心が見え見えだ。

借金残高に反比例する成果主義でも導入しては?

 米国では連邦債務(国債発行)の上限が法律で定められており、上限に達すると強制的に歳出が削減されることになっている。もちろん、これが景気悪化の引き金を引くという懸念はあるものの、国の借金に一定の歯止めがかかっている。日本は赤字国債の発行には国会の議決が必要だったが、政争の具になるというのを理由に2015年まで3年分の赤字発行を容認する法律を通している。

 つまり、借金を減らす努力を促す圧力がまったくかからなくなっているのである。このままでは、せっかく消費税率を引き上げて、仮に税収が増えたとしても、大盤振る舞いで消えてしまい、借金は増え続けることになりかねないのではないか。

 本気で借金を減らそうと思うのなら、借金を一定以上増やした首相や財務大臣、財務官僚の責任が問われるようにしたらどうか。中小企業の社長のように個人で連帯保証をしろとは言わないが、借金残高に反比例して大臣や官僚のボーナスが決まるような「成果主義」でも導入してみたらいかがだろうか。