日本が返せるはずのない借金を重ねる根本原因  予算の膨張をとめる「動機」がない

プレジデントオンラインに9月6日にアップされた連載記事です。オリジナルページ→https://president.jp/articles/-/29885

高齢化に伴う「大盤振る舞い予算」が当たり前に

2019年度に当初予算で初めて100兆円の大台に乗せた日本の歳出だが、今後も増大を続けそうだ。

8月末に厚生労働省がまとめた2020年度予算の概算要求額は、32兆6234億円と、今年度当初予算に比べて2.1%、6593億円増え、要求段階で過去最大となった。政府は「高齢化」に伴う社会保障費の自然増を5300億円と見込んでおり、これを上回る「大盤振る舞い予算」が続くことになりそうだ。

厚生労働省の予算は一般会計の3分の1近くを占め、日本の国家予算の中で最大の割合を占める。要求額のうち30兆5269億円が社会保障費で、年金が12.1兆円と1.2%増、公的医療保険への国費投入が1.6%増の12兆円、介護関連が4.7%増の3.3兆円などとなっている。医療費は健康保険の掛け金で賄われているが、高齢者医療費の負担増などによって、赤字の健康保険組合が増えるなど財政難が続いており、国費を投入する金額が増えている。国民医療費の伸びを抑えることが喫緊の課題になっているが、効果を上げていない。

そうした社会保障費の増加に加えて、厚生労働省は新しい事業のための予算も要求している。政府が打ち出している就職氷河期世代の就職支援や助成金に653億円、最低賃金の引き上げに伴って中小企業が生産性向上に取り組む際の助成や、「同一労働同一賃金」の推進に1449億円といった具合だ。

2020年度予算の「100兆円突破」は確実

他の省庁の概算要求をみても「大盤振る舞い」予算ばかりだ。「国土強靭化」という政府の旗印を頼みにする国土交通省の概算要求額は7兆101億円。2019年度当初予算に比べて18%も多い。公共事業費も20%も積み増して6兆2699億円を要求している。大規模な自然災害が頻発していることが、予算要求を「正当化」している。

北朝鮮を巡って安全保障上の脅威が高まっていることを背景に、防衛省の概算要求も過去最大になった。要求額は5兆3223億円と2019年度当初予算比1.2%の増加。米国からの戦闘機購入などに加え、宇宙空間での防衛体制強化などに向けた予算が積み増される。

8月末に出そろった各省庁の概算要求の総額は約105兆円と過去最大になった。今後、各省庁と財務省の折衝などで圧縮されるものの、2019年度予算の概算要求段階よりも2兆円も多いことから、最終的に決まる2020年度の予算が100兆円を突破するのは確実な情勢だ。

主要国で最悪の「大借金国」がまた借金

大盤振る舞い予算のツケは国の借金の増加に直結する。税収は2018年度に60兆円を超え、バブル期を上回って過去最大になった。とはいえ、100兆円を超える歳出予算を組んでいるため、差額の40兆円は国債発行など「借金」に頼らざるをえない。国債に借入金と政府保証債務を加えた、いわゆる「国の借金」は6月末で1105兆円。一向に増加が止まる気配はない。

借金総額は年間のGDP国内総生産)の200%と、主要国の間で最悪の財政状態になっているとしばしば指摘される。そんな大借金国が、予算をどんどん膨らませていて良いはずはない。

そんな巨額の借金を、今後、日本は返していけるのだろうか。何せ、人口は2008年の1億2808万人をピークに、その後減り続けている。新たに生まれる出生者数の減少は止まっておらず、今後、団塊の世代の死亡率が高まると、日本の人口は急速に減り始める。しかも15歳から64歳の「生産年齢人口」と呼ばれる世代は1995年の8717万人をピークに減っている。

ここ数年は働く女性の増加や働き続ける高齢者の増加によって就業者数も雇用者数も過去最高になっているが、これも今後ピークアウトしてくる。現役就業者が減れば、税金や社会保険料を負担する層が小さくなるわけで、歳入増は見込めなくなってしまう。

欧州並みの「消費税20%」に国民が耐えられるか

財務官僚たちは、国の借金を減らすためには、消費税を含む増税が不可欠だという。10月から財務省念願の消費税率10%がようやく実現するが、それで借金問題が片付くわけではない。欧州並みの20%近くまで消費税を上げなければ、社会保障費は賄えない、という声も聞かれる。

問題は、そうした増税に国民が耐えられるかどうかだ。いわゆる「担税力」である。経済成長率が低く、賃金が増えない中で、税金や社会保険料が増えれば、国民の可処分所得は減る。生活が苦しくなるだけでなく、消費を減らせば、企業の収益が減り、経済にもマイナスに働く。

財務省はまだまだ日本国民には「担税力」があると信じているようだ。毎年2月に財務省が発表する「国民負担率」という数字がある。租税負担と社会保障負担が国民所得のどれぐらいの割合を占めるかを示したもので、実績が確定している2017年度は42.9%と過去最高を更新した。10年前の2007年は38.2%、15年前の2002年度は35.2%だったから、いかに国民の負担が増えているか明らかだろう。

それでも財務省は同時に「国民負担率の国際比較」という2016年のデータを公表。フランス67.2%、スウェーデン58.8%、ドイツ53.4%という数字を示している。まだまだ日本国民の負担率は国際相場に比べて低い、と言わんばかりだ。ちなみに、日本が何かと比較する米国の国民負担率は33.1%と日本の42.8%よりはるかに低い。

大企業や金持ちへの課税強化では解決しない

共産党立憲民主党など野党は、もっと大企業や高額所得の個人から税金を取るべきだ、と主張する。第2次以降の安倍晋三政権が進めてきた法人税率の引き下げに反対しているわけだ。

では、本当に法人税率を引き上げれば税収は増えるのかというとそうは限らない。大企業の場合、国際的な競争にさらされているので、法人税率が上がれば、海外に生産拠点や本社を移すことになりかねない。逆に法人税率を引き下げたからと言って法人税収が減るわけではない。確かに法人税率の引き下げで2014年度の11兆円から2016年度の10兆3000億円まで法人税収は減ったが、その後、企業収益が伸びたため、2017年度は12兆円、2018年度は12兆3000億円と法人税収は増えた。

個人のお金持ちに対する課税強化も同じである。現在、最高税率地方税を合わせて55%。2015年の税制改正で50%から引き上げられた。この税率をどんどん引き上げれば良いと思いがちだが、そうなると海外への移住など資本逃避が起きる。富豪ほど海外移住のハードルは低いので、金持ちほど海外に出ていくということになりかねない。そうでなくても、所得税収は高額所得者依存になっており、税率引き上げで多額の税金を納める高額所得者がいなくなれば、税収は間違いなく減ってしまう。

役人にも政治家にも、予算を圧縮するメリットがない

実際には消費税率の大幅な引き上げなど増税は難しいだろう。安倍首相も「今後10年くらいは上げる必要はないと思っている」と討論会やテレビ番組で発言している。10月の消費増税で消費がさらに冷え込むことになれば、経済対策などにさらに出費され、何のための増税か分からなくなってしまう。

消費増税の負担軽減による景気対策働き方改革への生産性向上支援、国土強靭化、国を守るための防衛費——。いずれも反対しにくい名目で予算は毎年膨らんでいく。大借金を抱えた家庭だったら、まず何をするか。大鉈を振るって支出を減らすだろう。だが、国の予算策定の過程では「減額しよう」という声はかき消され、増額要求だけが残る。

なぜか。概算要求など予算を作る役所や役人にも、最終的にそれを決める政治家にも、予算を圧縮するメリットがないのだ。新規に予算を取ってきた課長は、「力のある課長」と評価され、本人も出世するが、自分の課の仕事を減らし、予算を減らしたら、誰にも評価されない。予算が大きければ大きいほど役所として、官僚としての権限は大きくなる。

政治家にとっても、予算は大きい方が好都合だ。地元の公共事業や企業への助成など、選挙民に喜ばれる。「口利き」はできないにせよ、大臣など政治家の予算配分に対する権力も大きくなるわけだ。

「国家財政が破綻してもいい」という無責任

つまり、霞が関にも永田町にも、予算カットすることへのインセンティブは何もないのだ。まして、国の借金が増えたからと言って、幹部公務員の給料やボーナスが減ることはない。万が一にも国家財政が破綻しても、自分たちの退職金や年金がパーになることなどないと高をくくっている。だから、誰も本気で借金返済など考えないのだ。

一般個人の家だったら、借金を返そうと思ったら、保有している資産を売却して借金返済に充てるだろう。だが、霞が関も永田町の誰も、そう考えない。JR九州が予想外に上場できた際の株式売却益も借金返済には回されなかった。今後行われる日本郵政の株式売却益も借金返済に回されることはない。便利な口実は「復興支援」。誰も反対できない。

だが、こんな予算の膨張も、借金の増大も、どこかの段階で限界が来る。

太平洋戦争中の国の膨大な借金は、戦後の預金封鎖とインフレによって解消した。国家財政が瓦解し、猛烈なインフレになることでしか、日本国の借金削減も国家予算の抜本的な見直しもできないというのが、国の舵取りを考えているはずの永田町や霞が関の幹部たちの本音だろう。