サントリー、武田、損保ジャパン…相次ぐ巨額買収で進む日本企業の「経営のグローバル化」。守旧企業は取り残されていく!

経済のグローバル化が進む中で、否応なく企業は海外展開を進めることになります。アベノミクスによって円高から一転して円安となったことで、今のうちに外国企業を買収しておこう、という企業経営者の判断が増えているのも当然といえるでしょう。潤沢な手元資金を使って1兆円規模の買収を決める例が相次いでいますが、問題は日本企業の経営がグローバル水準に達していないこと。今後、経営のグローバル化が急速に進むと思います。この転換ができない企業は国内市場の縮小と共に衰退していくことにならざるを得ないでしょう。現代ビジネスにアップされた原稿です。ご一読お願いします。オリジナルページ→
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サントリーホールディングス(本社大阪市、佐治信忠社長)は1月13日、米国の蒸留酒メーカー首位であるビーム社を総額160億ドル(約1兆6500億円)で買収することで合意した、と発表した。ウイスキーの「ジムビーム」や「メーカーズマーク」を持つビーム社を傘下に収めることで、サントリー蒸留酒の売上高で一躍、世界3位に躍り出る。

「ラストチャンス」と世界市場へ打って出る内需型企業

このところ、巨額の資金を投じて外国企業を買収する大型M&A(企業の合併・買収)が相次いでいる。昨年末には、1兆5000億円で米携帯電話3位のスプリントを買収したばかりのソフトバンクが、同4位のTモバイルUSの買収に動くとの報道が相次いだ。実現すれば、また1兆円規模の買収となる。

また、買収額は小さいが、12月18日には大手保険グループNKSJホールディングス傘下の損害保険ジャパンが、992億円を投じて英中堅損保キャノピアスを買収すると発表。英ロイズ保険市場で10位の有力メンバーを買収することで、欧米での保険事業を拡大する。日本経済新聞によると、キャノピアスの買収で、損保ジャパンの海外事業の利益は倍増する見通しだという。

1兆円規模の買収と言えば、2011年秋にスイスの製薬大手ナイコメッドの買収を完了した武田薬品工業が記憶に新しい。96億ユーロ(当時のレートで約9990億円)だった。

こうした巨額買収で注目すべきは、主役がいずれも内需型企業の代表格であることだ。酒造、通信、保険、医薬品いずれも1億2000万人の人口を背景にした世界有数の「国内市場」を享受し、安定的に成長してきた。なまじ人口が多いために、長年、国内市場に固執し、国際展開が遅れてきた業界でもある。世界市場を舞台に巨大化したライバル企業との競争から大きく劣後してきたのだ。

そんな「遅れた業界のトップ企業」がようやく世界で戦う決意を固め、勝負に出ている。背景には急速に減り始めた国内人口がある。少子化と高齢化によって、これまでの豊かな国内市場が急速に色あせ、企業規模を維持していくためには海外に打って出るほかなくなったのである。

また、こうした企業の経営者には「円高」はラストチャンスに見えたに違いない。安倍晋三首相が推進するアベノミクスによって為替が大きく円安に動いたことで、円高に打ち止め感が出たことも決断の背中を押している。

M&Aに詳しい弁護士によると、かつては円安になると海外企業の買収案件は下火になったが、今回は逆に増えている、という。これ以上円安にならないうちに、潤沢な手元資金を使って勝負に出ようというわけだ。いよいよ事業のグローバル化に本気になったのである。

日本的経営の仕組みから脱却できるかが成功のカギ

では、このグローバル化は成功するのだろうか。

問題は、経営のグローバル化を進められるかどうかだ。外国企業を買収するのは資金力さえあればできる。だが、買収した企業をうまく経営できるかとなると、話は別だ。

1980年代後半から90年代にかけて、日本の大企業による海外企業の買収が相次いだ。弱体化した米国の製造業などを買収するケースが目立った。だが、今振り返ると、その多くが失敗に終わっている。経営のグローバル化に踏み切れなかったためだ。日本流の独特なやり方を子会社になった米国企業に押し付けたり、子会社は米国人経営者に任せきりにするケースもあった。結果、労働争議が起きたり、不祥事に巻き込まれて「痛い目」にあった日本企業は少なくない。

経営のグローバル化を進めようとすれば、日本の本社の仕組みを国際水準に変えなければならない。工場での製品製造は品質管理など国際標準化が進んでおり、日本企業も遜色ない。一方で、営業の現場や契約の仕方などになると、日本市場の長年の慣行がある。外国企業の参入などが進み、こうした日本独自の慣行もだいぶん薄れてきたが、酒や薬、金融など日本のマーケットがそこそこ大きい業界は、そうした独自の慣行がまだまだ生きている世界だ。

それ以上に問題になるのが、経営の仕組みである。意思決定のルールや経営監視と執行のあり方など、いわゆるコーポレート・ガバナンス(企業統治)の仕組みである。欧米では、ここ20年の間にコーポレート・ガバナンスのあり方が大きく見直され、グローバル企業はほぼ同じ仕組みの上で経営されるようになった。

経営の大方針などを決める基本戦略決定を担う取締役会と、それに従って実際の経営を行う執行役員会の分離が典型だ。ドイツでは前者を監査役会、後者を取締役会と呼んでいるが、機能は欧米ともにほぼ似たものになった。そのうえで、取締役会(ドイツの監査役会)のメンバーの多くを社外から選び、株主の利益だけでなく、従業員や取引先、公共の利益といった様々なステークホルダーに配慮した意思決定を行うことが求められている。米国や英国では取締役の過半数を社外の独立した人物、いわゆる独立取締役を選ぶことが広がっている。

ところが、日本の企業の経営体制は旧態依然。アベノミクスの成長戦略では、社外取締役の導入促進をうたったが、今月末から始まる通常国会に提出される会社法改正案では、社外取締役の義務付けは見送られた。経団連など経済界の一部が強硬に反対したためで、法改正作業の中盤までは「社外取締役1人以上の選任義務付け」が盛り込まれていたが、頓挫した。

「47歳フランス人社長」を選んだ武田薬品の戦略

もっとも、大型のM&Aで外国企業を買収すれば、経営のグローバル化は不可欠だ。1980年代には強い日本企業の傘下に外国企業がぶらさがる形でも何とか経営ができた。日本市場が収益源で、外国企業は輸出の出口といった位置づけだったからだ。

ところが、現在はまったく違う。日本市場が縮小していく中で、企業が成長を続けようと思えば、外国市場で事業展開し収益を上げるほかない。世界市場で闘う、名実ともにグローバルな企業への脱皮が不可欠になっているのだ。

そうしたグローバル企業はもちろん、制度的な義務付けがなくとも、経営のグローバル化に取り組み始めている。

武田は12月、長谷川閑史社長の後任に英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)のフランス人幹部、クリストフ・ウェバー氏を迎える人事を決めた。「買収した海外企業を統治する力量が問われているが、その力がない」というのが、社内の日本人ではなく、外国人を登用した理由だと言う。ウェバー氏は47歳。経営の専門職化が進んでいる欧米ではごく当たり前の人事だが、同業ばかりか、国内の多くの企業経営者から驚きの声が上がった。

武田が外国人社長を選んだ背景には、長谷川社長の強い意志があったという。ただし、長谷川氏が直接ウェバー氏を指名したわけではなく、ここでも欧米流の手順を踏んだ。

長谷川氏ら経営陣が中心になって「ロングリスト」から候補者を絞り込んだが、その結果、数人に絞られた「ショートリスト」からウェバー氏を選任するのは、社外取締役などに任せたのだ。ちなみに「ショートリスト」には、すでに日本人の名前は無かったといわれる。

武田は長谷川社長の下で、すでに経営幹部会議のメンバー9人のうち5人が外国人になっており、取締役会などはすべて英語で行われている。十分な下準備を経てグローバル企業並みの人事に踏み切ったが、それでも社内外の反発は予想以上だという。

欧米のグローバル企業は、本籍地である本国の売上高・利益よりも、海外での売上高・利益の方が上回るケースが多い。とくに北欧の小国やスイスなどの企業は、早くからグローバル化を進めてきた。最近ではドイツやフランス、米国の企業でもグローバル経営が不可欠になっている。1兆円買収で外国企業を買収した武田が、グローバル経営への転換に踏み切ったのは、半ば当然の帰結だったわけだ。

日本を代表する企業が次々と大型買収に乗り出す中で、経営のグローバル化は急速に進むことになるだろう。アベノミクスも経済のグローバル化を後押しするために、「世界で最もビジネスがしやすい国」に日本を変えることを目指している。

社外取締役1人の義務付けにさえ反対する旧来型の大企業が、国際競争の中でどんどん劣後していくことは間違いないだろう。