免税拡充とハロウィン緩和が盛り上げる「外国人消費」

外国人観光客に対する消費税免税範囲の拡大が、売り上げ拡大に直結している模様です。日経ビジネスオンラインに記事を書きました→ http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141105/273439/

外国人旅行者向けの消費税免税制度が10月1日から大幅に拡充された。従来は家電製品など一部の商品に限られていた免税対象を、すべての品目に拡大。さらに、これまでは同一店舗で1日1万円超の買い物が必要だったものを、消耗品については同一店舗で合計5000円超購入すれば免税になるよう改正した。外国人旅行者に人気の食料品や飲料品、薬品類、化粧品が免税対象に加わったことで、外国人による国内消費、いわば「国内外需」の伸びに拍車がかかっている。消費増税の影響が残る国内消費の大きな下支え要因になっている。

 安倍晋三内閣は「観光立国」をアベノミクスの柱のひとつに位置づけている。昨年初めて1000万人を超えた訪日外国人数を2020年までに2000万人に増やす計画を掲げている。政権発足以来、東南アジア諸国に対して、訪日観光客のビザ要件を大幅に緩和するなど旅行者誘致の施策を取ってきた。この10月に始まった免税制度の拡充もそうした誘致拡大策の切り札のひとつとして準備されてきたものだ。経済産業省観光庁が中心になって、免税制度拡充を積極的にPRしている。

 さっそく、制度拡充の効果が表れている。百貨店の中でも外国人旅行者の売り上げが大きいとされる銀座三越の場合、10月の上中旬の免税手続きをした売上高が前年同時期の3倍近くになったと報じられた。まだ、10月の1カ月分の統計数字は出ていないが、かなり大きなインパクトがありそうな気配だ。

日本を訪れる旅行者が急増

 免税範囲の拡大によって旅行者1人当たりの消費額が増えているだけではない。日本を訪れる旅行者の数が急増していることも、「国内外需」を盛り上げている要因なのだ。

今年1月から9月までの累計の訪日外国人数は日本政府観光局(JNTO)の推計によると973万人。前年の同期間を26%も上回っている。円安によって日本への旅行費用が大幅に安くなっていることが引き金だ。
 旅行者973万人のうち、22%に当たる212万人が台湾からの旅行者で、これに韓国(20%に当たる199万人)、中国(18%に当たる178万人)が続いている。中国からの旅行者は2012年の尖閣問題以前のピークをすでに上回っている。

 こうしたアジアからの旅行客の多くが、日本での買い物を楽しみにやってくる。それだけに、すべての商品が消費税免税の対象になった意味は大きい。購買意欲を大いにそそっていることは想像に難くない。都心の百貨店や郊外のアウトレットで、大量の商品を購入しているアジア人旅行者を目にする機会ががぜん増えているのもこのためだ。

 今年4月から消費税率が5%から8%に引き上げられていることもあり、免税による「お得感」は一段と増している。従来の免税対象は、家電製品のほか、着物や服、カバン類などで、消耗品は除外されていた。10月以降、百貨店での化粧品の売れ行きが伸び、ドラッグストアでも医薬品をまとめ買いする姿が増えている。明らかに外国人の国内消費は増加しているのだ。

 こうした「国内外需」の伸びによる日本の国内消費の下支え効果は大きい。日本政府観光局がアンケートなどを基に推計した7〜9月の訪日外国人の日本国内での「旅行中支出」はひとり当たり13万762円。これにツアー代などの旅行前に支払った費用で日本国内の交通費や宿泊費分を加えた「旅行支出」はひとり当たり15万8257円になった。前年同期に比べて12.7%の増加である。

 この1人当たりの旅行支出は、2013年1〜3月の12万8352円を底に増加を続けている。2013年7月〜9月には14万442円と14万円を突破、今年7〜9月は一気に16万円に近付いた。この支出額は免税範囲が広がった10月以降はさらに増加するのは確実な情勢だ。

 旅行者1人が使うおカネが増えているうえに、訪日旅行者数自体が大きく伸びていることで、旅行によって日本国内に落ちるおカネが急拡大しているわけだ。7〜9月の「旅行消費額」の推計総額は5505億円で、前年同期の3899億円に比べて41%も増えている。5500億円を年間に直せば2兆2000億円のおカネが訪日外国人によって落とされたことになるわけだ。

こうした「国内外需」を取り込もうと工夫をこらす動きが広がっている。中国語や韓国語が話せる店員を配置したり、免税制度を解説するポスターなどを作成したりする店舗も少なくない。今回の改正では、1万円超が免税対象になるバッグなどの「一般物品」と合計5000円超が免税になる「消耗品」の2つのカテゴリーができた。それぞれに最低額を超える必要があり、7000円のアクセサリーと3500円の和菓子といったカテゴリーを超えた合算はできず、それでは免税にならない。

高まる地方の期待

 そのため、消耗品だけで税抜きで5000円超になるような組み合わせを作り、「5001円パック」などとして売り出しているケースも出てきた。免税をアピールして旅行者に食料品などを買ってもらおうという戦略だ。

 この免税制度に対する地方の期待は大きい。

 これまでの地方の観光地には外国人旅行者が大挙して訪れていたが、免税対象になる家電製品や宝飾品などを扱う店舗は中核都市が主で、観光地の土産物店などはあまり恩恵を受けていなかった。対象が消耗品にまでひろがったことで、「免税」を売りにして販売拡大を狙う動きが広がっている。地方の観光地などで「Japan.Tax-free Shop」という看板が目に付くようになったのはこのためだ。地方自治体も、新しい免税制度を地域の小売り業の活性化に役立てようと積極的にPRしている。

 4月の消費税率引き上げ以降、国内消費の戻りは弱い。4〜6月期の国内総生産GDP)は前期比年率7.1%減だったが、GDPの6割近くを占める個人消費の落ち込みが前期比5.1%減と7四半期ぶりにマイナスになった。個人消費の落ち込み幅は97年4〜6月期の3.5%を上回り、同じ基準で統計を遡れる94年以降で最大だった。

 7〜9月の百貨店やスーパーでの売り上げを見ると、消費の戻りは鈍い。消費税率の引き上げの影響がジワジワと表れている。そんな中で、外国人旅行者による消費の増加による下支え効果は大きい。

円安で観光客増加に拍車

 日本銀行が10月31日に発表した追加の金融緩和策によって為替相場がさらに円安になっており、一時、1ドル=114円台を付けた。円安による原油やLNG(液化天然ガス)の輸入費用の増大などマイナス面を懸念する声もある。また、輸出企業の採算は改善しているものの、輸出数量はなかなか増えておらず、円安で輸出が増えるという当初の目論みは外れたという指摘もある。

 だが、円安が進んだことで、外国人観光客の増加に拍車がかかるのは間違いない。また、円安が進むことで、外国人観光客からみた日本の商品価格の割安感が一段と高まることになり、「国内外需」はさらに盛り上がることになりそうだ。外国人が国内で品物を買って本国に持ち帰れば、当然の事ながら輸出と同じ効果がある。また、地方の観光地の消費産業の末端にダイレクトに資金が回ることになり、景気の底上げ効果は大きい。アベノミクスの成否を握る「国内外需」がどの程度盛り上がるか。免税範囲の拡大という「切り札」の効果に注目したい。