GPIF運用株式増&日銀追加緩和「合わせ技一本」で消費はもどるか?

10月31日の日銀の追加金融緩和、GPIFのポートフォリオ見直し発表は、計算され尽くした見事なタイミングでの発表だったように思います。現代ビジネスに書いた原稿です。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40988



年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は10月31日、2014年度末までの運用方針の中期計画を変更し、投資配分を定める資産構成割合(基本ポートフォリ)を見直した。

16.5兆円前後が株式市場へ
日本国債を中心とする「国内債券」の割合を60%から35%に引き下げる一方で、国内株式の割合を12%から25%に、外国株式の割合を12%から25%に、外国債券を11%から15%にそれぞれ引き上げた。国債を中心とした運用から株式と債券を半々とするポートフォリオへの転換を明確にしたわけだ。

基本ポートフォリオの見直しは2015年度から始まる中期計画の策定に向けて議論が始まった。だが、「長期的な経済環境の変化に速やかに対応する」(GPIFの発表文)として、現在動いている2014年度末までの中期計画のポートフォリオを見直した。

GPIFの運用資産は127兆円と巨額にのぼることから、投資配分の見直しはマーケットに大きな影響を及ぼす。外国人投資家などを中心に、見直しの行方が注目されてきたのはこのためだ。

国内株式を12%から25%に引き上げられるという方針が、日本の株式市場にプラスに働くのは間違いない。仮に25%を保有するとすれば、現在から13%分を買い増すことになるわけで、追加取得額は16.5兆円に達する。配分割合には「かい離許容幅」が設けられており、国内株式の場合、上下9%とされている。

25%プラスマイナス9%、つまり13%から35%の間の配分に変えていくことになる。来年3月までに一気に25%に引き上げるのは現実には難しいとして、最低線の13%としても1%分、つまり1.3兆円の日本株を買い増すことになるのだ。

さっそく、市場はこれを好感した。10月31日の日経平均株価は755円高と1万6000円台を回復、年初来高値を更新したのに続き、連休明けの11月4日も一時1万7000円台に乗せ、448円高で引けた。もちろん、同時に日本銀行が発表した追加の金融緩和の効果もあるが、中期的にみれば、直接的な日本株への「実需」であるGPIFの資産構成見直しのインパクトは大きい。

外国株式の割合を12%から25%に引き上げるとしたインパクトも大きい。海外の株式市場はこれを素直に好感した。10月31日の米国市場ではNYダウが195ドル高と急上昇、1万7208ドルと過去最高値を付けた。

国内債券処分のマイナスも「合わせ技」で帳消し
一方で、GPIFのポートフォリオ見直しで、マーケットにマイナスの影響を及ぼしかねないのは、国内債券を60%から35%に引き下げるという部分だ。これにもかい離許容幅があり、上下10%ということになっている。最低でも45%にまで保有割合を減らさねばならないが、それでも19兆円の国内債を処分せざるを得なくなる計算だ。

このマイナスを帳消しにしたのが、同じ日に日本銀行が発表した「量的・質的金融緩和の拡大」策である。

マネタリーベースが、年間約80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行うとして、これまでに比べて約10〜20兆円追加する方針を示した。また、資産買い入れについて、「長期国債について、保有残高が年間約80兆円(約30兆円追加)に相当するペースで増加するよう買入れを行う」とした。30兆円という買い増し額は、GPIFによる国債売却を十分に吸収する規模だ。

この2つの発表は、見事に歩調を合わせた発表だったと言ってよい。

もちろん、日銀には独立性があり、政府の指示で政策を決めているわけではない。GPIFの中期計画の見直しは厚生労働大臣の認可事項だが、運用委員会の議論の結果で、大臣が指導力を発揮したわけでもない。だがタイミングは見事。まさに「合わせ技一本」だった。

ほとんどのエコノミストは、日銀がこのタイミングで追加緩和に踏み切るとは見ていなかった。まさにサプライズだったのだ。

国内消費は回復するか?
一方で、10月末とされていたGPIFの基本ポートフォリオの見直し発表も11月末に延期なのではという噂が流れていた。GPIFの三谷隆博理事長は、日銀の追加緩和と同じタイミングでの公表となったことについて、「全くの偶然」とコメントしていたが、「以心伝心」であったことは想像に難くない。

というのも、三谷理事長は日銀理事OBだし、厚生労働大臣塩崎恭久氏も日銀出身で、ともに日銀とのパイプは今も太い。もちろん、塩崎氏は安倍晋三首相に近く、官邸でGPIF改革などを進めてきた世耕弘成官房副長官とも懇意だ。官邸と厚労相、GPIF、日銀が阿吽の呼吸で動いていたのは間違いないだろう。

結果、GPIFによる大量の国債売却が市場の懸念材料になることはなく、日銀の買い増し発表で、国債価格はむしろ上昇した。同時に発表しなかったならば、市場の混乱は乗り切れなかったかもしれない。

為替市場も大きく動いた。10月1日にいったん1ドル=110円台を付けた後、円高方向に動いていたが、日銀の追加緩和を受けて一気に円安となり、7年ぶりに1ドル=114円台を付けた。円安によるデメリットを強調する向きもあるが、輸出採算の改善が企業収益に及ぼす効果は大きい。原油価格が下落していることは幸いしている。為替が円安にふれてもガソリンの高騰などに直結しないからだ。

GPIFの資産構成見直しによって、当面は円高に戻ることはなさそうだ。外国株式や債券がGPIFによって買い増しされれば、大量の資金が海外に向かうことになり、市場に円安圧力がかかり続けるからだ。

日銀による資金供給と国債などの買い入れが増える一方で、GPIFの資産構成見直しによる株式購入が続けば、当分の間、円安株高の傾向が続くだろう。問題はこれで、国内消費などが本格的に回復してくるかどうか。企業収益が給与増や雇用増につながり、消費を押し上げるかどうか。安倍首相が年初から言い続けてきた「経済好循環」が起きるかどうかがアベノミクスが評価を取り戻す試金石になる。