「日本の今」を象徴する大塚家具問題 どちらが勝っても、ガバナンス強化が課題に

ちょっと古くなりましたが、エルネオス4月号(4月1日発売)に掲載された記事です。編集部のご厚意で以下に再掲します。


大塚家具騒動の本質

 父娘で経営権を奪い合う前代未聞の騒動に発展した大塚家具。三月二十七日の株主総会に向けて双方が委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)を繰り広げた。本誌が読者のお手元に届く頃には雌雄が決しているはずだが、問題の本質は何だったのだろうか。
 騒動が表面化したのは昨年七月末。それまで五年間にわたって社長を務めてきた大塚久美子氏(写真)が、突然、取締役会で社長職を解任された。取締役会で解任動議を出したのは実父で会長の大塚勝久氏だったが、当時、解任の理由はほとんど外部に説明されなかった。勝久氏は会長のまま社長を兼務した。
 それから半年。今年一月にはまさかの逆転劇が起きる。取締役会の評決で久美子氏が社長に復帰、勝久氏は再び会長専任となった。後に判明することだが、取締役会の賛否は四対三で、勝久氏と長男で専務の勝之氏らは久美子氏の復帰に最後まで抵抗していた。
 二月に入ると、取締役会の過半数を掌握した久美子氏が三月二十七日の株主総会にかける取締役候補の会社案を公表。そこには勝久氏と勝之氏の名前はなく、過半を社外取締役とする内容だった。新聞などは「勝久会長引退」と報じ、これで事態は収束に向かうのかとみられたが、ここからが騒動の本番となる。
 二月二十五日に突如、勝久会長が会見を開いて、会社側とはまったく別の取締役名簿を筆頭株主として総会に提案していることを明らかにし、カメラの前で久美子社長を強く非難した。その後は双方がテレビや雑誌などで自説を強調するなど対立が続いてきた。
「もう一度社長に戻していただきたい」と訴える七十一歳の会長に対して、「創業者の庇護を離れる時で、ラストチャンス」だとする社長。大塚家具の問題は、これまでもオーナー系企業で繰り返されてきた会社承継の問題が背景にあるのは間違いない。

白熱した委任状争奪戦

 社長側が強調してきたのはコーポレート・ガバナンス(企業統治)の側面。株式を公開した以上、大塚家具は大塚家のものではなく、公開企業にふさわしい体制を敷いていくべきだとした。これに対して会長側は、創業オーナー中心の経営を守り続けようとしているように見えた。
 筆頭株主の勝久氏は発行済み株式数の一八%余りを保有、会長側に付いた妻の大塚千代子・相談役の保有分を合わせて約二〇%を押さえた。一方で久美子氏側は一族の資産管理会社である「ききょう企画」が持つ一〇%弱を押さえていた。さらに、昨年十二月末で一〇%強を持っていた米国の投資会社、ブランデス・インベストメント・パートナーズが会社側、つまり久美子社長を支持することを表明。ここまでの段階では、双方の株数はほぼ拮抗していた。
 焦点は保険会社や銀行などの機関投資家がどちらに投票するかに移った。日本生命保険が六%弱を保有東京海上日動火災保険も三%強持っているとみられていた。このほか、三井住友銀行なども株主だ。一般的には機関投資家は会社側提案に賛成するケースが多いうえ、今回は米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)など議決権行使助言会社も、会社提案(久美子氏側)に賛成する意見を表明していた。そのほかにも、取引先企業など多くの株主がいるほか、個人投資家も一五%程度いるとみられていて、最後の最後まで、どちらに軍配が上がるか全くわからない状態が続いていた。
 三%弱を保有する従業員持株会は通常、会社側提案に賛成するが、今回は会長側の要求もあり自由投票となった。株式を百株以上保有する社員が、持株会の理事長に対してどちらに投票してほしいかを指示する文書を提出する形になったのだ。これも異例のことだが、逆に言えば三%弱を奪い合わなければならないほど、勝負が拮抗していたということだ。

避けられぬ脱オーナー経営

 機関投資家や取引先の法人株主などの支持を得るために、双方が競って経営方針を示したのも興味深い展開だった。二月二十六日に久美子社長が会見を開いて中期経営計画を発表。ビジネスモデルの転換などを示すとともに、年間四十円の配当を三年間に限って八十円に増やす方針を示した。これに対抗して会長側は年間百二十円に配当を増やす方針を表明。しかも三年に限らないということを示唆した。ここだけを見ても、投資家の歓心を買うことに必死になっていたことが分かる。
 ビジネスモデルについて双方の違いがクローズアップされたのは、会員制と広告宣伝費の扱い。大塚家具は店舗(ショールーム)にやってくる顧客に受付で名前や来店目的を聞いて、スタッフが案内するスタイルを長年続けてきた。久美子社長は、旧来のやり方では若い客などが入店しにくいと感じているとみて、都心の店舗などを中心に自由に出入りできる「オープン化」を進めていた。会長流のやり方を否定してきたわけだ。
 広告宣伝費については、勝久会長は店舗に客を呼ぶには新聞広告や折り込みチラシは不可欠だとしてきた。広告宣伝によって客が来店し、売り上げにつながるというわけだ。会長は常々「広告宣伝費は無駄にならない」と発言してきたという。これに対して久美子社長は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを活用したもっと効率的な広告宣伝を行えば、利益は改善すると見てきた。この広告宣伝については真っ向から考え方が違っているのだ。
 こうした経営戦略の違いが強調されたものの、問題の本質はガバナンスのあり方をどう考えるかにある。株式公開企業である以上、いつまでも個人商店型のオーナー経営でいくのが難しいのは当然だ。当初、社外取締役の導入に反対していたとされる勝久氏だが、自らの株主提案でも十人の取締役候補者中五人が社外取締役になっている。「脱オーナー経営」は避けて通れないのだ。
 安倍晋三内閣も、日本企業のガバナンス強化を掲げ、社外取締役の導入推進などを成長戦略の柱としている。大塚家具の騒動は、そうした時代の流れの中で起きた象徴的な事例と見るべきだろう。