「中国」激増、「韓国」を上回る。訪日外国人、主役交代鮮明に

現代ビジネスに掲載した原稿です。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43685


円安によるアジア諸国での空前の日本旅行ブームが続いているが、訪日する外国人の主役交代が鮮明になってきた。

中国からの訪日客数が激増、過去最高を更新し続けている結果、長年、訪日客数でトップを守ってきた韓国が後塵を拝することになっている。日中関係にやや改善の兆しが見える中で、日韓関係が冷え込んだままなことも微妙に影を落としているようだ。

韓国以外、過去最高を更新
日本政府観光局(JNTO)の推計によると、4月の訪日客数は176万4000人と単月としては過去最高を記録した。日本の桜への人気が急速に高まっているうえ、航空便の増発などもあり、昨年4月に比べて43%も増えた。

国別では、中国が前年比2.1倍と「激増」して40万5800人を記録するなど、単月で過去最高を記録する国が相次いだ。台湾、香港、タイ、フィリピン、ベトナムなどアジア諸国に加え、米国やカナダ、英国、フランスも過去最高だった。

そんな中で、4月に単月での過去最高を更新しなかったのが韓国。来日客数が減少しているわけではないのだが、他国の伸びに押されている。4月は30万4600人と2位の台湾(33万5100人)にも抜かれて3位となった。

2012年まで日本を訪れる外国人は、圧倒的に韓国からが多かった。地理的に近く観光客が多いほか、経済関係も緊密でビジネスマンの行き来も多かったからだ。リーマンショック前の2007年には年間260万人を記録。2位の台湾(138万人)を大きく引き離していた。

国家間関係と観光客数はリンクする
そうした傾向に変化が生じたのは2013年から。前年末に安倍晋三内閣が発足し、韓国でも朴槿惠大統領が誕生するなど政治的に大きな変化が生じた。2013年の訪日外客数は韓国が245万人とトップを守ったが、観光客が大きく増えた台湾が221万人と急速に追い上げたのだ。

中国からの訪日客数は2012年9月の尖閣諸島の国有化問題を機に激減。直前の7月には20万4270人の単月最多を記録していたが、11月には5万1993人にまで落ち込んだ。日中関係の冷え込みが、人の行き来にも大きく影響したのである。

ところが2014年に入ると、中国からの旅行者は増加傾向が鮮明になった。昨年11月に安倍首相と習近平国家主席の会談が実現したことで、日中関係に改善の兆しが見えたこともあり、昨年以降は中国旅行客の激増ぶりが顕著になっている。2014年7月には単月の訪日客数が28万人と、一気に過去最高を更新した。

一方、日韓関係は朴大統領が頑なに歴史認識問題にこだわっていることもあり、改善の兆しは見られない。2014年の年間訪日外客数は台湾が282万人でトップとなり、韓国は275万人とトップの座から滑り落ちた。急速に回復した中国は前年に比べて83%増となったが、年間累計では240万人と3位にとどまった。

もっとも、年明け以降の中国人訪日数の激増ぶりは凄まじい。春節の重なった2月には2.6倍の35万9080人が訪れたほか、3月も33万8200人がやって来た。4月は前述の通り、40万人を超えた。

2月以降、3ヵ月連続で中国が国別トップになり、1〜4月の累計でも中国が132万人と、韓国の125万人を上回っている。このままの傾向が続けば、2015年は中国からの訪問客数が韓国を上回ってトップに踊り出る可能性もありそうだ。

韓国からの訪日数が伸び悩んでいる理由
韓国通貨ウォンが対日本円で高くなっていることで、旅行で日本に来た際の購買力は上がっている。

ところが、輸出依存型経済の韓国では、ウォン高がジワリと輸出企業の業績を悪化させており、韓国経済の先行きに不透明感が漂っている。失業の増加懸念から海外旅行に陰りが出ているほか、景気後退で出張などのビジネス客も伸び悩んでいる。

また、昨年発生した韓国フェリーの転覆事故以降、学生旅行などに自粛ムードが強まっていることも影響している模様。さらに、ここに来て、中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスの感染が広がったことから、旅行や出張の自粛などに拍車がかかっているといわれる。

もちろん、韓国からの旅行者が減っているわけではない。4月も前年同月に比べれば57%の増加だった。格安航空会社の路線増加などもあって、人の動きは活発になっているのだ。しかし、圧倒的に人口の多い中国からの旅行者の激増の影に、韓国が押され気味になっている、というわけだ。

韓国からの訪日客数が年間で最高だった2007年の260万人を上回ったのは昨年のこと。2014年は275万人だから6%の増加である。これに対して、同じ期間に中国からの訪日客数は94万人から240万人へと2.5倍になった。台湾からの訪日客も138万人から282万人と2倍になっている。

中国人の個人旅行の解禁など、制度変更の影響も大きいとはいえ、韓国からの訪日客数の伸びは大きくない。2007年以降を見る限り、地理的に最も近い韓国からの訪日数の増加率は小さいわけで、経済関係が思ったほど緊密になっていないことを示している。