現代ビジネスに8月27日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→
https://gendai.media/articles/-/115373
様相一変
真夏の京都は汗をかきながら観光する外国人で溢れ返っている。新型コロナで観光客が激減していた昨年とは様相が一変した。日本政府観光局(JNTO)が発表した2023年7月の訪日外客数(推計値)は232万600人。昨年7月は14万4578人だったから16倍に増えたことになる。
だが、今年は4年前と大きく状況が違っている。2019年7月の過去最多を牽引していたのは中国からの訪日客で、105万人あまりが訪れていた。もちろん国別では中国がダントツの最多だった。それが今年は中国からの訪日客は31万3300人。最多の韓国の62万6800人の半分、2位の台湾(42万2300人)より10万人も少ない。新型コロナウイルス対策で旅行を制限していたことが大きい。
仮に中国から4年前並みの100万人が日本を訪れていたとしたら、300万人を超えていた計算になり、「過去最高」ということになる。つまり、中国要因を除けば、実質的に訪日客は過去最高水準にあるというわけだ。
中国の解禁
その中国が、ここへきて、8月10日から日本への団体旅行を解禁した。これで中国人観光客が急増すれば、名実ともに訪日客が過去最多を更新する日が来ることになる。年間の訪日客数で過去最多だったのは2019年の3188万人。当初は2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックの効果で2020年に4000万人を呼び込む算段だったが、新型コロナの蔓延で夢に終わった。
今年2023年は前半が新型コロナによる入国規制が続いていたので、いくら訪日客が殺到しても2600万人から2700万人がせいぜいと言ったところ。今後の焦点は2024年に年間で3188万人を超え、過去最多を更新するかどうかだ。そのためには、2019年に959万人だった中国からの訪日客が1000万人をどれだけ超えてくるかがカギを握る。
大の日本好きが多い台湾は人口2357万人(2020年)。2019年の年間訪日客はのべ489万人だった。単純に計算すれば国民の5人1人(20%)が日本にやってきたことになる。一方で中国の人口は14億人。台湾の10分の1の2%が日本を訪れたとして2800万人、20分の1の1%でも1400万人に達する。
もちろん、中国人観光客は日本国内での「買い物」の消費額が他の国の人々に比べて大きいという点もあり、インバウンド消費に弾みがつくとして期待する声もある。
なんたって「円安」
かつては観光地は中国人観光客の姿が圧倒的だったが、最近は欧米人の姿も多いほか、東南アジアの国々にも広がっている。東南アジア諸国に対してビザ発給要件を緩和したことなども日本旅行ブームに火をつけた一因だが、なんと言っても大きいのが「円安」である。
円が弱くなったことで、アジアからの旅行客から見ても、日本の旅行費用は「格安」になった。また、世界の美味しいものが、おそらく世界で最も安価で気軽に食べられるのが、今の東京に違いない。今後、日本の物価も急速に上昇していく可能性があるが、海外旅行客にとってはまさに「バーゲンセール」状態になっている。中国人観光客が戻ってくれば早速お金を落としてくれるに違いない。
こうした円安による「内外価格差」の拡大で、割安感が増した日本の観光地の高級ホテルや高級レストランなど、外国人観光客の割合が高いところは、一気に価格を引き上げている。高級ホテルの室料の値上がりは特に著しい。それでも外国人から見れば割安と感じているようだ。価格を引き上げることで、従業員の給与も引き上げ、より良いものやより良いサービスを提供する「高付加価値化」につなげるのだとすれば、それは戦略的に正しい。
貧しい日本人
だが、一方で、給与の上がらない業種や企業で働いている日本人にとっては、国内にありながら高級店が雲の上の存在にどんどんなっていく。貧しさを痛感することになる。
そんな貧しくなった日本人の行動を表していると見られるのが、同じJNTOがまとめている「出国日本人数」だ。7月は89万1600人。増えてきたとはいえ、2019年7月の165万9166人の半分ちょっとに戻しただけの水準である。円安が逆に日本人の海外旅行ブームに水をかけているわけだ。
新型コロナ前は、訪日客も増え、出国日本人も増加するという世界的観光ブームの様相を示していたが、今は日本人の海外旅行はまだまだ戻りが鈍い。円建ての航空券価格が以前に比べて高止まりしていることに加え、円安によるホテル代や飲食費などの滞在費の増加で、割高になった海外旅行を敬遠している面が強いのだろう。
2019年に2000万人を超えていた出国日本人数が、それを超えて過去最多を更新するのはいつになるのだろうか。