あきれた東芝!存亡の危機に瀕してなお「長老支配の強化」に乗り出すとは 大赤字に紛れて、驚くべきことが発表された

人は歳をとると自分だけは別格だと思うようになってしまうのでしょうか。80歳を過ぎて日本郵政の社長にしがみつき、東芝は相談役を“辞任”しても「名誉顧問」に就く。しかも、部屋付き、秘書付き、車付き。「形」を作って「魂」を抜く東芝コーポレートガバナンスは、結局のところ何も変わっていないのではないか、と思ってしまいます。現代ビジネスにアップされた拙稿です。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47833
個室も秘書も車も付く待遇

粉飾決算の後始末に追われる東芝は2月4日、今年度(2016年3月期)の最終赤字が7100億円に拡大する見通しだと発表した。もちろん過去最悪の赤字決算である。このままでは自己資本が1500億円程度になってしまう見通しで、債務超過へ転落寸前。まさに存亡の危機に立たされている。

そんな大赤字の発表に紛れて、驚くべきことがしれっと公表された。社長、会長を歴任していまも相談役を務める西室泰三氏を「名誉顧問」に据えるというのである。

東芝では歴代の社長が相談役として残り、社長を上回る権力を持ち続けていたことから、コーポレート・ガバナンス(企業統治)上、問題が大きいと批判されてきた。これを受けて昨年夏に就任した室町正志社長が「相談役」を廃止する意向を示していた。

西室氏は昨年末で80歳。東芝の内規では今年6月末の株主総会で相談役の任期が切れることになっていた。その後は「特別顧問」に就任するのが既定路線だった。

室町社長は「公約」を果たすために相談役制度を今年6月に廃止する方針を4日に発表した。現在の相談役は西室氏と元会長の岡村正氏の2人。そのまま東芝との縁が切れるのかと思いきや、2人そろって「名誉顧問」に就任するという。名誉顧問は特別顧問の名称を変えただけで、個室も秘書も車も付く。

記者会見では、報酬については回答を控えるとしていたので、報酬も払っているのだろう。無報酬なら胸を張って無報酬と言うものだ。

岡村氏は6月に名誉顧問になるが、西室氏は3月に就任するという。というのも西室氏自身が昨年末の日本郵政の記者会見で「私の任期は来年6月までありますが、そこまで続けるつもりはありません」と大見得を切っていたからである。制度がなくなるわずか3カ月前に「辞任」した格好だけ付けるということだろう。

イヤな予感が的中した

同じ会見で西室氏はこうも言っていた。

「最近、東芝の話をすると老害だと言われます。相談役というのはマネジメントからの話を聞くというものですが、相談がないので…。私のほかに相談役の方もいますし、特別顧問もいますが、会社には全部一回ご破算にしたらどうかと内々に話しています」

この短い答えの中でも、「相談がない」のに「内々に話して」いることを自ら認めている。相談役制度や特別顧問を「ご破算にしたらどうか」と言っておきながら、自らは特別顧問と同等の「名誉顧問」を引き受けたわけだから、ご自身はあくまで「別格」ということなのだろう。ちなみに名誉顧問は経営とは一線を画すとし、東芝の役員とは別のフロアに部屋を設けるという。

巨額の粉飾が明らかになって歴代3人の社長が退任した後の新体制づくり、つまり今の室町体制を決めるに当たっても西室氏の影響力が大きかったと言われる。

昨年7月の日本郵政の定例会見。東芝の経営について聞かれた西室氏は、「(経営刷新)委員会を設置する。責任者は東京理科大の教授である伊丹(敬之)先生にやっていただく。社外取締役であるし、会社のことはある程度分かっている」と、自らが決めたことのように滔々と語った。もちろん、東芝が正式に発表する前の段階でのことだ。

田中久雄社長が辞任した後、社長を兼務していた室町氏は、体制刷新を機に自らも辞任することを考えていたとされる。その室町氏を引き留めたのも西室氏だといわれる。西室氏がどこまで口を出しているかは別として、東芝社内で権力を掌握するためには「西室天皇」の後ろ盾が必要というムードが満ち満ちているのだ。

現職の社長よりもOBが「格上」である東芝の長老支配は、なぜ続いてきたのか。実はその体制は西室氏が作り上げたものだ。昨年9月に本欄http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/45188で指摘したが、その時の「イヤな予感」はどうやら的中した

西室氏は魂を抜いた張本人である

東芝が「委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)」に移行したのは、2003年6月のこと。当時、西室氏が会長、岡村氏が社長だった。日本に欧米型のガバナンスの制度が選択制で認められた時で、真っ先に東芝はこれを採用したのだ。

本来はこれで「監視」と「執行」が分離され、ガバナンスの機能が高まるはずだったが、実際には社外取締役らの監視は機能せず、今回の不祥事につながった。

実は、この時、東芝が導入した委員会設置会社制度は、「形」は作ったものの、巧妙に「魂」が抜かれていたのである。その魂を抜いた張本人が西室氏であることは間違いない。

委員会設置会社の「肝」は指名委員会だ。指名委員の過半数社外取締役にすることが法律で求められており、社長をクビにする権限をこの委員会が握ることになる。このため、日本企業の多くが委員会設置会社への移行をためらったが、東芝は見事に「指名委員会」を骨抜きにしたのである。

いや、骨抜きにするどころか、社長から権限を奪う「会長支配」を確立したのである。これまで、東芝の指名委員会は取締役会長と社外取締役2人が務める形が続いてきた。そして、社外の委員には学者や官僚OBなどを据えたのである。社外が過半数の形ではあるが、社長経験者の会長が人事を牛耳ることになるのは明らかだった。

西室会長、岡村社長の時代、この指名委員会を握った西室氏が権力の源泉である「人事権」を持つことになったのである。

2005年に西田厚聰氏が社長になった時、人事権は前任者の岡村氏ではなく、西室氏が握っていた。つまり、今回、巨額粉飾の責任を問われ、会社からも損害賠償を請求されている西田氏を選んだのは西室氏だったわけだ。今問題になっている米原子力子会社ウエスチングハウスの買収は2005年から2006年にかけて。西田社長時代のことと思われがちだが、背後に西室氏が権力者として君臨していたのは間違いない。

西室氏は今回の不祥事にまったく関係がないという顔をしているが、最低でも西田氏の任命責任は免れないのである。

2005年に会長になった岡村氏はようやく指名委員会の委員となり、人事権を握る。やはり損害賠償の対象になっている佐々木則夫氏を社長に選んだ責任があるのである。

長老支配が続く

ちなみに、今回の不祥事が起きる直前まで、指名委員会に名前を連ねていたのは会長だった室町氏と、中国大使を務めた元外交官、それに一橋大学教授を経て東京理科大教授を務める伊丹氏だった。

現在の室町体制では指名委員会は社外取締役5人で構成するように変わったが、そこには伊丹氏も含まれている。社外取締役として巨額粉飾を見逃してきた人物が、今も指名委員会という「肝」を握り続けているのである。

現在、東芝の取締役会は社内4人、社外7人で構成される。従来なら権力者だった「会長」は置かれず、代わりに「取締役会議長」が置かれた。資生堂の会長を務めた前田新造氏だ。だが、前田氏が権力を握っているわけではないことは、東芝のホームページを見れば一目瞭然だ。

取締役のトップには室町氏の名前があり、前田氏は社外取締役の一番下である。「取締役会議長」という肩書きも、名前をクリックしなければ出て来ない。おそらく、西室氏を「名誉顧問」にする処遇を決める案件も、前田議長が主導して決めたものではないだろう。

過半数社外取締役が占めるという“最先端”のコーポレートガバナンスの「形」を作って見せた東芝。どうやら今回も「魂」を吹き込むことはせず、伝統的な長老支配の「体質」を温存することになりそうである。