【高論卓説】「家庭養育原則」どう実現するか

12月28日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/macro/news/171228/mca1712280500002-n1.htm

■養親、里親、小規模ホーム…支援手厚く

 親からの虐待にあった子供や、望まない妊娠によって生まれた子供など、親元で育てることができない子供を、どう社会全体で育てていくか。厚生労働省の検討会が8月にまとめた「新しい社会的養育ビジョン」を具体的な政策に落とす作業が、厚労省社会保障審議会の「社会的養育専門委員会」で本格化する。

 2016年に改正された児童福祉法は、この分野に関わる人たちの誰もが「画期的」という内容だった。1947年の法制定後初めて理念にかかわる改正が行われ、子供は誰もが健全に育てられる権利を持つという「子ども権利条約」の精神が取り入れられたからだ。改正法には「(子供の)最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成」するよう努めると明記された。

 その上で、実の親から子供を離して養育する場合でも、できるだけ家庭と同様の「良好な家庭的環境」で養育すべきだと改正法で規定された。欧米先進国では一般的になっている「家庭養育原則」を日本でも明記したわけだ。

 その中でも重視されたのが特別養子縁組だ。実の親との法的な関係を断って、新たな親と法的な親子関係を構築するもので、子供は養親の下で実の子として育つ。日本では年間500人ほどと、まだまだ数が少ないが、「ビジョン」では、これを5年以内に1000人以上に増やしていこうということが盛り込まれた。

 特別養子縁組が難しい場合には、里親の元で暮らすことが奨励され、里親への包括的な支援体制の強化などがうたわれている。施設に入所させる場合も、小規模な「ファミリーホーム」とし、家庭的な環境で育てることを求めている。

 児童養護施設は、相部屋で集団生活をする「大舎」と呼ばれる施設がまだまだ多数を占めている。日本では、親から離れて暮らす子供たちの多くが18歳までそうした児童養護施設で暮らしてきた。改正児童福祉法ではこうした大規模な施設を「家庭的環境」として認めておらず、大舎を小規模化していくことが求められている。小規模化はこれまでも施策として進められてきたが、これを本格化する必要が出てきたのだ。

 「ビジョン」では就学前の子供について「原則として施設への新規措置入所を停止する」と明記したこともあり、児童養護施設関係者の間に動揺が走っている。専門委員会では、大規模施設をファミリーホームなどに分散・小規模化していくか、そのための財政援助をどうするかといったことも大きなテーマになっている。

 もともと安倍晋三内閣は「児童虐待の防止」に力を入れており、その柱が児童福祉法の改正だった。日本では親から離して養育している子供の数はドイツやフランスの3分の1以下で英国と比べても3分の2だという。人口比でみれば、日本は極端に少ないことになる。家庭内で虐待されているにもかかわらず、児童相談所が把握できなかったり、把握していても対処できていなかったりする子供が、まだまだたくさんいることをうかがわせる。具体策を決めていく専門委員会での議論を見守りたい。

【プロフィル】磯山友幸

 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。55歳。