迷走のカジノ法案、いったい何がやりたいのかまったくわかりません 政府は日本人を制限、業者は日本人狙い

現代ビジネスに2月28日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54640

早くも始まった迷走
今国会に提出されることになっている「統合型リゾート(IR)実施法案」、いわゆるカジノ実施法案を巡って、つば競り合いが続いている。

政府がカジノを解禁する場所を全国3カ所に絞る方向で調整してきたのに対して、自民党などは誘致を希望する各地方自治体の要望を受け入れ、設置を4カ所以上に認めるべきだとしている。

一方で、公明党など与党内からもギャンブル依存症などを懸念する声が上がり、実際にカジノを開設する場合には相当管理が厳しくなる見通しだ。入場料の引き上げなどで日本人の入場を事実上制限することも検討されている。

何のために日本はカジノを解禁しようとしているのか。カジノを使ってどんな「客」を集めようとしているのか。カジノ解禁に向けて迷走が始まっている。

2016年度に成立したIR推進法。正式名称は「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」といい、カジノを中心にホテルや会議場、劇場やテーマパーク、商業施設などを一体的に整備する「統合型リゾート(Integrated Resort:IR)」に関する基本法

この法律でカジノを解禁することが決まったが、具体的にどんな管理体制やルールの下でカジノを開設するかなどは、今国会に出される法律で定めることになっている。

乱立の兆し
法律に盛り込まれる基本的な概要として、国内に何カ所のIRを認めるかがある。自治体が申請して国が認定する仕組みだが、実際のカジノは国の監視の下で民間事業者が運営することになっている。

事業者からすれば解禁される場所が少ないほど競合相手がなくなり、カジノ目当てに訪れる観光客を集めることができる。一方で、認可される場所が増えれば、集客効果はその分落ちることになりかねない。

地域活性化に向けて外国人観光客の集客を狙う地方自治体にとっては、カジノを何とか手に入れたいところだが、できれば周辺にはできず地域の中で独占的な位置付けになることを狙っている。

国は当初、東京や横浜、大阪などに絞って認可する方向だったが、地域からの要望を受けた自民党の抵抗もあり、4カ所以上に増やすとの見方が強まっている。北海道の複数の自治体や、愛知、徳島など、全国で30を超す自治体がIR誘致を検討しているとされる。

もともと日本でのカジノ解禁には海外のカジノ運営会社の働きかけがあった。日本はパチンコ産業などを含めて世界有数の「ギャンブル大国」とみられており、カジノ運営会社が日本進出を水面下で働きかけていた。

2020年の東京オリンピックパラリンピックに間に合うようにIRを建設するというのが当初の海外勢の目算だったが、法律成立が遅れたこともあり、オリンピック前の開業は難しい情勢だ。

それでも米ラスベガスの大手IR運営会社であるシーザーズ・エンターテインメントやウィン・リゾーツ、MGMリゾーツ・インターナショナルなどがカジノ解禁に合わせて日本進出を狙っている。

確かにカジノは極めて収益性の高い事業で、その利益をベースにホテルや国際会議場、劇場やショッピング・アーケードなどを複合的に経営しようというのがIR。

IRの目玉はカジノだが、カジノさえあればIRが成り立つわけではない。海外のIR大手のノウハウは、日本でIRを実現していくうえでも不可欠になるだろう。

日本人には入場制限
一方で、カジノに対する国内のアレルギーも強い。野党だけでなく公明党など与党の一部からもギャンブル依存症の広がりを懸念する声が上がる。法律に盛り込まれる規制でもかなり厳しい要件が盛り込まれる見込みだ。

その1つが「入場料」問題。ラスベガスなどは無料でカジノに出入りできるが、シンガポールは自国民に入場料を科している。

日本でも海外からの旅行者は無料だが、日本人からは1日ごとに入場料を取る方針。政府は当初、1日2000円を徴収する方針を占めしていたが、さらに引き上げるべきだという意見が出ている。

また、入場できる日の上限も設ける方針で、1週間に3回、1カ月に10回を上限とするという案が出されている。

シンガポールはカジノを観光客向け、特に中国大陸からやってくる観光客にお金を落としてもらうことを狙っており、自国民には厳しく制限している。

日本のカジノ解禁も観光客誘致が目的とされているが、進出を狙うカジノ大手のターゲットはあくまでギャンブル好きの日本人であり、規制を強化することには強い抵抗がある。

IRを誘致したい自治体側にも様々な思惑がある。外国人観光客増加の切り札として期待しているが、カジノから上がると予想されている高額の税収にも魅力を感じている。

確かに、中国人観光客の一部はカジノを目当てにラスベガスなどに出向き、VIPルームで巨額の賭博を行っている人たちもいる。

だが、カジノだけが目的ならばマカオや韓国、シンガポールなどにすでに存在しており、ラスベガスなどに行けば本格的なIRが存在する。中国人などアジアの観光客が、日本にわざわざカジノをやるために訪れるのかどうかは疑問符が付く。

そもそもラスベガスなどでもIRのカジノ依存度はどんどん小さくなっている。

カジノの収益率は高く、その収益をテコにホテルなどの宿泊施設や巨大な国際会議場、劇場、テーマパーク、商業施設、ブランド店、レストラン、フードコート、スポーツ施設などを総合的に整備し、一体的に運営している。

米国人でもカジノを主目的にラスベガスを訪れるのではなく、会議や観劇などに訪れるついでにカジノもやるというスタイルに変わっている。

IR誘致に手を挙げる自治体は、いったいどんな人々をどこから誘致しようとしているのか。全世界から賭博好きを集めて、おカネさえ落としてくれれば良いのか。

自分たちの地域の特性や優位性をカジノやIRによってどう磨くことができるのか。もう一度考えてみるべきだろう。