カジノは観光立国の切り札になるか 「統合型リゾート法」に企業が熱視線

月刊エルネオス10月号(10月1日発売)に掲載された連載コラムの原稿です。エルネオス→http://www.elneos.co.jp/


カジノで成功したシンガポール
 カジノ解禁をめぐる議論が佳境を迎える。六月に閉幕した通常国会で審議入りし継続審議となった「統合型リゾート推進法案」が、この臨時国会で本格的に議論される見通しだ。自民党日本維新の会議員立法として提出しているもので、これまで日本で禁止されてきた「カジノ」の解禁が盛り込まれている。カジノに対する国民のアレルギーは根強いが、超党派の議員でつくる「国際観光産業振興議員連盟」の議論では、カジノを中心とする統合型リゾート(IR)が国際的な観光客誘致の切り札になるとしている。
 統合型リゾートとは、米ラスベガスなどで広がっている業態で、カジノを中心にホテルやレストラン、ショッピングモール、国際会議場、劇場などを併設した大型リゾート。カジノから上がる収益を基礎として複合施設への設備投資などを行う。カジノ目当てばかりでなく、さまざまなエンターテインメントを目的にやってくる観光客を引き付ける。最近では、Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(招待旅行)、Conference(国際会議)、Exhibition(展示会)の頭文字をとったMICEと呼ぶ事業の拡大が目立つ。
 ラスベガスには年間四千万人が訪れるが、年々、カジノの収益の割合は低下している。一九八〇年頃までラスベガスの収入の六割はカジノが占めていたが、現在は非カジノ収入が大きくなり、カジノからの収益は三割を下回っているという。実際、ラスベガスでは、シルク・ドゥ・ソレイユなどのショーや、ボクシングなどのスポーツイベントを目当てにやってくる観光客が増加。まったくギャンブルをやらない女性なども大きく増えている。
 こうしたIRの建設によって観光客を誘致しようという戦略が世界に広がっている。最近の成功例はシンガポール。湾岸再開発エリアに二つのカジノや大型のホテル、オペラハウスなどを建設した。カーレースのF1を誘致するなどエンターテインメントの充実にも力を入れた。この結果、中国やアジア諸国などから大量の観光客が訪れるようになった。

カジノ税制をパチンコに適用
 日本でも、そんなシンガポールの成功に学んで、IR建設を行おうという機運が盛り上がっている。日本にやってくる外国人観光客は昨年初めて一千万人を超えたが、政府はこれを二〇二〇年までに二千万人、二〇三〇年までに三千万人に拡大する目標を掲げている。二〇二〇年オリンピックが東京で開催されることが決まり、この流れに拍車がかかっている。オリンピック以降も外国人観光客を日本に引き付けるためにも、IR建設は有効というのが推進派の主張だ。
 また、日本は先進国の中でも国際会議が開かれる回数が少ないことで知られる。空港の不便さや交通アクセスの問題など課題が多い。また、大型の会議場などハコモノはあっても、それに付随するホテルやレストランが魅力的でなかったり、収容力が圧倒的に不足していることで、日本での開催が敬遠されているという指摘もある。こうしたことから、IR建設をテコに、日本でもMICEを拡大すべきだという声が上がっている。
 カジノを解禁することで、新たな税収源が生まれるメリットも大きい。カジノの収入には売り上げ段階で一定の税率が課されるのが一般的で、カジノ事業者の事業が赤字であっても関係ない。企業が損失を抱えている場合、一般の法人税では税金がゼロになってしまうが、カジノは利用が増えれば増えただけ、税収に直結する。また、日本国内で実質的なギャンブルとして黙認されているパチンコホールなどへの課税を適正化するきっかけにもなり得る。競輪・競馬といった公営ギャンブルパチンコホールなどを考えると、日本はすでにマカオ、ラスベガスに次ぐ世界三位のギャンブル市場に相当する。

カジノ解禁までは難問山積
 もちろん、カジノ解禁への根強い反対論もある。ギャンブル依存症などの社会問題を指摘する声もあるが、現在でもパチンコ依存症などが指摘されており、カジノ解禁に当たって、ギャンブル全体を対象にした依存症対策などを真正面から議論することが必要になるだろう。青少年への悪影響といった道徳論もあるが、現実にはすでに、パチンコや風俗産業などが町に氾濫している。カジノ解禁議論に当たって、こうした従来からある問題にどう取り組んでいくかも重要になる。もちろん、パチンコやカジノをめぐっては役所の縄張り争いや、業界の利権もからむ。
 カジノ解禁は全国で一律に行われるわけではない。政府が指定する特定の場所だけに認められる。全国三〜四カ所という見方が流れているが、具体的に決まっているわけではない。安倍晋三内閣は規制改革の実験場として「国家戦略特区」をすでに全国六カ所で指定しており、それと重なる場所になる可能性もある。国家戦略特区は農業で新潟市兵庫県養父市ベンチャー企業育成で福岡市が指定されている。また、観光で沖縄、グローバル化拠点として関西圏と東京圏が指定済みだ。
 カジノ解禁で下馬評が高いのは東京と大阪、沖縄。大阪は橋下徹市長らも誘致に積極的だ。一方、東京は今年就任した舛添要一知事が消極的といわれ、ここへきて急速にトーンダウンしている。そんな中で、京浜急行電鉄がIR事業への参画に意欲を示すなど横浜にも可能性が広がっている。
 こうした動きに対して海外のカジノを運営するIR会社が日本への参入に動き始めている。すでに米国に本社を置くMGMリゾーツ・インターナショナルやラスベガス・サンズなどが日本に事務所を開設。日本国内のパートナー企業の選定などを始めている。数千億円規模の巨額投資になるだけに、世界の投資ファンドなども注目している。
 もっとも、統合型リゾート推進法が無事成立したとしても、具体的な内容を決める法律が出来上がるのには一年かかる見通し。場所をどこに決めるか、規制や税制はどうするのかなど、解決しなければならない問題は多い。