【高論卓説】働き方改革の狙いは生産性向上

3月29日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/business/news/180329/bsg1803290500001-n1.htm

 ■「好循環」促進へサービス業は転換を

 「働き方改革」というと、残業の圧縮など長時間労働の是正を思い浮かべる人が多いだろう。企業経営者の多くも人手不足の中でどうやって残業を減らすかに腐心している人が少なくない。だが、働き方改革の本当の狙いは、どうやって生産性を上げるかにある。

 経済を成長させるには、企業がもうけることが重要だ。そしてそのもうけを内部にため込むのではなく、従業員に還元し、それが消費となって再び経済を押し上げる。安倍晋三首相の言う「経済の好循環」だ。

 生産性の低い産業としてしばしば挙げられるのが、運輸、小売り、飲食、宿泊といった分野だ。こうしたサービス産業の生産性が欧米諸国に比べて圧倒的に低い。

 その最大の理由は「価格」である。デフレ経済が続く中で、サービス産業の多くが「価格破壊」と呼ばれた価格競争に走った。外食産業で言えば、ギリギリまで食材コストを削り、調理の効率化などを進めた。そのしわ寄せは人件費に及び、安い給料で長時間働くのが当たり前の世界ができた。

 デフレ経済が終わりを告げようとしている中で、圧倒的な人手不足がやってくると、こうした生産性の低い業種には人材が集まらなくなった。深夜営業ができなくなったり、店舗閉鎖に追い込まれるなど、経営の足元を揺るがす事態になっている。

 確かに、デフレ時代は「良いサービスをとことん安く」が経営の方向性だった。だが、デフレが終わることを考えれば、その方針を大転換しなければならない。サービス産業は「より良いサービスを、きちんとした対価で」提供することが重要になる。そしてそれを、サービスを支える人材に還元することが求められる。

 今、サービス産業に求められているのは、従来通りの価格を維持してサービスの効率化を進めることではなく、サービスに磨きをかけて顧客が納得する水準に価格を引き上げていくことだ。デフレ時代の「価格破壊」の修正である。

 今、消費者の間にも、サービスに見合った価格を払わなければ、サービスが維持されないという感覚が広がっている。昨年、ヤマト運輸が先頭を切って宅配便の価格引き上げに動いた際も、消費者の多くはそれに納得した。生活する上で、なくてはならないサービスだと感じたからだろう。ヤマトはサービスドライバーなど従業員の待遇改善を進めている。収入を増やして生産性を上げる一方で、キチンと従業員にその恩恵を回すという「好循環」への取り組みだろう。

 もちろん、サービスよりも低価格を求める消費者は存在する。人手不足で人件費が上昇していく中で、こうしたサービスはどんどん機械化され、効率化されていくに違いない。

 生産性の向上と言うと、今まで以上に従業員に働かせることを想像しがちだ。そうではなく、きちんと付加価値が生み出せる事業に人材を配置し、従業員ひとりが生み出す利益を大きくすることが求められる。「働き方改革」は「経営改革」そのものである。