地方の人手不足で「外国人頼み」が強まる 早急な「移民政策」立案が不可欠に

日経ビジネスオンラインに4月6日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/040500074/

在留外国人は1年間で約18万人増加
 日本国内に住む外国人の数が急増している。法務省が3月27日に発表した2017年末の在留外国人数(確定値)によると、256万1848人と、1年前に比べ7.5%増え過去最高になった。増加は5年連続で、2014年2.7%増→15年5.2%増→16年6.7%増→17年7.5%増と、年々増加率が高まっており、17年は1年間で約18万人増えた。

 特徴は地方での増加が目立ってきたこと。東京都は7.3%の増加だったが、伸びの大きかった都道府県順に見ると、熊本(16.5%増)、鹿児島(14.4%増)、宮崎(13.4%増)、島根(12.9%増)、富山(12.6%増)、北海道(12.3%増)、青森(12.1%増)などとなった。減少したのは長崎県だけで、他はいずれも大きく増えた。

 背景には地方で顕在化し始めた人口減少によって、圧倒的な人手不足に陥っていることがあるとみられる。つまり、労働力として外国人が求められているのだ。3月31日に厚生労働省が発表した2月の「有効求人倍率(季節調整値)」によると、全国合計は1.58倍だったが、都道府県別にみると、最も高かったのが富山の2.17倍で、島根(1.79倍)、熊本(1.74倍)、宮崎(1.65倍)など、人手不足の深刻な県で、在留外国人が大きく増えたことが分かる。

 厚生労働省の別の統計では、在留外国人のうち127万人が日本国内で働いているが、これは事業所が届け出た「正規」の労働者だけ。実際にはもっと多くの外国人が働いているとみられる。

 法務省の統計で在留資格別の外国人の増加を見ると、もっとも伸びが高いのが「特定活動」という残留資格で、37.7%も増えた。外国人が多い主要10都府県以外の「その他」の道府県の伸びが43.3%と高くなっているのも特徴。「特定活動」とはもともとは外交官や弁護士などの専門家を受け入れる資格だったが、現在では対象が大きく拡大され、ワーキングホリデーやインターンシップ、高度人材の配偶者など様々だ。

 「技能実習」の資格で在留している外国人も1年前に比べて20.0%増えた。製造業や農業の現場などでは、もはや外国人技能実習生なしに事業が回らなくなっているところも多い。「技能実習」は日本国内で技能を学び、自国に帰ってそれを役立てるという国際貢献の仕組みだが、それは「建前」で、実際には不足する労働力を補うために使われている。

「定住してくれるなら、外国人でも構わない」
 「技能・人文知識・国際業務」はいわゆる高度人材の外国人で、全国では17.5%増えた。「その他」道府県の伸びが24.1%と上回っているのも目を引く。地方のホテルや旅館、飲食店など人手不足が深刻なサービス業で外国人を雇うのは簡単ではない。いわゆる「単純労働」だという長年の見方によって、外国人が排除されてきた。「技能実習」の対象にならない職種も多い。

 単純労働に外国人を受け入れると日本人の職が奪われる、というのが理由だが、実際にはそうした仕事をやる日本人自体が減っている。旅館の客室係やホテルのメイドなどに外国人を雇えないわけだ。そこで、外国人客の通訳やフロントでの業務ということで、「技能・人文知識・国際業務」の枠組みに入れ、外国人を雇用しているケースが少なくない。

 最近は「留学」の在留資格でやってきてアルバイトで働くケースが急増してきた。留学生は週に28時間までなら働くことが認められている。また、夏休みなど休暇中は週40時間働くことが可能だ。こうした制度を使って、実は出稼ぎが本当の目的なのに留学生資格でやってくる外国人が多い。もっとも、こうした留学生は日本語学校などが多い大都市部に集中しているため、地方での伸びは全国平均よりも低い。

 大都市部のコンビニや外食チェーンなどではこうした「留学生」がいなければ営業ができない状況に追い込まれている。

 地方で人手不足が深刻なのは農業の現場である。地方の自治体などから、外国人労働者をもっと自由に受け入れられるようにしてほしいという要望の声が年々強まっている。かつては地方ほど外国人アレルギーが強いと言われていたが、人口減少が鮮明になるにつれ、「定住してくれるなら、外国人でも構わない」という声が聞かれるようになった。外国人観光客などが増え、外国人を身近に感じるようになったということもあるのだろう。

 安倍晋三首相はこれまで、「いわゆる移民政策は取らない」という方針を掲げてきた。「技能実習生」などの“便法”を使い続けてきたのも、外国人を短期の労働力としてだけ受け入れ、数年で帰ってもらうことが前提になっていた。

 だが、こうした「労働力として」だけの外国人の受け入れは、将来に大きな禍根を残すことになりかねない。いずれ帰国しなければならないと分かっている外国人は日本語も真剣に学ばないし、日本社会に溶け込む努力もしない。また、決められた期限でできるだけお金を稼ごうとするから、犯罪まがいの仕事にも手を染めることになりかねない。

 移民政策は取らないと言いながら、在留外国人は4年で50万人も増えている。なし崩し的に外国人を受け入れているわけだ。不法在留者は4年連続で増え6万6498人に達している。日本が明確な「移民政策」を持たないことが、なし崩し的な外国人流入につながっている。

「出稼ぎ」だけでは人口減を補えない
 そんな中で、ようやく、日本も「移民政策」を真剣に考えるべきだ、という声が政界の中でも出始めている。

 農業協同組合新聞電子版が3月29日に竹下亘自民党総務会長のインタビューを掲載している。その中で竹下氏は農業の現場について、こんな発言をしている。

 「労働力問題が大きなネックになっています。東北などでは外国人労働者が多く入っています。農業の将来を考えると、移民政策も含めて国会でも議論し、国民のコンセンサスを確立する必要があります。今は実習生として受け入れていますが、このままでいいのか。放置しておくと不法就労が増えます。外国人ゼロではもう農業はやっていけません」

 自民党の幹部から、「移民政策も含めて」議論すべきだという声があがった意味は大きい。すでに安倍首相は2月の経済財政諮問会議外国人労働者の受け入れ拡大に向けて検討するよう関係閣僚に指示している。「専門的・技術的分野」の在留資格を拡大して外国人を受けいれる方向だ。現状では、「教授」や「技能」など18の業種に限られているものを、農業や建設なども加えていくとみられる。

 ただ一方で、「移民」につながらないよう、在留期間を制限して家族の帯同も基本的に認めない、という報道もなされている。だが、それでは、結局のところ「出稼ぎ」を増やすだけで、長期にわたる日本の人口減少を補う政策には程遠い。

 現在、菅義偉官房長官上川陽子法務相を中心に関係省庁が加わった検討チームで議論している。6月に閣議決定される経済財政運営の「骨太の方針」に何らかの対応策が盛り込まれることになる。

 閣議決定に向けて、党内論議がどれだけ盛り上がるかが、焦点になる。これまでの「移民政策は取らない」という方針を堅持し、付け焼き刃の対策をとるのか、それとも、外国人の受け入れ策について抜本的に見直し、日本型の移民政策を打ち出していくのか。

 外国人技能実習生などを雇用している経営者や農業関係者の多くが口をそろえて言うのは、せっかく技能を身につけさせても3年で帰ってしまうのでは、何のために教えているか分からない、というものだ。つまり、日本人の仕事の補助的な役割ではなく、一人前の技術者、農業者として頼りにする存在に外国人がなっているということだ。そうした現実を踏まえて、できるだけ長期に日本に定住してもらい、日本社会に溶け込んでもらう、それを支える仕組み、政策づくりが不可欠だろう。