【高論卓説】日本の“カイシャ”の形が変わる 副業解禁で進む終身雇用の崩壊

5月15日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/business/news/180515/bsg1805150500001-n1.htm

 「副業」を認める会社が目立ってきた。安倍晋三内閣が「働き方改革」の一環として昨年来、副業や兼業の解禁に旗を振ってきた「効果」が出始めたともいえる。

 厚生労働省が示している「モデル就業規則」から副業禁止の規定を削除。「労働者は、勤務時間外において、他の会社などの業務に従事することができる」と、ひな型で示した。もちろん、競業に該当して元の企業の利益を害する場合などは禁止だが、副業を「原則禁止」から「原則自由」へと180度変えたわけだ。

 なぜ政府は「副業解禁」に動いたのか。多様な働き方を求める人たちが増えたこともあるが、最大の理由は深刻化する「人手不足」が背景にある。

 一つの会社に縛り付ける従来の「働かせ方」では、労働人口の減少とともに、人手はますます足りなくなる。ダブルワークの解禁が人手不足を吸収する一助になる、と考えたのだろう。

 解禁に動いている企業にも理由がある。日本型雇用とされてきた「終身雇用」が企業にとって「重荷」になってきたのだ。日本の伝統的な企業では、いったん就職すれば、定年退職を迎えるまで、よほどのことがない限り解雇せず、面倒を見続けてきた。仮に社員のスキルを生かせる仕事がなくなっても、配置転換などで仕事をあてがい、生活を保障してきた。

 だが、猛烈な人手不足と、時代の変化が激しい世の中になって、配置転換で仕事を与え続けるような人事のやり方は非効率になった。むしろ、必要な人材は中途採用し、専門を生かせる場がなくなった人には、辞めて転職してもらう。そのためには、社員が自ら専門性を磨く「副業」の解禁が必要になるわけだ。

 つまり、副業解禁は「日本型雇用」の崩壊を示しているといえそうだ。時代の変化で仕事がなくなった社員を抱え続ける余裕が会社になくなってきたのだ。

 日本企業の収益力が低いことも一因だろう。人手不足にもかかわらず、給与を大きく引き上げることは難しい。そうなると、自社で稼げない分、外で働くことを容認せざるを得ないのだ。

 こうした副業解禁をきっかけに、日本の「カイシャ」は根本から変わるだろう。副業を解禁するには、その社員の「本来業務」が何かを明確にする必要がある。「本来業務」が何かが明確でなければ「競業」かどうか分からない。つまり、欧米型の「ジョブ・ディスクリプション」がより明確になっていくだろう。

 副業が当たり前になると、より「専門性」を身につけた社員と、会社の関係は希薄化していくに違いない。いや、より「対等」になっていく、と言っても良い。いったん「雇用」したら働く場所も職種も会社次第という時代は早晩終わりを告げる。業務を明確化した上で、それぞれの会社と個人が個別に業務契約を結ぶ。そんな関係が増えていくだろう。

 そうなれば、あたかも「疑似家族」のようだった日本の伝統的な「カイシャ」は急速に壊れていくことになる。