ガバナンス・コード改訂で 「株式持ち合い」が消えていく

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 「コーポレートガバナンス・コード」の改訂版が2018年6月から施行される。ガバナンス・コードは2015年6月に施行されたから、丸3年を経て初めての改訂となる。企業経営者と機関投資家の「対話」の促進に重点が置かれ、「投資家と企業の対話ガイドライン」も同時に公表されているが、何と言っても影響が大きいのは、「持ち合い株式の削減方針の明確化」だ。

 持ち合いは日本的経営を支える仕組みとして賞賛された時代もあったが、近年は、企業の資本効率を悪化させる元凶のひとつとされ見直しが求められてきた。また、持ち合いによって機関投資家など他の株主の発言権を封殺しているとして、投資家と企業の対話を阻害していると批判されている。

 今回の改訂版では、持ち合い株式、つまり「政策保有株」に関する「原則」が大きく変わった。

 これまで「政策保有に関する方針を開示すべき」とされていたものが、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」と変わった。ガバナンス・コードに従う会社は、今後、株式持ち合いの「縮減」を目指すべきことが明示されたわけだ。

 さらに、「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい、合理性について具体的な説明を行うべきである」としていたものを次のように変更した。

 「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」

 中長期的に経済合理性があれば良し、としてきたものを、資本コストに見合っているかを具体的に精査しなければならなくなった。また、合理性について説明するとしてきたものを、保有の適否を検証してそれを開示すべき、と踏み込んでいる。

 持ち合い株が資本コストに見合っているか、具体的に精査せよとまで問われると、なかなかそれを立証することは難しい。これまでも、経済合理性を説明することは難しいとして、多くの会社が持ち合い解消に動いてきた。資本コストに見合っている、という説明はおそらく難しいので、この解消の流れは一気に強まるのではないか。旧財閥グループの中には、資本コストを犠牲にしても株主にメリットがあることを説明しようと、事業上のメリットの強調などを試みるかもしれないが、投資家を納得させられるかどうかは微妙だ。

 持ち合いについては「外堀」が埋まってきている面もある。生命保険会社や銀行など機関投資家は、スチュワードシップ・コードが導入されたことで、アセット・オーナーの利益に反する行動は取れなくなってきている。政策投資だからといって、かつてのように「安定株主」として、経営陣に「白紙委任」を与えるような投票行動を取ることが難しくなっている。

 機関投資家は投票行動を個別に開示するようになっており、会社側提案の議案に無条件に賛成するというのは難しい。実際、会社側提案に反対票を投じる機関投資家も増えている。企業経営者からすれば、資本コストを度外視して持ち合いをしても、相手が安定株主として行動してくれなくなっているわけだ。持ち合いの効用が消えてきているわけだ。

 もちろん、企業の側も議決権行使の「合理性」を問われることになるので、政策保有株だからといって無条件に会社提案に賛成するというわけにはいかなくなる。

 今回の改訂でコードに「縮減」することが明記されれば、それを「口実」にして持ち合い解消を一段と進める動きが強まるのは明らかだろう。「こういうご時世ですから、申し訳ありませんが」と言いやすくなるわけだ。

 経済界からは、日本企業が長期志向で安定的な経営を遂行するためには株式持ち合いは重要な慣行だという反論が長年あったが、外堀が埋まってきたことで、そうした主張を真正面からする経営者は減っている。

 米国では銀行が企業の株式を政策目的として保有することを原則として禁じている。また、欧州でもドイツなどでは銀行が株式保有によって企業を実質的に支配する仕組みが慣行として広がっていたが、ここ20年の間に急速に銀行の株式売却が進んだ。企業に資金を融資する「債権者」の立場と、「株主」の立場が時として利益相反になるケースが増えていることが背景にある。

 今回のコード改訂は、日本企業の株式持ち合いを消滅させる大きなきっかけになっていくだろう。