「働き方改革」に背を向ければ会社は潰れる

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 3月1日から大学生の就職活動が解禁され、空前の「売り手市場」とされる2019年春入社の採用が本格的に始まった。今年2018年の面接解禁は6月1日なので、早い学生は6月上旬には内々定を獲得、10月1日にそろって内定式を迎える。

 就職氷河期と言われた1990年代後半や、リーマンショック直後と大きく違い、学生にとっては、ひとりでいくつもの内定を得られる好環境だが、企業にとっては人材獲得難が続く。大企業でも熾烈な採用合戦が繰り広げられる中で、中堅中小企業では新卒採用に苦戦することが予想される。

 何せ、未曽有の人手不足である。2017年12月の有効求人倍率は1.59倍(季節調整値)。バブル期を上回り、高度経済成長期並みの求人難になっている。正社員の有効求人倍率も1.07倍と1倍を超えている。職種を選ばなければ誰でも正社員になれることを示している。

 新規学卒者を除いてパートを含んだ一般労働者の新規求人数に対する就職件数、いわゆる「充足率」は15.2%。アベノミクスが始まった2013年は22.2%だったから、4年で7ポイントも低下した。15.2%というのは企業が7人採用したいと思っても1人しか採用できない状況を示している。

 そんな中で、「働き方改革」が求められている。同一労働同一賃金長時間労働の是正に世の中の関心が向いているが、そうでなくても人手不足なのに、どうやって残業を減らせというのか、と訝しく思う人も少なくないだろう。働き方改革は働かない改革ではないか、という人もいるが、それは大きな間違いだ。

 働き方改革の本質は、これまでの仕事のやり方を一から見直して、劇的に生産性を上げるように変革することを求めている。今までのやり方を維持したままで、労働時間だけを減らせば、生み出される成果も減る。それでは企業収益も落ちて、会社は立ち行かなくなってしまう。

 どうやって社員ひとりが生み出す付加価値を増やすか。そのためにどう仕事の内容を見直すか。労働時間を減らしても今までと成果が変わらないどころか、むしろ成果を上げる。そんな働き方への変革が求められているのだ。

 生産性を上げる第一歩は、それぞれの社員の役割を明確にすることだ。「ジョブ・ディスクリプション」と呼ばれて欧米では当たり前だが、なぜか日本では評判が悪い。チームワークを壊す、自分だけ仕事が終われば良いという人が増える、そもそも日本型の経営に合わない、といった批判が巻き起こる。

 上司が残っているから帰れない、自分の仕事は終わったのだが、隣の人の仕事が忙しそうなので手伝わないと申し訳ないーー。そんな日本的な働き方は欧米にはまず存在しない。仕事が遅いのはその人の能力が低いか、過剰に仕事を負わせている上司が悪い。欧米ならそんな反応が返ってくる。

 専門性の高い時給にすれば何万円の人材に、誰でもできる雑用をやらせれば、その分生産性が下がる。日本の大学では教授が雑用をこなしているが、欧米ではきちんとスタッフが分担する仕組みが出来上がっている。それは身分差別でも何でもなく、仕事を明確に分けることで生産性を上げようとしているわけだ。

 この「ジョブ・ディスクリプション」の無さが、新卒者が短期間に会社を辞める理由にもなっている。「営業の仕事をするために入ったつもりなのに、いきなり人事に回された」といった不満の声が、新入社員から湧き上がる。会社からすれば優秀だからエリートコースの人事に回したつもりでも、今の若者には理解されない。

 「君のやりたい仕事をやらせてあげよう」というのが最大の殺し文句になっている。中小企業でも自己実現ができる場があるとなれば、今の若者はチャレンジする。そもそも1つの会社に生涯勤めようとは思っていない。あくまでもキャリアパスと考えている。

 経営者も発想を変えることだ。優秀な人材をつなぎとめ、長く戦力として働いてもらうためには、その人材が求めるキャリアパスを実現してあげることだ。もちろん、勤務時間や仕事の仕方で自由度を認めることも不可欠だ。社員のライフスタイルを尊重して、働き方を変えることを認めていく柔軟な会社にしなければ、優秀な人材に愛想を尽かされることになる。

 今後ますます深刻化する人手不足の中で、人材が集まらなければ会社自体が行き詰まってしまうことになりかねない。