日本の財政を食い尽くす「医療費増加」が止まらない2つの理由 高齢者医療費と薬剤の高額化という難題

現代ビジネスに10月3日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57792

国民医療費過去最高へ
厚生労働省は9月21日、2つの統計数値を同時に発表した。1つは2016年度の「国民医療費」。病気の治療に要した費用の総額で、42兆1381億円。前年度に比べて0.5%減り、2002年以来14年ぶりに減少した。増え続けてきた医療費がついに頭打ちになったかと思いきやそうではない。

同時に発表された2017年度の「概算医療費」は、42兆2000億円と前年度比2.3%増と再び増加に転じた。

概算医療費は労災や全額自己負担の治療費は含まない速報値で、1年後に確定値として公表される国民医療費の98%に相当する。つまり、2016年度の医療費の減少は一過性で、2017年度は再び増加基調に戻るという発表をしているわけだ。

おそらく2017年度の総額である「国民医療費」は43兆円前後と、いずれにせよ過去最多になる見通しだ。

なぜ、医療費は減らないのか。

ここ十年来、医療費の増加が問題視され、このままでは国家財政を揺るがすと言われてきたが、抜本的な改革には程遠い。高齢化が進んでいるのだから仕方がないと言わんばかりの政府の対応が背景にある。

医療費が増加を続ける理由はいくつかあるが、中でも大きいのが高齢者の医療費の増加。

概算医療費の「75歳以上」の医療費の推移を見ると、2015年度に4.6%増と大きく増えた後、医療費全体が減少した2016年度も高齢者の医療費は1.2%増加、2017年度は4.4%増と再び高い伸びになった。2017年度の75歳未満の医療費の伸びは1.0%だから、高齢者の医療費が増え続けていることがわかる。

もちろん、高齢者の数が増えているのだから、当然とも言えるが、1人当たりでも増加している。2017年度の概算医療費の「75歳以上」1人当たりは94万2000円で、前年度の93万円から増加している。ちなみに75歳未満は22万1000円だ。高齢者ほど高額の医療費を使っているのである。

実際、医療費の60%に当たる25兆円は65歳以上の退職世代が使っており、子どもが6%だ。現役世代が使っているのは34%の14兆円あまりに過ぎない。

しかも、今後も75歳以上の後期高齢者の人口は増加する。2022年には団塊の世代が75歳以上に加わり始めるので、2024年ごろまで高齢者医療費の大幅な増加が続くとみられる。

何せ、現役世代の医療費は3割負担だが、高齢者になれば現役並みの所得がある人を除いて1割負担になる。負担が軽いことで、高齢者が気軽に病院に通う結果になっているとかねて指摘されており、自己負担の引き上げや初診料の引き上げなどを模索しているものの、高齢者医療費は全く減少する兆しが見えない。

オプジーボ」の価格は引き下げたものの
もう1つ、医療費の増加に拍車をかけているのが、調剤費の増加だ。2017年度の概算医療費で調剤は2.9%の伸びとなり、診療費の2.1%増を上回った。

実は、調剤費の伸びには、「高額薬剤」の問題が潜んでいる。

2015年に肺がんへ保険適用が拡大された「オプジーボ」は、1回約130万円、1年間の投与で3500万円かかるという「高額薬剤」だったが、これらの使用が一気に広がったことで、2015年度の調剤費が前年度比9.4%増の7兆9000億円と一気に7000億円も増えた。

健康保険の財政負担が急増したこともあって、厚労省は薬価改定の時期を待たずに特例でオプジーボの価格を引き下げるなど、急きょ対応せざるを得なくなった。

薬価の引き下げもあり、2016年度の調剤費は4.8%減となったのだが、前述の通り、2017年度の調剤費は再び増加に転じている。厚労省は2年に1度だった薬価改定を毎年改定に変更するなど、調剤の圧縮に重点を置くが、高額薬剤は年々増加しており、歯止めをかけるのは難しそうだ。

特に、新薬開発に巨額の資金がかかるようになり、製薬企業の巨大化が進んでいるが、日本の製薬企業は後塵を拝しており、外国企業の新薬導入は不可欠になっている。

米国などでバイオ新薬が超高額の価格設定がされるケースも増えている。日本だけが薬価基準を大きく引き下げれば、外国製薬会社が日本市場を相手にしなくなる可能性もある。

医療費が国家財政を飲み込む
確定した2016年度の国民医療費を財源別にみると、保険料で賄われているのは49.1%で、公費負担が4分の1に達している。内訳は25.4%が国庫、13.2%が地方だ。給与に一定率でかかる健康保険料は年々上昇を続けており、さらなる引き上げは難しい。

公的制度である協会けんぽなどへの国庫補助金も膨らんでいくことになれば、公費負担がさらに増加することになる。

医療費の増加を何とかして食い止めなければ、国家財政が破綻の危機に瀕することになる。

誰でも低い負担で質の高い医療が受けられるという日本の国民皆保険制度は素晴らしい。だが、現実には公費負担が増え、保険制度は瓦解寸前だ。

財源別のデータを見ると、患者負担は全体の11.5%に過ぎない。高齢者の1割負担制度や、高額医療の負担上限などの制度があり、本人負担が抑えられているからだ。

現役世代にこれ以上負担を求められないとすると、高齢者の1割負担を見直すか、高額薬剤の保険負担を減らすことが必要だろう。

高額薬剤だけ自己負担とした場合、「混合診療」だとして他の診療も保険適用ができなくなる今の制度を早急に見直すことも重要だ。

とにかく抜本的な見直しに早く手をつけないと、医療費増加の波に飲み込まれることになりかねない。