自民党はなぜこんなにも医者に甘いのか 医療費、またしても増えそうです

現代ビジネスに12月6日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53732

薬価下げ分を医者に回す

またしても医療費は増え続けることになりそうだ。

自民党の「医療問題に関する議員連盟」は12月5日に国会内で総会を開き、2018年度の診療報酬改定で、医師の人件費などにあたる「本体」部分を引き上げるよう求める決議を採択した。自民党の衆参両院の国会議員など240人余りが出席しており、圧倒的多数の議席を握る自民党の政治力で引き上げが決まる見通しだ。

すでに3日付けの朝日新聞は「診療・入院料引き上げへ 報酬改定、薬価下げ財源」と見出しに取った記事で、政府が「本体」部分を引き上げる方針を固めたと報じた。

薬価下げを財源とするという意味は、政府は来年度予算で社会保障費の自然増が6300億円と見込まれるものを、5000億円に抑える目標を掲げてきたが、薬価の引き下げで1千数百億円が捻出できるので、本体を引き上げても数字は達成できる、という理屈だ。

薬価を下げた分を医者に回せ、と言っているわけで、結局は来年度以降も医療費は増え続けることが確実になった。

議員連盟の会長を務める高村正彦副総裁は、総会で「いつでもどこでも良質な医療を受けられる『国民皆保険制度』を守るため、しっかり勝ち抜いていかなければならない」と述べたと報じられたが、医師の給与を引き上げることが国民皆保険制度を守ることになるのだろうか。

診療報酬が上がれば、会社員や企業が支払う健康保険の掛け金が上がる。病気になった人だけでなく、保険加入者全体が負担することになるのだ。また、国費として投入される分も、いずれは国民の負担となって戻って来る。

止まらない医療費負担増
そうでなくても健康保険料は高い。中小企業が加入する「協会けんぽ」の保険料率は労使合わせて10%を超す道府県が少なくない。

健康な時に支払う保険料負担がどんどん大きくなれば、加入を忌避する人たちが増え、かえって国民皆保険制度に穴が開く。実際、国民健康保険の無保険者問題はなかなか解決しない。

国民医療費は増え続けている。2015年度42兆3644億円と3.8%、1兆5000億円も増えた。保険料の負担は4.0%増加、国庫と地方を合わせた公費負担も3.9%ふえている。患者の自己負担も2.9%の増加だった。

2016年度の概算医療費は前の年度に比べて0.4%減ったが、これは前年度の伸びが極端に大きかった反動に過ぎない。

2015年度に9.4%も増えた調剤費が2016年度は4.8%減となった。高額の医薬品が大きく増えて調剤費が増大したのに対して、緊急で薬価を引き下げた結果だった。

来年度は2年に1度の薬価改定の年に当たっており、実勢価格に対して高過ぎる薬価の引き下げは当然に行われる。本来ならば、それを医療費全体の削減につなげるべきなのだが、「本体」の引き上げに回されるわけだ。

医師のための自民党
これでは「国民」よりも「医者」を向いていると言われかねないが、なぜ、自民党は、医者に甘いのか。

「医療費、政界へ8億円 日医連が最多4.9億円提供」という記事が東京新聞の12月1日付けに載った。

「医療や医薬品業界の主な10の政治団体が2016年、寄付・パーティー券購入などで計8億2000万円を国会議員や政党に提供していたことが、30日に総務省が公開した16年分政治資金収支報告書で分かった」としている。日本医師会政治団体である日本医師連盟(日医連)が約4億9000万円と最多だった、という。

「医療費が政界へ」というのは、医療費として公費や健康保険から医師に支払われているおカネが、回りまわって政治献金になっているという意味である。

政治家や政党に寄付することで、診療報酬「本体」の引き上げを実現しようとしているようにも見えるわけだ。カネの力がモノを言っているということだろうか。

もともと、財務省の審議会は11月に診療報酬を「マイナス改定」するよう求めていた。しかも求めた診療報酬の改定幅は「2%台半ば以上のマイナス改定」だった。薬価が大幅に引き下げれても、本体が引き上げられてしまえば、2%台半ばには到底達しない。

国の財政を考える財務省の意向や、保険料を引き上げたくない健康保険組合連合会などの引き下げ意見などをすべて無視する形で、本体部分を引き上げることになりそうだ。

人の命を預かる医師の職場が過酷であることは間違いない。本体を引き上げることで、待遇改善したいという気持ちも分からないではない。だが、猛烈な勢いで増え続ける医療費と、それに伴う国民負担の増加を、医師たちは「当然の事」だと思っているのだろうか。

このまま医療費が増え続ければいずれ、国家財政も家計も、企業の健保組合も破たんしてしまう。それこそ、国民皆保険制度や日本が誇る医療制度の崩壊につながりかねないのではないだろうか。