現代ビジネスに10月25日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58125
決め手に欠く増税対策
安倍晋三首相が10月15日の臨時閣議で、2019年10月からの消費増税を予定通り行うと改めて表明したことで、増税に向けた準備が動き始めた。
軽減税率制度の導入に向けたシステムなどの準備は、導入まで1年を切ったことでギリギリのタイミングとされ、中小事業者にどう対応を急がせるかがポイントになっている。制度が複雑で準備が間に合わないのではないか、という声も出ている。
そんな中で、最も深刻なのは、増税による景気への影響だ。「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」と安倍首相は経済対策の策定を指示したが、霞が関から上がってくるアイデアはどれも二番煎じか決め手に欠けるものばかり。
中小事業者でキャッシュレスによって購入した場合、増分に相当する2%分をポイントで返すというアイデアも出たが、麻生太郎副総理兼財務相が真っ先に反対するなど異論が噴出して沙汰止みになった。
自動車取得税の免税や住宅取得促進などのおきまりの対策に加え、公明党などが主張する「プレミアム商品券」が再び浮上している。
頼みのインバウンドも台風で頭打ち
増税による消費への影響が懸念されるのは、足元の消費が極めておぼつかないからだ。10月23日に日本百貨店協会が発表した9月の全国百貨店売上高は前年同月比3.0%減と、3か月連続のマイナスになった。
北海道胆振東部地震の影響で札幌地区が11.1%のマイナスと大きく減少したほか、台風による高潮被害で関西国際空港が一時閉鎖された影響で大阪地区も4.1%のマイナスになった。
大阪地区の百貨店は中国などからやってくる訪日外国人観光客のいわゆるインバウンド消費によって、絶好調を維持してきた。2017年1月から2018年6月まで18カ月連続で前年同月を大きく上回ってきたが、7月以降、ムードが一変している。
全国の百貨店での免税売上高は、9月は246億5000万円で、前年同月と比べればまだ6%増えているものの、前月比では6カ月連続でマイナスが続いている。
2014年10月に免税範囲が拡大されて以降、初めてのことだ。また、免税手続きを行う顧客ひとり当たりの単価は6万1000円にとどまっている。「爆買い」と言われた2015年前半には8万円を超えていたので、明らかにインバウンド消費に変化が見え始めている。
特に9月は関西国際空港の一時閉鎖の影響が大きく、JNTO(日本政府観光局)の推計によると訪日外国人客の数自体も前年同月比で5.3%減少した。訪日外客数がマイナスになったのは2013年1月以来、5年8カ月ぶりのことだ。今後、訪日客が再び増加傾向に戻るのか、そろそろ頭打ちになるのか、消費にも大きく影響するだけに注目される。
百貨店売上高への「インバウンド消費」の貢献度は小さくない。9月の全国百貨店での売上高4197億円に占める免税売上高の割合は5.9%に達する。外国人観光客の買い物すべてが免税になるわけではないので、実際にはそれ以上の割合がインバウンド消費効果と言える。
国内消費は完全に変調
その免税売上高を差し引いた分を「実質国内売上高」として計算してみると、対前年同月比でマイナス4.1%に達する。
今年6月にはプラス1.2%と7カ月ぶりに増加に転じ、ボーナスの増加などが消費増に結びつく「経済好循環」が始まるかに見えたが、7月は7.3%減→8月1.3%減→9月4.1%減と大幅なマイナスが続いている。完全に国内消費には変調をきたしているとみて良さそうだ。
百貨店の場合、売上動向が天候や祝日数に大きく左右されるなど、特殊な要因もある。今年の夏は風水害が多発し、異常な高温が続いたこともあり、その影響が大きいとの見方もある。
一方で、2014年4月に消費税率を5%から8%に引き上げる前には、駆け込み需要も含めて消費が大きく伸びていたが、その後、増税によって消費の低迷が続いている。現状の消費が弱いまま来年10月の増税を迎えた場合、日本経済が失速することになりかねない。
半面、日本チェーンストア協会が発表した2018年9月のスーパー各社の全国売上高は、4カ月連続で前年同月を上回った。これをどう読むかがポイントだろう。単純に消費が回復しているとみていいのか。
スーパーの売り上げの中で増えているのは食料品。9月の場合、既存店ベースで1.9%増加した。やはり4カ月連続のプラスだ。一方で、衣料品は5.6%減と9カ月連続でマイナスになった。
食料品の場合、円安によって輸入食材が値上がりしていることなど、物価がジワジワと上昇していることが影響している可能性が高い。生活に不可欠な食料品が値上がりしているため、衣料品やデパートでの消費を抑えている、という見方ができるかもしれない。
また頭をもたげる消費増税延期観測
安倍首相は「経済好循環」を掲げて好調な収益を上げている企業に「賃上げ」するよう求め続けている。最低賃金の引き上げもあり、徐々に給与は増加傾向になりつつある。もっとも、給与が上がれば、所得税・住民税だけでなく、社会保険料の負担が増えるなど、給与増分がすべて可処分所得の増加につながるわけではない。
厚生年金の保険料率引き上げは昨年秋で一段落したものの、医療費の高騰で健康保険料率は上昇傾向にある。つまり、可処分所得が思ったほど増えない中で、生活必需品の価格がジワジワと上昇した結果、消費自体がマイナスになるという悪循環に陥っているのではないか。そこに消費増税したらどうなるか。
新聞各紙やエコノミストには、まだ消費増税の見送りもあり得る、という論調が目立つ。安倍首相が過去に2度延期していることも要因だが、あまりにも足元の消費が弱いということがひとつの理由だ。
一方で、訪日外国人が増え、「特需」が生まれる東京オリンピック・パラリンピック前の増税を逃すと、特需が消えるタイミングで増税しなければならなくなり、来年秋以上のマイナス効果を日本経済に与えることになる。
それだけに、消費増税後の消費減少をどう底上げするかという視点での経済対策だけでは不十分だろう。足元の消費を盛り上げるための景気対策を早急に打つことがより重要だと思われる。