「外国人がいる社会」が当たり前になる 4月からの新資格で外国人労働者急増へ

ビジネス情報誌「月刊エルネオス」3月号(3月1日発売)に掲載された原稿です。

 

エルネオス (ELNEOS) 2019年3月号 (2019-03-01) [雑誌]

エルネオス (ELNEOS) 2019年3月号 (2019-03-01) [雑誌]

 

 

外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が四月から施行される。二〇一八年十二月の臨時国会閉幕ギリギリで成立し、三カ月余りで施行される異例のスピード立法の背景には、深刻な人手不足に悲鳴をあげ、外国人労働者の拡大を求める現場の声がある。
 これまで日本では、小売店や飲食店接客係、旅館の客室係などとして外国人を雇用することは原則できなかった。こうした仕事は誰でもできる「単純労働」とみなされ、そこに外国人を受け入れると、日本人の雇用が奪われてしまう、というのが理由だった。
 いやいや、何年も前から、コンビニや外食チェーンでは外国人が働いている、それどころかほとんど外国人の店舗もある、と思われるに違いない。実は、そうした外国人は「労働者」としての資格で日本にやって来ているのではなく、「留学生」など別の資格で入国している。
 日本語学校などに留学した場合、週に二十八時間までなら「アルバイト」をすることができる。夏休み期間中などは週に四十時間働けるルールになっている。ところがこのルールを逆手に取り、本当は働くのが目的なのに、日本語学校に留学生としてやってきて、フルにアルバイトをする例が後を絶たなかった。
 外国人を雇用した場合、事業者は厚生労働省に届け出なければならない。これは年に一度、毎年十月時点の人数などを、「外国人雇用状況の届け出状況」として厚労省が公表している。それによると、二〇一八年十月時点で雇用されている外国人は百四十六万四百六十三人。二〇〇八年は四十八万六千三百九十八人だったので、この十年で百万人も増えた。
 百四十六万人のうち二三・五%に当たる三十四万三千七百九十一人が前述の留学生などとして入国しながら働いている外国人である。本来の就労ビザではなく留学生という資格で入国しながら働いている、ということで「資格外活動」と呼ばれる。日本の労働の現場は、この、本来は労働者ではない「建前」の外国人によって支えられているわけだ。

建前の制度運用ではなく
労働者として受け入れる

 もう一つの大きく増えている「資格」が、全体の二一・一%に当たる三十万八千四百八十九人が働く「技能実習生」の枠だ。これは日本で技術を学び、本国にその技術を持ち帰って役立ててもらう国際貢献が「建前」である。農業や漁業の現場では、技能実習生なしには回らないのが実情だ。
 技能実習生も本来の「労働者」ではない。単純労働の職場には外国人は受け入れないと言いながら、留学生や実習生として働き手を確保してきたのが、実態なのだ。特に円安によって企業収益が回復、人手不足が深刻になり始めると、しわ寄せはこうした「単純労働」の職場に表れた。誰でもできる仕事は給与水準が低い職種でもある。そこに就く日本人が大きく減ったのである。
 外国人の雇用状況を見ても、「卸売業、小売業」と、「宿泊業、飲食サービス業」がそれぞれ一二・七%で、全体の四分の一を占める。留学生など「資格外活動」で働く人はほとんどこうした業種で働いていると見ていい。
 そうした「建前」で制度を運用するのではなく、きちんと労働者としてこうした「単純労働」とされてきた分野にも外国人労働者を受け入れよう、というのが今回の改正出入国管理法の考え方だ。四月から導入される「特定技能1号」「特定技能2号」という新しい在留資格がその受け皿になる。
 特定技能1号、2号の就労資格は、建設業、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業、素形材産業、産業機械製造、電子・電気機器関連産業、飲食料品製造業、ビルクリーニング、介護、農業、漁業、宿泊業、外食業の十四業種に認められる。農業や漁業、宿泊業などからの「外国人労働者を解禁してほしい」という声に応えるものだ。
 特定技能1号の就労資格を得るには一定以上の日本語能力が必要で、資格試験などが業種ごとに実施される。技能実習を終えた人たちが特定技能1号に移行することが想定されている。在留期間は五年だ。外食、宿泊、介護などでは四月早々にも技能試験が始まり、受け入れがスタートする。
 特定技能1号は家族の帯同を認めず、永住権の取得に必要な年限にも算入されない。一方の特定技能2号は、在留期間三年だが、期間の更新ができ、条件を満たせば永住申請もできる。家族帯同も可能だ。ただし、制度ができてもすぐには、受け入れは始まらない見込みだ。

コミュニティーの一員となる
外国人との日常生活

 実は、政府が慌てて特定技能1号、2号の在留資格を創設したのには切羽詰まった事情があった。建設業や造船業では早くから技能実習生として外国人労働者を受け入れており、現場は外国人なしでは回らない。業界の要望もあって、当初三年間だった期限を、五年まで延長した。実施されたのは二〇一七年十一月からである。つまり、その延長した外国人たちの在留期限がやってくる。
 一方で、二〇二〇年の東京オリンピックパラリンピックに向けて建設工事が繁忙を極めており、経験を積んだ建設現場の外国人労働者に何とか在留を続けさせたいという希望が建設会社などから出されていたのだ。
 早晩はじまる特定技能2号は、建設、造船・舶用工業、自動車整備業、航空、宿泊業の五つが対象になる。つまり、すでに在留実績の長い業種に加えて、地方で長期雇用の要望が強い宿泊業で、長期間の在留を認めようということなのである。
 四月以降、急速に職場の風景が変わっていくだろう。地方の旅館やホテルでは、制度導入を見越してすでに研修名目でアルバイトなどの姿が目立つようになった。外食チェーンなどでは今後、一気に外国人が増え、都市部では店長も店員も全て外国人というお店が増えていくに違いない。
 そうした業種で働く日本人は今後、「部下」や「同僚」として外国人に接する機会が増えるだろう。さまざまな文化的背景を持った外国人を使い、管理することが管理職に求められる必須のスキルになるのは間違いない。
 大量にやってくる外国人は、労働力としてだけではなく、コミュニティーの一員としての存在感も大きくなるだろう。日本社会に適合してもらうような生活面でのアドバイスやルールの説明などを丁寧に行うことがますます重要になる。身近に外国人がいるのが当たり前の社会がもうすぐそこに迫っている。