外国人労働者「過去最多」で顕在化する「移民元年」

新潮社フォーサイトに2月7日にアップされた拙稿です。オリジナルぺージ→

https://www.fsight.jp/articles/-/44854

 

 改正出入国管理法の施行で、今年4月から新たな資格の外国人労働者が日本にやってくる。これまでは単純労働とされ、認められて来なかった分野に、外国人が「労働者」として入ってくる。技能が高いと認められれば、事実上無期限に日本で働ける道も開けた。この段階になっても安倍晋三内閣は、「いわゆる移民政策は取らない」と言い続けているが、将来振り返ってみれば、2019年が「移民元年」だったということになるだろう。

 いくら「移民政策ではない」と言い続けていても、日本で働く外国人が大量に増えている現実を覆い隠すことはできない。期限が来たら帰ってもらう建前だが、現実には彼らなしには社会が回らなくなり始めている。

ベトナム人が「激増」

 厚生労働省が発表した2018年(10月末時点、以下同)の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によると、届け出のあった外国人労働者は146万463人と1年前に比べて18万人余り増加、過去最多を記録した。2008年は48万人余りだったので、10年で100万人近く増えたことになる。

 特に、アベノミクス円高が是正され、企業収益が回復した2013年以降の伸びが大きく、2015年以降は伸び率が10%を大きく上回る伸びが続いている。景気の回復で人手不足が鮮明になるにつれ、働き手としての外国人へのニーズが急速に高まった。

 外国人労働者で最も人数が多いのは中国人で、39万人弱と全体の27%を占める。だが、ここ数年、伸び率は鈍化傾向にある。逆に目立つのはベトナム人で、全体の22%を占める32万人弱まで増えている。2014年には6万人強しかいなかったことを考えると、まさに「激増」である。

 次いでフィリピン人が16万人強、ブラジル人が13万人弱、ネパール人が8万人強となっている。ネパール人の急増もここ数年のことだ。

 ベトナム人やネパール人の多くは、「留学生」として日本にやってくる。出稼ぎが目的だが、いわゆる単純労働以外に技能を持たない若者たちは、日本で就労できる在留資格を得ることができない。日本語学校への留学で授業料が全額払い込まれていれば、比較的簡単にビザが取れる。留学生は週28時間までアルバイトが認められているほか、夏休みなどには週40時間まで働くことが可能だ。

 外国人雇用状況で、こうしたアルバイトたちは「資格外活動」というくくりで集計されている。本来、働く資格ではない、というわけだ。この「資格外活動」として働いている外国人は34万3791人。全体の23.5%を占める。2015年に20%を突破、年々比率が上がり、2018年は過去最大になった。

 もうひとつ、割合が増え続けている資格がある。「技能実習」だ。2018年に初めて30万人を突破、30万8489人と全体の21.1%を占めるようになった。この割合も過去最大である。

「留学生」に依存

 では、外国人労働者はどんな業種で働いているのだろうか。

 最も多いのは製造業で30%。工場などでの非熟練工としての仕事だろう。次いで、サービス業が16%、卸売・小売業が13%、飲食店・宿泊業が13%となっている。建設業はかなり多いイメージだが、届け出られている外国人は6万8604人で全体の5%だ。

 卸売・小売業や飲食店・宿泊業は、従来、技能実習の対象として認められておらず、ここで働いている外国人はほとんどが「資格外活動」、つまり留学生である可能性が高い。サービス業の一部もそうだろう。小売や飲食は、かつては日本人の学生アルバイトが働く場だったが、少子化で学生が減る中、「留学生」に依存するようになった。今や、都心の外食チェーンコンビニエンスストアなどは外国人労働者ばかりで、日本人スタッフの姿を見ないケースも少なくない。

 宿泊業などへの就労が可能になる新しい在留資格を盛り込んだ出入国管理法は、2018年12月まで開かれていた第197臨時国会で可決成立した。その法案審議の過程では、「技能実習」や「留学生」の問題について野党が取り上げ、政府を批判した。

 技能実習生が実習先の農家などから脱走する例が相次いでいることや、留学生を「労働者」として斡旋する仲介業者の存在などが問題視された。特にアジア人留学生に日本語学校の授業料などとして多額の借金を負わせ、日本の職場に送り込む例などがメディアでも紹介され、野党の追及材料になった。当『フォーサイト』でもジャーナリストの出井康博氏が珠玉の連載「『人手不足』と外国人」で様々な実例をルポしている。

 そんな「批判の的」である技能実習生や留学生が、まだまだ増え続けているのだ。新しい在留資格として「特定技能1号」「特定技能2号」という就労資格ができれば、「便法」として使われてきた「留学生」や「技能実習生」は減っていく、という見方もある。だが、実際には留学生資格でやってくる外国人は減らないのではないか。

 というのも、雇う側にとって「外国人留学生」は便利だからだ。日本人の学生アルバイト同様の低賃金で雇うことができる。社会保険などに加入させていないケースも少なくない。あくまでアルバイトだということで、労働基準監督局のチェックも甘くなる。そんな期待もあるに違いない。

本音と建て前のハザマ

 また、「特定技能1号」の資格ができても、「小売業」は対象にならない。まさしく「誰でもできる仕事」だという判断からだ。そこに外国人を入れれば、日本人の仕事が奪われる、というのが長年の理屈だった。

 現実にはコンビニで働く日本人自体が減っているので、外国人頼みはますます強まっていく。それでも外国人が働ける職種ではないので、「資格外活動」となる。

 業界からは技能実習の対象にコンビニを加えて欲しいという要望がかねてから出されているが、今のところ認められていない。つまり、留学生頼みであり、彼らを使い続けるほかないわけだ。

 特定技能1号の対象は14業種。建設、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業、宿泊業、介護、ビルクリーニング、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業である。

 これまで外国人労働者の受け入れが認められていなかった「宿泊業」が対象に加わり、「外国人」が参入し始めることになりそうだ。また、「留学生」のアルバイトが中心だった外食業にも、本格的に「労働者」が入ってくることになる。

 また、これまでは「技能実習」として受け入れるしかなかった建設、造船、農業、漁業などでは、技能実習が減り、特定技能1号の資格で労働者として働く人が増えるとみられる。技能実習は、実態は労働力の受け皿だが、あくまで国際協力が建前だった。この本音と建前のハザマで外国人たちが苦悩し、脱走などの事態が起きてきた。

 政府が出入国管理法の改正を急いだ背景には、建設現場の人手不足問題がある。技能実習制度での滞在期限はもともと3年だったが、建設や造船については5年まで延長できるよう法律が改正され、2017年から施行された。2017年に3年の期限が来た人は、2019年で5年になる。要するに、何もしなければそれで任期満了になったはずだ。

 東京オリンピックパラリンピックを前に仕事に慣れた外国人労働者に帰られては現場が立ち行かなくなってしまう。だからこそ、長期に滞在させる方法として特定技能1号、2号の資格が作られたとみていい。

 建設や造船は今回、特定技能2号の対象にもなっている。家族を帯同することもでき、無制限に更新申請ができる。事実上、日本に住み続け、働き続けることが可能になるわけだ。

 もはや、外国人労働力なしに、工事現場は回らない。外国人が5年、10年と現場で働き、熟練度を上げていけばいくほど、彼ら外国人なしに日本の現場は、今以上に回らなくなるだろう。必要不可欠な人材として無期限の居住を認める。これを移民と言わず、何と言うのだろうか。