外国人受け入れを「移民政策ではない」と言い張る政治家の重い責任 まだ本質から目を逸らすのか?

現代ビジネスに12月6日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58819

強行採決だから問題」ではない
外国人労働者の受け入れ拡大を目指す出入国管理法改正案は衆議院を通過し、参議院に議論の場が移された。

衆議院法務委員会での質疑は15時間45分、本会議を合わせても17時間で、野党から「拙速だ」という批判が上がる中で強行採決された。いわゆる「重要法案」としては異例の短さだったが、政府・与党などは参議院でも同程度の審議時間で採決し、臨時国会中に可決成立させたい考えだ。

国会での審議時間が十分かどうかという議論に意味はない。2015年の国会で可決された安全保障関連法は衆議院で108時間58分、参議院で93時間13分質疑が行われたが、結局は与党などの「強行採決」で可決された。

与野党が対立する法案でも、与野党間で協議して法案を修正、可決することもあるが、各党派の主義主張に関わる法案になれば、どんなに質疑時間を割いても折り合うことはまずない。

強行採決」も一種のパフォーマンスで、最後まで反対したという姿勢を見せることに本当の狙いがある。通常ではやらないプラカードを持ち込んで委員長席の周りを取り囲むのも、メディアに映されることを想定した演出と言っていい。

国会は、最後は多数決だから、採決されればどんなに少数派の野党が反対しても可決される。それが民主主義のルールだ。

実は、今回の法案は当初、与野党が歩み寄る可能性があるとみられていた。人手不足が深刻化する中で、外国人労働者の受け入れを拡大することが必要だ、という点では、多くの野党が一致していたからだ。国民民主党玉木雄一郎代表もいったんは賛成に回るそぶりを見せていた。

それはなぜか。野党が批判するように法案が「スカスカ」というのは事実だ。

新しい資格である「特定技能1号」と「特定技能2号」を新設することや、法務省の入国管理局を格上げして「出入国在留管理庁」にすることが柱だが、新資格の具体的な運用方法などは法案質疑ではほとんど明らかにならなかった。準備不足と言われれば返す言葉がない、といったところだろう。

法律が施行された場合、労働市場がどう変わっていくのか、政府も実際のところ、やってみなければ分からない、というのが本音。そこを野党に国会で突かれたというわけだ。

最大の「抵抗勢力」は誰なのか
だが、野党が政府案に歩み寄れなかった最大の問題は、労働組合との関係だ。結局、連合が今回の法案に反対だったことが、国民民主党も反対に回った理由だろう。

連合も建前では「外国人労働者の人権」などを最近は強調しているが、長年、日本人労働者の就職機会を奪うとして外国人受け入れに反対してきた「本音」から脱却できていない。

立憲民主党は当初から「安倍内閣に対決姿勢を取る」ことを狙って法案には反対する立場を固めていた。国民民主もそれに引っ張られる結果になった。

そもそも17時間の質疑が短いという批判はナンセンスだ。深刻な人手不足が始まったのは今の話ではないし、外国人労働者の受け入れ拡大が待ったなしになるというのも分かりきっていた。

日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減少に転じており、間違いなく働く人の数が不足することは10年前から明らかだったのだ。

本来ならばこの10年間に与党も野党も外国人労働者の受け入れ拡大について議論しておくべきだったのだが、一種の「タブー」として真正面から取り上げて来なかった。

技能実習生」や「留学生」と言った便法によって、労働者を受け入れるいわば「裏口」を作り、それで現実の不足を糊塗してきた。そうした政府のやり方を野党各党は事実上、見て見ぬふりをしてきたのだ。

臨時国会に法案が出てきて、野党議員は、技能実習生の「失踪」などを取り上げているが、技能実習生の失踪はもう5年も6年も前から問題視されていた。

結局、現場での人手不足が限界にきて、このままでは人手不足倒産や、人手が足らないことによる事業縮小、サービス縮小に陥ってしまう、というところまで追い込まれて、初めて今回の法案が出てきたのである。

野党にも自民党も、移民や外国人労働者の受け入れ問題をライフワークにしている議員はいないわけではないが、ごくごく少数だ。

自民党も基本的には心情的に「移民反対」の議員が多い。にもかかわらず、今回の法案が党内論議で通ったのは、人手不足を何とかしてくれ、という地元の企業や商工会などの切実な声を聞いているからに違いない。その点、野党よりも、経営者の悲鳴が自民党に届いているということだろう。

「移民政策」に正面から取り組む
だが、自民党の最大の問題は、安倍晋三首相(総裁)が「いわゆる移民政策は取らない」と強弁し、今回の法案で新設する在留資格も「移民受け入れには繋がらない」としている点だ。安倍首相が移民を入れないと言い続けているために、移民をどう扱うかという制度整備が後手に回っているのだ。

今回、入国管理局が格上げされる「出入国在留管理庁」は本来、外国人を単なる労働者ではなく、生活者として受け入れるための省庁にするという狙いが名称に込められている。「出入国管理」だけでなく「在留管理」も行うという意味だ。

本来は先進国の政府が持つ「移民庁」や「外国人庁」とすべきなのだが、移民を入れないと言っているため、そこまで踏み出せなかったのだろう。

もともと法務省は外国人の出入国を管理し、不良外国人を水際で拒むことや、不法滞在を摘発することに軸足を置いてきた。労働者としてウエルカムという役所ではないのだ。今回の組織改編で、この辺りがどう変化していくのか。

単なる労働力として外国人を見て国内に受け入れた場合、その後、大きなツケを払わされることは海外の移民受け入れ先進国の例を見るまでもない。仕事を失っても帰国せず、社会の底辺として居住を続ければ、大きな社会不安を引き起こしかねない。

ドイツなどはそうした過去の教訓から、居住を希望する外国人にはドイツ社会のルールを学ばせ、ドイツ語を習得することを義務付けている。

今回の「特定技能1号」でも日本語の要件が入っているものの、あくまで一時的な労働者という建前なので、どれだけ日本語習得に時間を割くかは何の保証もない。日本語習得に政府が多額の資金を投じることも想定されていない。

なし崩しで移民が増えていくことは避けるべきだ。日本に長期にわたって住む以上、日本語や日本のルールを身につけることを義務付けるべきだろう。そのためには「移民政策」に真正面から取り組む必要がある。野党も与党もそのための議論を真剣に行い、制度整備のための法案作りに取り組むべきだろう。