政府が決定「地銀の株式保有制限緩和」がもたらす重要な変化とは

5月30日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

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地方創生に役立つか

政府が、地方銀行に対して、株式保有制限の規定を大幅に緩和する方針を固めた。国の経済政策の方向性を決める経済財政諮問会議が近くまとめる「骨太の方針」に盛り込み、6月にも閣議決定する。

これまで銀行は、銀行法の規定によって、企業の発行済株式の5%までしか株式を保有することができなかった。これを地銀に限って大幅に緩和するとしている。上限をどう定めるかは決まっていないが、政府の規制改革会議では、100%の保有も認めるべきとの意見も出ている。

地方創生の流れの中で、地域商社や地域でのベンチャー企業などを立ち上げる動きが広がっているが、こうした企業向けに限って、5%を超えて出資することを認める方向。また、事業承継や事業再生の過程で、一時的に銀行が100%株式を取得することも想定している。銀行法を改正するか、省令によって地銀のみの特例とする、という。

地方創生を掲げる国は、官民ファンドに資金拠出したうえで、地銀などを通じて個別の地域創生ファンドを作っている。もっとも、なかなか民間からの出資が集まらずに規模を大きくできないケースが目立っている。地域活性化地方銀行を活用したいというのが、政府の考えだ。

地域活性化のほかにも、狙いがある。ゼロ金利政策によって地方銀行の収益が細り、このままでは地方銀行の存在が危ぶまれる事態に直面している。また、地方では人口減少によって新たな資金の需要も少ないため、預金を集めて貸し出しする旧来型のモデルでは事業が成り立たなくなっている。そこで、「融資」ではなく、「出資」を新たな収益源にしたいという意向が、地方銀行の間には根強くあった。

むしろこうした地方銀行の経営問題が、株式保有規制の緩和の「本音」とも言える。実際、経済財政諮問会議の民間議員を務める竹森俊平・慶應義塾大学教授は、4月19日の会議で「地方銀行の経営にとって重大な現実の危機がある今、5%ルールを緩和し、地銀が中小企業の事業継承を円滑化し、次の体制が作れるまでのブリッジの役目を担えるようにすることが重要だ」と提言している。

また、長引いたデフレによって貸付金の回収が進んでいない取引先企業もある。多くは地域で古くから営業する老舗企業が多く、業績が低迷していても強硬な資金回収ができないケースが少なくない。もっともこうした企業への追加出資は難しいことから、貸し出しを出資に切り替える「デッド・エクイティ・スワップ」などで支援を継続したいという声が地銀や地方経済界にも多くある。

リスクにも目を向けろ

今回のルール変更は、地方銀行や地方企業などを対象として想定しているものの、法令でどこまで対象を限ることができるかどうかは微妙。地方銀行だけでなく都市銀行に企業の株式保有を認めれば、大手の企業の株式保有に広がっていく可能性もある。

銀行の株式保有を5%以下に限ってきたのは、銀行の「貸し手」としての役割と株式を保有する「株主」としての立場が、利益相反になる可能性が高いため。株主として経営に口を出す一方で、他の株主に先駆けて融資の資金回収を優先するということになりかねない。実際、5%以下の株式保有に限っていても大企業の場合は筆頭株主などになるケースが少なくなく、経営危機に陥った際などは「株主」として情報を得る一方、資金回収を急ぎ、他の株主よりも優位になった事例が実際に起きてきた。

こうしたことから、米国では銀行による企業の株式保有が原則禁じられているほか、利益相反を恐れて、実際に株式を保有する銀行はほとんどない。欧州ではドイツの銀行が日本と同様に「株式持ち合い」の中核的な役割を長年果たしてきたが、2000年前後から急速に持ち合いの解消が進んだ。

銀行が上場企業の株式を大量に保有した場合、株価の下落によって多額の損失を被る可能性があり、そうしたリスクを回避するために、保有株の売却が進んだ。

日本も戦後、銀行を中心とする株式持ち合いが広がったが、バブル崩壊をきっかけに保有株に損失が発生するケースが急増、持ち合い解消が求められてきた。持ち合いによるいわゆる「安定株主」が、経営者が株主総会にかける「会社側提案」に無条件で賛成し、白紙委任する例が長年続いたことから、コーポレートガバナンス上も問題視されてきた。

最近では企業が銀行株を保有する場合なども、「保有目的」やその経済的効果を説明することが求められるようになり、株式持ち合いは急速に減少し始めていた。

そんな中で、銀行の株式保有制限を大幅に緩和することは、こうした流れに逆行することにほかならない。地域で力を持つ地方銀行が「投資家」と「融資者」の両方の立場を持った場合、より深刻な利益相反に直面する可能性がでてくることも懸念される。また、地銀が企業に対して、担保をとったうえでの融資ではなく、経営破綻すれば紙くずになる株式に「投資」することは、これまで以上にリスクを取ることになるだけに、地方銀行を救うどころか、深みに陥れる結果になりかねない。

仮に株式保有の拡大が地域の老舗企業にも及ぶことになれば、地方企業と地方銀行の「一蓮托生」の関係がさらに深まる。「規制緩和」と言えば聞こえはよいが、預金者から集めた「元本保証」の資金を、「ゼロになる」リスクにさらすことになる。