現代ビジネスに11月14日掲載された連載記事です。是非お読みください。オリジナルページ→
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68419
3年ぶりの経済対策
消費増税による景気底割れを食い止めようと政府が必死だ。安倍晋三首相は11月8日の閣議で「経済対策」の策定を指示し、2019年度補正予算と2020年度予算を一体の「15ヵ月予算」とする方針を示した。「機動的かつ万全の対策をとる」としている。
政府がこうした「経済対策」に踏み切るのは2016年8月以来、3年ぶりという。それだけ、足下の景気の先行きに不安を感じているということにほかならない。
もちろん、台風19号などによる風水害など、相次いで日本列島を襲った災害対策は緊急に必要だ。こうした対策費の確保に補正予算を組むことは不可欠である。
だが、景気の底割れを防ぐために政府支出を大幅に増やす「経済対策」として、いったい何をやろうというのだろうか。財政赤字の中で政府がさらに財政支出を拡大するということは、それ相応の効果が見込める必要がある。
災害対応もあって公共事業は増やさざるを得ない。だが、こうした公共事業による経済波及効果はかつてほど大きくない。大型の土木工事によって雇用を生み、家計を潤わせて消費増につなげ、再び企業の収益を押し上げるという「旧来型」の「経済好循環」はその効き目が限定的になっている。
ここ20年来の公共事業の削減で、地方の土木会社などが減少し、そこで雇用される人の数も大きく減った。むしろそうした工事の現場は人手不足が深刻化し、財政出動で仕事が増えても、それを消化することが難しい。財政出動しても、それが経済好循環につながっていかないのである。
いい案があるわけではない
12月に向けて各省庁が知恵を出し補正予算案を組むことになるが、各省庁も「お腹がいっぱい」というのが実態だ。
かつては本予算での各省庁の予算要求が厳しく査定され、予算として認められないものがあると、「補正予算で」というのが財務省と各省庁の落とし所になっていた。どうしても各省庁がやりたい事業があれば、補正予算で復活させるという手が使われてきたのだ。
だが、ここ数年は、税収が増えていることもあり、各省庁の予算要求は概ね認められている。さらに「経済対策」と言われても、すぐには思いつかないというのが実情だ。
もちろん、政府が「経済対策」をやると決めれば、各省庁はアイデアを絞り出す。今回は5兆円と言われているので、2020年度予算と合わせれば、かなりやりたい放題の要求ができる。
かつて、復興予算に被災地ではない遠隔地での公共事業が数多く含まれていて問題になったが、とりあえず、「経済対策」の名目が立てば大盤振る舞いされることになるだろう。
本来はそれで経済波及効果がどれぐらい出たかが、厳密に評価されるべきだが、国の予算執行はほとんどチェックされておらず、国会の決算委員会も長年重要性が指摘されながら予算委員会重視の国会運営は一向に変わらない。
日本のGDP(国内総生産)の6割以上は消費である。その消費が底割れしかけている時に、政府支出で企業収益を増やし、それが給与として家計に回るのを待っている余裕はない。
実際、消費増税にあたっては、消費に直接働きかけるポイント還元やプレミアム商品券などが導入された。消費を直接底上げしようという施策だが、制度が複雑だったこともあり、今ひとつ効果を上げていない。
もともと経済産業省や金融庁が後押しいていた「キャッシュレス化」を推進したいという政策目的と、消費を増やしたいという政策目的を一緒くたにして実行に移した筋の悪い施策だったことが、広がっていない理由だ。
結局、昔ながらの財政出動頼み
経済対策でまた何らかの「バラマキ」が出てくることになりそうだが、本当にそれが効果を上げるのか、心もとない。
企業が賃上げや設備投資に、おカネを使わず、「内部留保」として溜め込んでいることへの対応も今ひとつだ。
甘利明・自民党税調会長は就任早々、内部留保を吐き出させる税制の導入に意欲を示した。
2018年度の企業が持つ「内部留保(利益剰余金)」(金融業・保険業を除く全産業)は463兆1308億円と、前の年度に比べて3.7%増加。2008年度以降毎年増え続け、ここ7年は連続で過去最大となっている。法人税率の引き下げも「内部留保」の増加に拍車をかけてきた。
野党からは「大企業優先、金持ち優先の税制」の象徴として槍玉にあげられてきたが、政府の懸念をよそに、企業は賃上げや投資になかなか資金を振り向けていないのが実情だ。
安倍内閣は第2次内閣以降、「経済好循環」を掲げ、好調な企業収益を賃上げによって家計に回すことや、積極的な設備投資や配当の増額などを求めてきた。だが、その効果は十分に出ていない。
この「内部留保」をどうするかが日本経済を動かすことのカギを握っているとみられる。これに甘利氏が手を付けようとしているわけだ。
だが、その手法は、相変わらずの「太陽政策」である。企業にM&A(合併・買収)を促すような優遇税制を設けることで、内部留保を吐き出させようという戦略だ。内部留保に課税すべきだと「北風政策」を主張する向きもあるが、自民党内では少数派である。
アベノミクスの「3本の矢」の3本目として安倍首相は「民間投資を喚起する成長戦略」を掲げてきた。だが、昨今は1本目の「大胆な金融緩和」にも、成長戦略の柱である「規制緩和」にも、安倍内閣は消極的に見える。
そして2本目の「機動的な財政出動」にばかりウエートが増している。1本目と3本目のない財政出動はかつての「古い自民党」の政策そのものだ。積極財政が「古い自民党」政権の復活にならないことを祈るばかりだ。