消費増税、「駆け込み」小さくとも大きな「反動減」がやってくる?  景気底割れなら野党共闘の5%減税攻勢

現代ビジネスに11月7日に掲載された拙稿です。是非ご覧ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68262

駆け込み需要はあったが

消費増税から1ヵ月。日本経済が失速する懸念が強まっている。

政府は消費増税の影響を小さくするためにポイント還元など思いつく限りの手を打ってきたが、どうもその効果は限定的。もともと低迷していた消費の底が抜けかねない。野党は「5%への減税」を掲げて一本化しはじめており、安倍晋三内閣も追加の経済対策に乗り出す。

日本百貨店協会がまとめた2019年9月の全国百貨店売上高(店舗数調整後)は、前年同月比23.1%増と大幅な増加になった。中でも宝石や絵画、高級時計などの「美術・宝飾・貴金属」部門が102.9%増、つまり前年同月に比べて2倍になった。また、ハンドバッグなど「身の回り品」も32.8%増、衣料品も19.2%増となった。久方ぶりの大繁盛だったわけだ。

2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられた時も「駆け込み」が起きた。3月の百貨店売上高は25.4%増、「美術・宝飾・貴金属」部門は113.4%だった。

直前の単月だけを見ると、似た数字になるのだが、増税前半年を見ると、状況は全く違う。半年前の2013年10月には0.6%のマイナスだったものが、11月2.4%増→12月1.7%増→1月2.9%増→2月3.0%増と3月まで5カ月連続のプラスを記録していた。

ところが今回、半年前の2019年3月こそ0.1%の増加だったが、4月1.1%減→5月0.8%減→6月0.9%減→7月2.9%減と4カ月マイナスが続き、ようやく「駆け込み」が現れたのが、8月の2.3%増だった。明らかに駆け込みの規模が違ったのである。消費の足下が悪い中での消費増税に反対の声を上げる専門家が少なくなかったのはこのためだ。

政府は駆け込み需要が大きくならなかったのを、増税後のポイント還元など対策の効果だとして、プラスと見ているようだが、本当だろうか。

反動減は大きく

百貨店大手4社が11月1日に発表した10月の売上高速報によると、各社とも前年同月比20%前後の大きな落ち込みになった。駆け込みが大きくなかったにもかかわらず、「反動減」は大きく出ているのだ。

これは自動車の新車販売でも似た状況だ。日本自動車販売協会連合会と全国自動車協会連合会が11月1日に発表した10月の国内新車販売台数は、24.9%減の31万4784台だった。

軽自動車を除く登録車は26.4%減で1968年の統計開始以来、10月として過去最低を記録した。登録車は7月に6.7%増とプラスに転じ、8月4.0%増、9月12.8%増とプラスが続いた。9月を除けば「駆け込み」が盛り上がったとは言えないが、反動減は予想以上に大きかった。

消費税2%の増税は5.6兆円の税収に相当するが、食料品などの軽減税率が1兆円分に当たり、税収増は4.6兆円ということになる。

10月からの実施だから半年分で2.3兆円の税収増だが、政府は2019年度予算で2兆円の増税対策を盛り込んでいる。つまり、税収で増えると見込まれる分を、増税対策支出として吐き出し、実質的に経済へのインパクトをゼロにしようとしたのである。

ただし、今回導入されたポイント還元策には3000億円程度が使われるが、期限は半年で、大きな効果が出るとは期待できない。

ポイント還元を受けるにはキャッシュレス決済の利用が条件になっているが、利用を拡大しているのは元々利用していた人たちが中心で、政府が狙った高齢者などでの利用はあまり広がっていない。

もともとキャッシュレス決済は経済産業省金融庁が旗を振っていた政策で、本来は消費増税には関係ない。つまり政策目的が違うものを消費税対策にしているのである。さらに、ポイント還元の期限が切れた際には、再び反動減が生じる可能性もある。

政治的な反動まで

駆け込み需要が小さかったのに、予想以上の反動減が生じている結果、景気の先行き、特に消費動向を懸念する声が強まっている。

新聞各紙は、安倍首相が追加の経済対策の策定を指示へ、と一斉に報じた。防災や成長力強化へ4兆円から5兆円規模になるとし、12月上旬に取りまとめて、2020年の通常国会冒頭で補正予算を成立させる方向と言われる。

大型台風による風水害は各地に甚大な被害を与えており、その復旧等に費用がかかるのは当然である。だが、防災予算で堤防やダムを作っても、経済波及効果が大きいわけではない。すでに土木工事などの公共事業は人手不足が深刻で、予算をつけても執行されない状況が続いている。

「成長力強化」と言ってもそれが何に使われるのか判然としない。各省庁が頭をひねって企業への助成金の支給拡大などを打ち出すと思われるが、それが本当に経済成長につながるのか、微妙である。特に、今問題なのは可処分所得の減少で現役世代の消費が落ち込んでいることにある。

一方で、所得控除の見直しなどで所得税も増える方向になっているほか、健康保険料など社会保険料負担もジワジワと増えている。それで消費を増やせと言っても難しい。

そんな中、野党各党が「共闘」の旗印として「消費税率5%への減税」を打ち出している。

れいわ新選組山本太郎代表と、民主党政権で国交大臣を務めた無所属の馬淵澄夫議員が消費税5%への減税を目指す勉強会を立ち上げた。また、共産党も「消費税廃止を目指し、まずは5%に」とこうした流れに呼応する動きが出ている。

2019年の臨時国会から共同の院内会派を作った立憲民主党、国民民主党社民党などはもともと「5%への減税」を打ち出しており、野党共闘の分かりやすい共通政策になる可能性は十分にありそうだ。

景気失速が誰の目にも明らかになれば、消費増税が引き金だったと感じる国民が増え、野党の5%への減税案が一気に支持を得ることもあり得る。そうしないためにも、いくらでも財政出動して景気底割れは食い止めるというのが当面の政府・自民党の対応策になるだろう。