開いた口が塞がらない関電の「常識外れ」 金品受領が隠ぺいされ続けた企業風土

ビジネス情報誌「エルネオス」11月号(11月1日発売)『硬派経済ジャーナリスト磯山友幸の《生きてる経済解読》』に掲載された拙稿です。是非お読みください。

 

エルネオス (ELNEOS) 2019年11月号 (2019-11-01) [雑誌]

エルネオス (ELNEOS) 2019年11月号 (2019-11-01) [雑誌]

 

 

関西電力の役員らの金品受領問題では、関電と世の中の「常識」の乖離に啞然とさせられた。同社の原子力発電所がある福井県高浜町森山栄治元助役(故人)から約三億二千万円の金品を関電幹部が受け取っていたというもので、そこには八木誠会長(写真左)や岩根茂樹社長(同右)も含まれていた。
 九月末の報道で明らかになり、十月二日には社長、会長が記者会見したが、当初は二人とも続投する意向を示していた。「原因究明、再発防止を行い、少しでも会社の信頼を上げられるように、先頭に立って経営責任を果たす」というのがその理由だった。金品を受け取っていたことを認めながら辞任しないという「常識外れ」には、世間から厳しい批判が浴びせられた。大株主である大阪市松井一郎市長や、監督官庁経済産業省菅原一秀大臣らが批判の声を上げたのだ。
 それから一週間、十月九日に再度会見を開いた関電は、八木会長が即日辞任することを発表した。その一方で、岩根社長については、同日設置した「第三者委員会」の調査報告が出次第、辞任するとした。
「第三者委員会」というと会社から完全に独立して強い調査権限を持つ組織のような印象を受けるが、実態は違う。人選をするのは関電の取締役会で、依頼主は関電。委員には多額の報酬が支払われるが、これも関電が支払うことになる。金品受領を認めて調査対象になる岩根社長が、委員会を委嘱する側のトップに居座り続けるというのも、どうみても「常識外」だろう。

監査役が機能しない
コーポレートガバナンスの欠如

 もともとこの案件は、税務当局が調査に入ったことから関電側も承知しており、昨年には「調査委員会」を作って調べていた。委員だった弁護士から「不適切だが違法ではない」という意見を得たとして、社外には公表せず、軽い社内処分を行っていた。それですべてを「終わり」にしようとしていたのだ。
 金品については先方が強引なために返すことができず、「預かっていた」と主張しているが、五十万円の背広仕立券については「儀礼の範囲内」ということで受け取っていたことも判明している。会長や副社長ら十一人が仕立券七十五着分三千七百五十万円相当を受け取り、大半は返却していなかったことも判明した。
 五十万円の仕立券で、すべてスーツを作ったかどうかも怪しい。関電の役員ともなれば五十万円のスーツを着るのが当たり前なのか。仕立券は百貨店なら他の商品が買える引換券に替えてくれるし、金券ショップなどで換金することもできる。事実上、金銭を受け取っていたに等しいわけだ。それでも儀礼の範囲内と言い張るあたり、やはり常識外れだろう。
 なぜ今回のような金品の受領が長年にわたって続き、しかもその事実が発覚しても問題にされずに、社内で秘密裏に処理されようとしていたのか。原発マネーが還流したともいえるこのスキャンダルを、小さな問題で済ませてしまう「風土」が関電に根付いているということにほかならない。逆に言えば、世間に知られたら大問題になるスキャンダルは、徹底的に隠ぺいして社内で処理してしまうという「社風」、企業風土があるということだろう。
 社内の調査委員会が「不適切だが違法ではない」という結論を下した報告書は、関電の監査役も知っていたと報道されている。社外監査役も知らされていたが、「違法ではない」という言葉を信じて取締役会には報告しなかったという。会社に問題があれば取締役会に報告するのが監査役の役割だが、それがまったく機能していなかったのだ。コーポレートガバナンスの欠如と言っていいだろう。
 実は、関電が主力メンバーである関西経済連合会関経連)は、国が進めているコーポレートガバナンスの強化に強く反対してきた。政府は会社法の改正で社外取締役を一人以上義務付けることを目指しているが、関経連はこれに反対する意見書を出した。関電の問題が発覚する直前のことだ。ルールで義務付けるのではなく、会社自身の考えで対応すべきだ、というのが趣旨だ。辞任した八木氏は関経連の副会長で、次期会長と目されていた。

調査される岩根社長の居座りと
経営のプロ不在の第三者委員会

 上場企業の規範として東京証券取引所が示しているコーポレートガバナンスコードでは複数の独立社外取締役を置くよう求められている。不祥事を起こした会社では過半を社外取締役とするケースも増えている。例えば、日産自動車はゴーン元会長の逮捕を受け、二〇一九年六月の総会で社外取締役を過半にした。
 九月に西川廣人社長兼CEO(最高経営責任者)を事実上更迭した背景には、社外取締役の厳しい声があった。取締役会では西川氏に退出を求めたうえで、退任を求める意見をまとめた。
 では、関電の場合、八木会長の辞任劇は社外取締役が声を上げた結果なのか、というとそうではないようだ。関電の社外取締役はいずれも関西財界の「お仲間」で、二人は関経連副会長を務めている。しかも、関電はその二人の会社の大株主でもある。どうみても独立性があるとは言えない。
「第三者委員会」は今回の問題の真相を究明し、再発防止策を十二月末までに提言することになっている。だが、現実には強制調査権限をもっているわけではないので、会社側の協力なしには調査は進まない。その会社側のトップに岩根社長が居座っている「意味」は大きいだろう。
 しかも第三者委員会の委員は元検事総長はじめ法曹界の重鎮ばかりで、経営のプロはいない。有効な再発防止策を示せるのかどうか。
 再発防止に必要なことは、関電の「風土」を一変させることだ。今回の問題に少しでも関わった人物は退職させるか、重要なポストからはすべてはずさなければダメだ。また、社外取締役を過半にし、真に独立性の高い人物を社外取締役や社外監査役に据えるべきだろう。
 公益性の高い企業だからこそ、コーポレートガバナンスの徹底が不可欠なのだ。