伝道師・江島健太郎「Quora」日本代表が目指す新しい“知の集積”  フェイクのない言論空間を作りたい

現代ビジネスに4月2日に掲載されました。是非ご覧ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71547

情報伝達や言論活動がインターネットによって大きく変わったのは言うまでもない。だが一方で、真実かどうか分からない情報や意図的な誤情報、いわゆる「フェイク・ニュース」がネット上に氾濫することになったのも事実だ。ネット上に嘘のない言論空間や正しい情報だけが流れる場はできないのか。

2010年に、知識共有プラットフォームを目指して米国でスタートしたSNSサービス「Quora」の日本代表でエバンジェリスト(伝道師)の肩書きを持つ江島健太郎さんに聞いた。

SNSにまともな言論空間はほとんどない

 新型コロナウイルスの世界的な感染爆発によって、なかなか直接会っての情報交換が難しくなる中で、ネット上の情報が一段と大きな影響力を持つようになっています。

江島 SNSソーシャルメディアの広がりで、ネット上に流れる情報量は大きく増えました。しかし、「言論空間」としてまともな存在になっているものは、まだほとんどないのではないでしょうか。

新聞など旧来のジャーナリズムは中立公正を重視し、両論併記を心がけるなど、言論が守るべきルールを保ってきました。ところが、SNSなどのネット上の場合、議論というよりも、自分に似た意見に同調し、「信念を強化」する場になっています。

 他人の意見を聞かなくなっている、と。

江島 ええ。自分の意見と同じ人をフォローしたり、つながったりする事で、自分に近い意見しか入ってこなくなります。自分と違う他人の意見はどんどん聞かなくなって、閉じこもっています。

 自分が気に食わないニュースについて「フェイク・ニュースだ」と攻撃するパターンですね。

江島 今、世界の政治情勢を見ていると、過激な指導者を一定の熱心な人たちが支持し、一方でまったく支持しない人との間には、大きな断絶が生じている。世界の分断と言われますが、これはSNSなどネット上の言論の広がりによって、こうした分断を生んでいるのではないかと考えています。

正しい情報を元に、知的な議論ができる場はできないか、と長年考えてきました。

Q&Aで専門知識を共有化

 そしてQuoraに出会った。

江島 はい。QuoraはもともとFacebookの初代CTO(最高技術責任者)だったアダム・ディアンジェロが作った会社が始めたサービスです。アダムは、すでにFacebookで資産を得ているので、経済的な大成功を追い求めるのではなく、世の中にとって価値のある事をやりたい、と言って生まれたのがQuoraです。

「知識を深めて広める」と言うのがミッションで、Q&Aスタイルで、それぞれの人の脳に眠っている知識をオンライン上に引っ張り出す事で共有財産化する事を狙っています。ウイキペディアとやろうとしている事は同じです。

 Q&Aの形をとっているのですね。

江島 専門家の知識を引き出すのにQ&A形式は大きな力を発揮します。ただ、あるテーマについて原稿を書いてください、と言うよりも、質問が的を得ていれば、より良い回答が引き出せます。ツイッターと同じように短い文章で「質問」を出すと、それに専門知識を持っている人たちが答えるわけです。

素晴らしい質問をする質問者を評価する仕組みも導入しています。パートナーと呼ぶ会員に奨励金を出し、質問する人を増やす工夫をしています。

実名性にこだわる

 誤った情報やフェイクニュースを防ぐことができるのですか。

江島 実名性にこだわっています。回答者が実名で答えることによって、誤情報やフェイクがかなりの部分防げます。

Quoraには実名で、専門家や有名人が多く参加しています。英語版ではバラク・オバマ氏やヒラリー・クリントン氏などの政治家もユーザーに名を連ね、政策に対する質問などに答えています。

日本人では宇宙飛行士の野口聡一さんもユーザーです。Quoraは専門性の高い領域が狭い質問に強い特徴があると思います。

 実名にすることできちんとした議論ができるようになりますか。

江島 当初、実名にすると日本人は本音を言わないのではないか、という危惧があったのですが、杞憂でした。もちろん、良い回答か、読むに値するコンテンツかどうかは評価しなければなりません。

Quoraの仕組みではAI(人工知能)を使って自動的に評価を行う仕組みを導入しています。ただ現実にはAI任せでは無理なので、人も評価に加わっています。犯罪に繋がる専門知識などが広がることは避けなければなりませんから。

フェイクニュースを排除したい

 日本ではQuoraの知名度はまだこれからのようですが。

江島 全世界で月間のユニークビジター数が3億人を超える巨大プラットフォームになっています。日本語版は2017年11月にスタートしました。アカウント数などは公表していませんが、日本でも誰でも知っているプラットフォームになっていくと思います。

 新型コロナウイルスに関する情報を扱うQ&Aも増えているようですね。

江島 テーマ別に知識を共有できる「スペース」という機能があり、日本語版でも2019年4月からリリースしました。同じ興味やバックグラウンドを持つ人たちが集まり、情報を交換したり、専門分野に特化した知識コンテンツをシェアし合う仕組みです。

すでに「新型コロナウイルス情報室」というスペースを立ち上げています。医師や研究者などの専門家が集まることで、デマやフェイクニュースを排除し、正しい情報交換、意見交換ができると期待しています。

 

【江島健太郎(えじま・けんたろう)】 香川県生まれ。1998年、京都大学工学部卒業、日本オラクルに入社。その後、インフォテリアに移り、インフォテリアUSA設立のためシリコンバレーへ渡米。パンカクに参画、ニューヨークにてEast Meet Eastを創業し、その後帰国。Quoraのユーザーだったことがきっかけで、米Quora社の日本進出を担当することに。