「コロナ倒産」の連鎖が始まる――「雇い止め多発」の中小、2159万人の非正規を守れ

ITmediaビジネスオンライン#SHIFTに連載されている『滅びる企業生き残る企業』に4月14日に掲載されました。是非お読みください。オリジナルページ→

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2004/14/news038.html

 コロナウイルスの蔓延(まんえん)で日本の多くの企業が大打撃を受け始めた。国境を越えての移動がほとんどストップしたことで、日本航空JAL)やANAホールディングスANA)など航空会社の利用客が激減しているほか、新幹線を運行するJR各社も乗車率が、過去に経験のないほどの落ち込みになっている。

 また、非常事態宣言の発出などで営業自粛を求められた百貨店やスポーツジムのほか、客足が激減している飲食店など、売り上げが「消滅」しているところも少なくない。国は新たな助成金の導入などで支援に乗り出しているが、規模・スピード共に不十分で、今後、企業の破綻が相次ぐ可能性が日に日に高まっている。

 航空会社の減便は国内線にも及んでいる。ANAは4月9日、翌10日から19日までの国内線のうち、49%に当たる56路線1523便を減便すると発表した。4月7日に政府が非常事態宣言を出したことで、予約が大幅に減少したことを受けた。航空券が乗車券を手数料無しに払い戻しており、業績への影響は計り知れない。

 JR西日本は4月10日、新型コロナウイルスによる政府の「緊急事態宣言」が発効した後の4月8、9日の2日間でみると、山陽新幹線と在来線特急の乗車率がいずれも前年同期の17%に落ち込んだと発表した。長谷川一明社長は記者会見で「経験したことのない厳しい経営環境」だと語ったと報じられた。

 こうした交通インフラ企業の場合、人件費や資材費などの固定費が大きい。売り上げの激減で、いわゆる損益分岐点を下回ると、巨額の赤字が出る。欧米企業のように一時帰休や解雇によって人件費をカットできれば、固定費を早期に削減することは可能だが、長期雇用を前提とした日本企業では簡単には人員整理はできない。

 もっとも、そうやって人員を削減してしまえば、新型コロナの蔓延が終息した後も、旧来の事業規模に戻すことは難しくなる。経済を支えるインフラとして、人員削減や事業規模の縮小はできないのだ。つまり、赤字を出しても耐え忍ぶほかに術がない、ということになる。

  日本企業の場合、比較的手厚い内部留保保有している。この連載の1回目でも触れたが、2018年度の日本企業(金融業・保険業を除く全産業)の利益剰余金、いわゆる内部留保総額は463兆円に達する。2008年度以降増え続け、ここ7年連続で過去最高額を更新してきた。

 日本企業の内部留保が増え続けてきたことについては政治家や投資家などから批判が浴びせられ続けてきたが、今こそこれを取り崩して、雇用の確保などに取り組み、耐え忍ぶべきだろう。

 ANAの四半期報告書によると、2019年12月末現在の連結ベースの剰余金は6096億円。2018年度1年間の従業員給与と賞与の合計額はざっと400億円だから、計算上は耐えられるだけの体力はありそうだ。JALも昨年末で8400億円の利益剰余金を持つ。

 

 米国ではドナルド・トランプ大統領が企業救済を盛り込んだ緊急の経済対策を打ち出し、数週間で議会を通過させて3月27日に署名、法律が発効した。

 総額2兆2000億円(約230兆円)。全国民に対して、大人1人1200ドル、子ども1人500ドルを給付するというのが柱で、4月中には給付される見込みだ。これには5000億ドル規模の企業救済資金も含まれており、航空会社など大打撃を受けているインフラ企業が対象として想定されている。

 トランプ大統領が当初、救済案をぶち上げた時には、大企業救済に否定的な声も議会にはあったが、その後の感染拡大が進んだことから議会も協力姿勢を取った。

 日本でも緊急事態宣言が出された4月7日に、経済対策が閣議決定された。1世帯あたり30万円を給付するという内容だが、所得の大幅な減少などが要件になっている。やはり売り上げが大きく減った中小企業に最大200万円、個人事業に最大100万円の給付を行う制度が新設されたほか、東京都も独自に営業自粛要請に協力した店舗に50万円を支給することを決めた。もっとも大企業に対しては政府金融機関による融資枠の拡大などにとどまっている。

タクシー会社や名門ライブハウスも営業終了

 1世帯30万円というと一見多額だが条件となる所得制限はかなり厳しい。米国で夫婦子ども2人の世帯ならば3400ドル(約37万円)が無条件で配られるのとは大きな違いだ。しかも米国は4月に配るが、日本は早くても5月中という有りさまだ。

 新型コロナの蔓延を阻止するためには、人の動きを止めることが不可欠だ。都市封鎖に踏み切っている欧米諸国と違い、日本は外出自粛要請にとどまっている。東京都の小池百合子知事は緊急事態宣言の発出後、百貨店や居酒屋などに営業休止を要請すると見られたが、国との調整の結果、居酒屋を含む小規模飲食店については営業時間の短縮要請などにとどまった。

 営業休止を求めた場合、営業補償をどうするかという問題が浮上するため、国が首を縦にふらなかったということが背景にあるようだ。

 耐え忍ぶ体力がある大企業はともかく、中小企業や個人事業主が経営する店舗などは、売り上げが激減すれば、耐え忍ぶことは難しい。小規模の飲食店などは、通常ならば毎日の売り上げが入ってくる「日銭商売」であるため、潤沢な「内部留保」を持っているところはほとんどないと見ていい。

 

 売り上げが激減、いや、現状の場合、売り上げが消滅しているところも少なくなく、迫る月末の支払いにすら事欠くというのが現実だ。従業員の人件費や、家賃、仕入れ代金をどう支払うか。政府の支援金が出るのをのんびりと待っている余裕はない。

 北海道・札幌のライブハウス「COLONY」が4月12日、翌日をもって店舗営業を終了し、4月末日で閉店すると発表した。2001年にオープンした180人収容のライブハウスで、北海道内外からさまざまなバンドが出演、人気を誇ってきた。

 中国人観光客などに人気だった北海道では国内でもいち早く新型コロナの感染が拡大、2月28日には北海道知事が独自に、法的な裏付けのない「緊急事態宣言」を出し、外出自粛などを求めていた。その後、いったん感染者の増加は鈍化したが、ここへきて再び増え始めている。営業自粛などが続いた結果、2カ月あまりで閉店に追い込まれたことになる。

 

 東京都内でタクシー事業を展開していた「ロイヤルリムジン」は、緊急事態宣言が出た翌日の4月8日に、ほぼ全従業員にあたる約600人を解雇すると発表した。「解雇して雇用保険の失業給付を受ける方が、従業員にとってメリットが大きいと判断した」というのが会社側の説明だった。

 新型コロナウイルスの国内感染が発覚した初期にタクシー運転手の罹患が報じられ、義理の母親が国内感染者初の死亡者になったこともあり、タクシー利用を避ける人が激減、タクシー会社は軒並み苦境に立たされている。雇用調整助成金などの支給を待っていては、人件費負担で押しつぶされると経営者は考えたのだろう。政府や連合の幹部は解雇を批判しているが、会社としては止むに止まれぬ判断だったということだろう。

雇い止めから守れ 2159万人の非正規

 人件費負担の大きい飲食店などの経営規模の小さい会社の多くは、パートやアルバイトなど非正規雇用に頼っているケースが多い。こうした店舗で売り上げが「消滅」した場合、泣く泣くパートやアルバイトを雇い止めにするほかない。正規雇用でなければ、仕事がなくなれば時給制のパート、アルバイトは収入を失う。

 労働力調査によると2月末時点で、非正規従業員は2159万人。雇用者全体の38%に達する。アルバイトが477万人、パートは1059万人にのぼる。失業保険でもカバーされていない人が多くいる。飲食店や小売店などの小規模企業を何としても破綻から救わなければならない。いったん潰れてしまえば、新型コロナが終息しても、経済は復活できなくなってしまう。