現代ビジネスに4月16日に掲載された拙稿です。オリジナルページ→
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71886
さすがに激減
新型コロナウイルスの蔓延に伴う入国規制などによって、日本に入国する外国人の数が激減している。
出入国在留管理庁が4月14日に発表した今年3月の入国者総数(速報)は21万7671人で、前の年の同じ月の275万2194人から92%減と10分の1以下になった。日本政府が3月5日から中国と韓国に滞在歴のある外国人の入国を規制する措置を取ったことで、中国、韓国からの入国者が激減した。
昨年3月には64万9137人だった中国からの入国者が、1万2272人と2%未満になった。このうち8556人が日本に居住する人など再入国者だったので、新規入国者はわずか3716人だった。また、韓国からの入国者も2万867人と前年3月の61万2410人と4%未満になった。
新型コロナへの日本政府の対応は当初、後手に回っていた。海外からの訪日旅行客の入国を止めるのが遅すぎたとも批判の声が上がっている。
感染が始まった武漢を含む湖北省滞在外国人の入国を規制したのは2月1日。中国などの正月である「春節」の休みだった1月24日から30日までは自由に日本にやってくることができた。
この間に中国人観光客が日本国内で落とすインバウンド消費への影響や、予定されていた習近平国家主席の国賓としての来日に水を差したくない政府が慮ったという見方が広がった。
結局、春節期間中には大勢の中国人観光客が日本を訪れた。1月の中国からの入国者数は出入国在留管理庁の調査ベースで88万8569人と、前の年の68万8759人を大きく上回った。
失敗の水際作戦
今から見れば、これが失敗だった。武漢からの観光客を乗せたバス運転手の感染が明らかになったのは1月28日。その後、同乗していたバスガイドの感染も判明した。
入国規制を浙江省や韓国大邱市に拡大したのは2月26日、中国・韓国全土にそれを拡大したのは前述のように3月5日になってからだった。
入国規制など新型コロナへの対応が遅いという世の中の批判が効いたのか、安倍晋三首相は小中高校の臨時休校に踏み切ったが、3月7日には大阪のライブハウスでの集団感染が明らかになるなど、国内での感染が一気に広がり始めた。それでも3月中は、国境を完全に閉ざしたわけではなかった。
3月上旬の段階では中国・韓国以外の国は入国規制を行なっていなかったのである。出入国在留管理庁の統計によると、3月中に米国から2万4806人、ベトナムから2万1610人、フィリピンから1万6549人が入国していた。感染拡大が深刻化しているヨーロッパからも4万1627人が入国。3月時点ですでに死者が急増していたイタリアからも1539人、スペインからも1824人が入国していた。
羽田空港などから入国する際には検疫カウンターを通過するが、非接触型の体温検知カメラが設置されているだけで、何事もなかったように入国外国人が通過していた。熱がない無症状の感染者はチェックできずに国内に流入していたのではないかと見られている。水際で封じ込めるという当初の政策は失敗だったとみていいだろう。
4月はもっと悲惨
4月7日に非常事態宣言が出たことで、中国・韓国だけでなく、欧米からの入国者は激減するだろう。
近年、日本の桜見物が外国人観光客の間で人気を博し、桜のシーズンである4月は、夏休みの7月に次いで訪日外国人旅行者が多い。昨年の4月は288万5456人の外国人が日本を訪れた。おそらく今年の4月は「激減」どころか「消滅」と言って良いほどに外国人観光客がいなくなるに違いない。
全日本空輸(ANA)は4月25日から5月15日までの国際線運行計画を見直し、4月13日に発表した。
計画していた72路線3676便のうち90%にあたる3323便を運休・減便する。48路線で、羽田-シンガポール線や羽田-パリ線など48路線で全便運休とした。また、通常は1日3往復だった成田-上海・浦東線や羽田-バンコク線、1日2往復だった成田-シンガポール線や羽田-フランクフルト線など18路線で減便するとした。
通常通り運航するのは週7往復(1日1往復)の成田-ロサンゼルス線だけになるという。
旅客が激減している航空会社にとっては大打撃であることはいうまでもないが、訪日客が「消える」ことでインバウンド消費への影響は現実のものになっている。
観光庁の「訪日外国人旅行消費額」調査によると、2019年、1年間の訪日旅行客の消費額は推計4兆8135億円。仮に3月4月5月の3ヵ月間の消費が9割減ったとすると、ざっと1兆円が消えることになる。
非常事態宣言によって国内旅行者も激減しており、インバウンド消費に大きく依存してきたホテル・旅館や飲食店、百貨店、土産物店などへの影響は計り知れない。
東京商工リサーチの4月13日18時現在の集計によると、新型コロナ関連の経営破綻が全国で54件(準備中含む)に達した、という。業種別では宿泊業12件、飲食業7件と2業種に集中している。「もともと経営基盤がぜい弱な零細・中小企業が多いが、『新型コロナ』の影響で売上が減少し、業績悪化がさらに加速して倒産に至るケースが多い」としている。
売り上げが「消滅」している宿泊業、飲食業での破綻は刻々と増加しており、月末の決済が訪れる4月末にはさらに大きく増える可能性が高い。インバウンド消費への影響を慮った入国規制の先延ばしが、インバウンド消費を消滅させる結果になりつつある。