まさか百貨店が「壊滅」する…のか? 新型コロナ自粛の恐るべき傷跡  営業再開で果たして復活できるのか

現代ビジネスに6月25日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73571

 

売上消滅


新型コロナの営業自粛の影響で百貨店の売上高が壊滅的な減少を記録した。日本百貨店協会が6月23日に発表した5月の全国百貨店売上高は、前年同期比65.6%のマイナスになった。

東京や大阪などでは食料品売り場など一部を除いて営業を停止したことから、かつて経験したことのない減少となった。


もともと昨年10月からの消費税率引き上げで、売上高の伸びはマイナスに転じており、5月まで8カ月連続の減少。1月までは訪日外国人旅行客の「インバウンド消費」があったことから、減少率はひとケタに止まっていた。

ところが新型コロナウイルスの蔓延が世界に広がり始めた2月以降は外国人客が激減。売上高は2月12.2%減→3月33.4%減とつるべ落としで悪化した。



消費増税の影響が出た昨年10月でも17.5%減だったので、3月時点でそれを大きく上回る打撃になっていたことがわかる。さらに4月には緊急事態宣言が出されたことで営業自粛が広がり、売上高は72.8%減を記録、前述の通り5月も65.6%減った。売上減少というよりも「売上消滅」といった状態に陥った。

頼みのインバウンドも消えた

この間の外国人旅行客によるインバウンド消費の「消滅」も凄まじい。

百貨店で免税手続きをして購入された「免税売上高」は1月の316億円から2月には110億円と3分の1近くに減少。

3月は47億円となった。日本政府観光局(JNTO)の集計では日本を訪れた外国人旅行客は4月、5月とも99.9%減となり、免税売上高も4月がわずか5億円、5月が7億7000万円と事実上「消えた」に等しい金額となった。

地域別で見ても、新型コロナの影響が鮮明に見て取れる。

2月に感染が拡大し、営業自粛を要請した北海道は2月に25.8%減と全国に先駆けて大幅なマイナスとなった。

3月にはクラスターが発生した大阪の百貨店売上高が42.2%減と大きくなった。大阪の百貨店の場合、インバウンド消費の恩恵を大きく受けてきただけに、その反動も大きかった。


緊急事態宣言が全国に広がった4月には、全国各地の百貨店が7割から8割の売上減少を記録。5月もそれが続いた。

細々ながら営業を続けた食料品は落ち込みが小さいものの、4月は53.0%減、5月は45.2%減と、これまで経験したことがない減少率であることには変わりない。

インバウンドが消えたこともあり、高級品の「美術・宝飾・貴金属」の売上減少が著しく、4月、5月とも前年同月比80.0%のマイナスになった。衣料品も4月は82.7%減、5月は74.1%となった。

「終わっているビジネスモデル」本当の終焉


これだけの「売上消滅」で百貨店の経営は大丈夫なのだろうか。4月、5月に休業した場合は雇用調整助成金で休業従業員の人件費は補填されるものの、すべてのコストを政府がみてくれるわけではない。自治体から休業補償が出たとしても焼け石に水だ。

むしろ問題は6月以降だ。4月、5月と比べれば改善したように見えるものの、前年同月と比べれば売上高は2ケタのマイナスが続く。


新型コロナが完全に終息する見通しはたたず、百貨店での消費が平常に戻るには相当な時間がかかりそうだ。しかも営業を再開することで、光熱費や人件費なども大幅に増加することになる。むしろ、経営的にはこれからが正念場だと言えるだろう。

そのうえ、新型コロナをきっかけに人々の消費行動が大きく変化し、元に戻らないのではないか、という見方も広がっている。

人混みが発生する旧来型の大型商業施設が敬遠される傾向が強まれば、「ビジネスモデルの終焉」が言われて久しい百貨店の経営が一気に苦境に立たされる可能性が高い。

 

「新しい日常」の中に居場所はあるか


ここ数年、百貨店は訪日外国人客の免税売り上げが急増。インバウンド依存を高めていた。2019年4月には百貨店売上高の7.7%を免税売り上げが占めた。

中国からの旅行者を中心に、旅行客は高級ブランドの衣料品や時計・宝飾品などを購入する傾向が強く、比較的利益率の高い「上顧客」だった。



2020年は本来ならば東京オリンピックパラリンピックが開かれ、訪日外国人旅行者は過去最多の4000万人を超える皮算用を立てていた。

ところが新型コロナに伴う国境を越えた移動の消滅で、1月から5月までの訪日客の累計は394万人。新型コロナの世界での感染拡大が続いている現状を考えると、今年は1000万人どころか500万人にも届かない可能性が高い。

旅行客の大幅な増加による「インバウンド消費」の取り込みを狙ってきた百貨店にとって、戦略の見直しが急務になっている。

特に、インバウンドの恩恵を受けてきた大阪、福岡、札幌、東京といった地域で、今もなお新型コロナの罹患者が発生し続けており、こうした地域に元のように外国人旅行者が大挙して押し寄せることは想定できない。

おそらく元に戻るには数年を要するか、あるいは、国際間の人の動きも劇的に変わってしまうことになりかねない。

米国では百貨店の多くが店を閉め、スーパーもデリバリーに活路を探るなど、商業の業態転換が模索されている。日本でも居酒屋やファミリーレストランなど外食チェーンの店舗閉鎖が相次いでいる。

長年、日本の消費の中心として持続してきた百貨店という業態が、新型コロナをきっかけにやってくる「新しい日常」の中で存在し続けて行くことが出来るのか。付け焼き刃の合従連衡ではもはや乗り切れないところに追い込まれつつある。