医療従事者の「労災認定」が急増している…ヤバすぎる長時間労働の現状 感染急拡大でさらに負荷高まる

現代ビジネスに7月29日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85654

「医療・福祉」での認定急増

新型コロナウイルスの東京都での新規感染確認者数が7月27日、2848人と、今年1月7日の2520人を上回り、過去最多を記録した。埼玉でも593人、沖縄でも354人と過去最多を更新。神奈川県も758人と1月以来の700人超えとなるなど感染拡大が広がっている。新型コロナ感染による重傷者数も増加傾向にあり、今後、急速な病床逼迫などへの懸念が一段と強まっている。

そんな中で、医療従事者の精神的負担が高まっていることが大きな問題になっている。新型コロナの感染防御に向けた対策を取っているものの、日々、感染リスクに直面している精神的重圧は想像以上に大きい。厚生労働省が年に1度公表している「過労死等の労災補償状況」にその状況が鮮明に表れている。

発表資料によると、2020年度にうつ病など「精神障害」で労災申請が出された件数は2051件と、2019年度の2060件とほぼ同水準だった。一方で、職務が原因だと因果関係が認められ労災として「支給決定」された件数は608件と前年度の509件から急増した。

中でも目立つのが「医療・福祉」業種での支給決定件数の増加。2019年度の78件から2020年度は148件へと2倍近くに増え、業種別(大分類)でトップに躍り出た。明らかに新型コロナの蔓延が医療・福祉の現場に大きな負荷をかけ、それが精神障害の引き金になっていることをうかがわせる。

他業種は減少だが

例年、支給決定件数が最も多い「製造業」は、100件(2019年度は90件)、「建設業」は43件(同41件)と増加は小さかった。また「宿泊業・飲食サービス業」は2019年度の48件から2020年度に39件に減少、「卸売業・小売業」も74件から63件とむしろ減っており、営業自粛など業務縮小の影響が大きかったことが背景にあるとみられている。

さらに細かく、「医療・福祉」の中を見てみると、「社会保険社会福祉・介護事業」の支給決定件数が79件、同じく「医療業」が69件となり、業種の「中分類」での上位1位2位を占めた。

介護施設など高齢者福祉施設では新型コロナのクラスター(集団感染)が発生するなど、長期にわたって厳しい感染対策が迫られた一方、病院や医院に比べてワクチン接種の開始が遅れたことから、精神的重圧が大きかったとみられる。また、新型コロナと直接戦うことが求められた医療業でも精神的に追い詰められる看護師や医師が多く出た模様だ。

医療業の「支給決定」69件のうち52人が女性で、中でも看護師の精神的負担が大きくなっている様子が見て取れる。支給決定の「職種」でも「保健師助産師・看護師」の支給決定件数が多かった。看護師の場合、交代制で勤務時間は管理されているものの、夜勤なども多く、通常でも大きなストレスを抱えているとされる。そこに新型コロナの「リスク」が加わり、精神的に追い詰められている。

政府対応の後手後手も

引き続き、「長時間労働」による過労が精神障害の原因になっていると見られる例が多い。支給決定者で月平均の残業時間が分かっている人329人のうち、100時間以上の残業をしていた人は122人と37%だった。前の年度は44%だったことを考えると、残業時間が少なめでも精神障害との因果関係を認められているケースが多いことになる。やはり、新型コロナによる精神的重圧の大きさが因果関係として認められているということだろう。

また、過労によって自殺に追い込まれたと認定された人は81人。前の年度の88人に比べて減ったものの、依然として高水準である。

一方で、過労によって脳疾患や心疾患で労災申請した人は784人と前の年度の936人から大きく減った。新型コロナの蔓延で経済活動が停滞していることが一因かもしれない。支給決定件数も194件と216件から減少している。

 

長時間労働」に対する世の中の関心が高まり、政府が「働き方改革」に音頭を取るなど時間短縮の動きが強まったこともあって、脳・心臓疾患による労災申請はこの10年あまり横ばいが続いている。

一方で「精神障害」による申請の増加傾向が急ピッチで続いた。精神障害での申請件数が脳・心臓疾患の申請件数を上回ったのは2007年だが、今では3倍近くにまで増加している。「パワハラ」などによる精神的な重圧に追い詰められたり、過重な労働から来る「ストレス」で精神障害となったり、自殺に追い込まれたりする例が後を絶たない。

「現場では新型コロナ対策への緊張感が続いており、精神的に限界に追い込まれている病院職員も少なくない」と首都圏で新型コロナと戦う医師は語る。

新型コロナの蔓延から1年以上が経っても終息にメドが立たないどころか、インド由来の変異株(デルタ株)の広がりで、感染が急拡大する様相を示している。デルタ株に対する水際対策の不備や、緊急事態宣言の不徹底、東京オリンピックの開催、ワクチン調達・配布の大混乱など、政府の対応が後手後手に回っている印象が拭えない。医療体制の拡充も遅々として進んでおらず、医療現場への負荷は減りそうにない。