「ジャニーズ事務所はファンドが入って上場を目指すほうがいい」10月2日の会見までに経営陣が決断すべきこと 判断が遅れると事務所は自然消滅することになる

プレジデントオンラインに9月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/74373

社名変更はコーポレート・ガバナンスに関わる問題

ジャニーズ事務所が10月2日に、今後の会社運営の方針について公表するという。藤島ジュリー景子・前社長が今も100%保有する株式の扱いや社名変更など、「会社」としてのジャニーズ事務所のあり方を大きく左右することになる。

9月7日に開いた記者会見では、故ジャニー喜多川氏による元所属タレントらへの性加害を事務所として公式に認めた。その上で、被害者への補償に取り組む方針も示したが、会社としてのジャニーズ事務所のあり方については、方向性を示していなかった。

というのも、藤島氏が社長は辞めたものの、引き続き代表取締役に留まったことや、藤島氏が全株式を持つオーナーであり続けていることに、批判の声が上がっていた。さらに当初、会社としては「ジャニーズ」という社名は変更しない姿勢を見せたことで、「今までと何も変わらない」という声も出ていた。

2日にどんな方向性を示すかは分からないが、株式保有のあり方や社名変更が問題視されるのは、「会社とは何か」「会社は誰のものか」といった根本的な問題が背景にある。いわゆるコーポレート・ガバナンスの問題だ。

経団連経済同友会で見方が大きく分かれた

当初は「今まで通り」で行こうとしたジャニーズ事務所が、株式問題や社名について方向性を示さざるを得なくなった背景には、所属タレントをCMなどに使っている企業が相次いで、契約を打ち切るなど、ジャニーズ事務所との関係を見直す動きを見せたことがある。日本航空東京海上日動火災保険アサヒグループホールディングスキリンホールディングスサントリーなど15社以上に及ぶ。問題なのは事務所、しかも故人の元社長で、タレントに罪はない、という声も一部にはある。

経団連の十倉雅和会長(住友化学会長)も記者会見で、「ジャニーズのタレントの人たちはある意味被害者であって加害者ではありません。日々研鑽を積んでいる人の機会を長きにわたって奪うということはまた問題もあると思います」と述べていた。

一方で、経済同友会新浪剛史代表幹事(サントリー社長)は「児童虐待に対して真摯しんしに反省しているか、大変疑わしい。ジャニーズ事務所を使うと、児童虐待を認めることになる」とし、「サントリーとして(所属タレントを使わないという)明確なスタンスを示した。タレントの方には心苦しいが、他の事務所に移るなど、手があるのではないか」とした。見方が大きく分かれたわけだ。

ジャニーズ事務所が非上場の個人会社なのが問題

そもそも今回の事例で会社はどこまで責任を負うべきなのか。犯罪行為をしたのは元社長のジャニー喜多川氏で、すでに亡くなっている。おそらく十倉氏は、今のジャニーズ事務所やタレントには重い責任はない、と思っているのだろう。一方で、喜多川氏の行為を放置した事務所の「体質」は今も続いているというのが新浪氏の立場。タレントは他の事務所に移籍すれば仕事ができるので、ジャニーズ事務所に温情をかける必要はないということではないか。

確かに経団連企業のような上場する大企業ならば、経営者が引責辞任すれば一応のミソギは済むことになる。だが問題は、ジャニーズ事務所が非上場の個人会社だということだ。前述の通り、株主はひとり、藤島氏だけだ。第三者の株主はいないので、利益が上がればすべて藤島氏のものになる。配当として個人財産に変えなくても、保有する株式の価値が上がれば個人の資産は増える。

もちろん、ジャニーズ事務所ジャニー喜多川氏が一代で育て上げた会社だが、それを姪である藤島氏が相続した段階で、資産だけでなく、負債も相続している。ジャニー喜多川氏が行った加害行為の賠償責任も藤島氏個人が負っていると考えるべきだ。もちろん、見過ごした会社にも責任はあるが、主体はあくまでジャニー喜多川氏個人。その負債は藤島氏個人が相続していると考えるべきだ。

藤島氏が株式を持ち続ければジリ貧になる

100%株式を持っているので、会社が賠償しても藤島氏個人が賠償しても同じだという考え方もできるが、グループ売上高が1000億円規模だと言われるジャニーズ事務所には社会的な存在としての責任がある。所属タレントのために、会社を存続させるという選択肢はもちろんある。

その際、焦点になるのは、藤島氏の保有株である。株式を持ち続けていたら藤島氏個人の会社だから、タレントは藤島氏の利益のために働いていることになる。藤島氏が賠償すべきものを所属タレントが負うのと同じだ。タレントに罪はない、というのであれば、藤島氏は保有株を手放し、藤島氏とは関係のない会社に変えることが重要だ。その際、保有株を売却した資金を賠償金に充てれば良く、会社は独立した存在として生き続けることになる。そうなればさすがに加害者の名前を冠した社名は使わないだろう。

一方で、藤島氏が株式を保有し続けた場合はどうなるか。「今までと変わらない」と見られた会社に所属しているタレントの仕事は減り続けてジリ貧になっていくだろう。たまらず所属タレントの移籍も増えていくに違いない。売れっ子タレントはジャニーズ事務所に所属していなければ仕事が来ないわけではないからだ。さらに、不祥事を長年放置した会社として、取引先も潮が引くように離れていくに違いない。

ビッグモーターは取引先金融機関に融資を断られた

そんな中でも大きいのは金融機関の動きだ。

同じく不祥事が表面化したビッグモーターも、取引先金融機関が借り換え融資を断っている。問題企業への貸し付けを行えば、その金融機関自身が問題視されかねない時代になっている。

上場企業の場合、不祥事が起これば、株主総会などで経営者が追及される。ジャニーズ事務所の場合、非上場なので、資金が不足すれば主要取引銀行などに借金を申し込むことになる。その金が借りられないとなれば、運転資金に事欠くようになる可能性も出てくる。つまり、「変わった」ことを世の中に示せなかったら、ジャニーズ事務所は存続できなくなる可能性が出てくる。

ファンドが入り、株式上場を目指すべきだ

10月2日の会見では、社名変更を打ち出すことになるだろう。タレントが海外の仕事を受ける場合、ジャニーズ事務所所属という名前が問題になる可能性は十分にある。今や世界では性加害は絶対に許されない問題として敵視されている。社長に就任した東山紀之氏自身、ジャニー喜多川氏の行為を「人類史上、最も愚かな事件」だと強く批判している。そのジャニー氏の名前に拘っていると見られることは「会社存続」には決定的にマイナスになる。だが、「ジャニーズ」というブランドが巨額の金銭的価値を生んできただけに、会社がそれを捨て去る覚悟が持てるかどうか。

もうひとつの焦点である藤島氏の持ち株問題は、ファンドなど第三者に売却するしかないだろう。その上で、ファンドが新しい経営者を据え、経営体制を整備して、株式上場を目指すべきだ。所属タレントの東山氏が社長に就いても、実態は何も変わらない。東山氏が高い経営力を持っているという話も聞かない。

株式上場を目指して、株主が多様化すれば、経営者へのチェック機能も高まり、会社も存続していくことができるだろう。だが、道のりは容易くない。というのもタレント事務所という業態が、所属タレントに大きく依存するため、転籍などの流出が止まらなければ会社としての存続ができなくなるからだ。

そのためには持ち株構造など経営のあり方については早急に結論を出す必要がある。そこで時間を取られているようだと、ジャニーズ事務所は自然消滅に向けて沈み始めることになりかねない。