首相官邸の危機管理能力を検証せよ

大震災から1カ月以上がたち、震災当日に誰がどう発言し、行動したのかを検証する記事などが載り始めた。首相官邸が危機に当たってどう機能したか、あるいは機能しなかったか、専門のスタッフを置いてきちんと検証しておくべきだろう。誰か個人の責任を追及するためではなく、日本の危機管理のどこに根本的な欠陥があるのかをきちんと把握するためにである。

というのも、首相官邸に出入りする官僚たちに聞くにつけ、首相官邸の機能不全には暗澹たる気分にさせられる。そもそも情報がまともに集まっていないし、政治家も官僚もタイムリーな決断ができていない。

危機管理は本来、想定外のことが起きた時に誰がどういう対応を取るのかを決めておくことだ。想定外のことも想定しておくというイマジネーションがいるのだが、残念ながら霞が関の官僚はこれが大の苦手である。というよりも、自分が信じる結論を補強するために想定を作るという作業を若い頃からしているために、想定の範囲を実際に起きる可能性があることよりも狭めてしまう。これではリスク管理が機能するはずはない。

今回の大震災が未曾有の災害であることは間違いない事実だが、首都が壊滅したわけでも、首相官邸が被災したわけでもない。にもかかわらずここまで機能不全に陥るとは、そもそもの想定が甘いということに他ならない。

閣議中の首相官邸に核ミサイルが落ちて閣僚全員が死亡した場合、誰が政府をコントロールするのか。そういった想定は、おそらくなされていない。想定外になった瞬間に思考停止なのだ。

「核戦争が起きる」「他国に侵略されて占領下に置かれる」−−そんなことは起きるはずがない、として「想定外」とするのか、確率は低くとも起きる可能性はあるとして「想定」するのか。ここに危機管理の質の違いが生じる。

そんな「想定」をしている国があるのか、と聞かれればあるのだ。一例を挙げればスイスである。スイスの住宅の地下には核シェルターが設置されている。私も2002年から2004年まで日本経済新聞チューリヒ支局長としてスイスに家族とともに暮らしたが、4世帯は入っている共同住宅の地下には分厚いコンクリートと鉄の扉で囲まれた核シェルターがあり、日ごろは物置として使っていた。

そんなスイスに学ぶ危機管理をまとめた一文を講談社のウェブ「現代ビジネス」に掲載しました。無料ですのでお読み下さい。 http://bit.ly/egHpgv