福島原発事故とそっくりな「北朝鮮ミサイル発射」発表の遅延。またも「情報伝達」でミソを付けた民主党内閣の「国民に本当の事は知らせない」体質

4月18日にアップした現代ビジネスの記事が読まれているようです。このコラムでも繰り返し民主党政権の情報開示姿勢について批判してきました。しかし、同じ事が何度も繰り返されています。政府最大の役割である危機管理のあり方をもう一度再検証しておく必要がありそうです。
オリジナルページ→ 講談社「現代ビジネス」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32342

 4月13日午前7時50分過ぎ、「北朝鮮がミサイルを発射した」という韓国メディアの情報が、日本国内でもテレビの「ニュース速報」として流れた。多く国民は固唾を飲んで政府の正式発表を待ったのは当然である。ところが次に流れた8時5分過ぎ頃の「ニュース速報」にはこうあった。

北朝鮮人工衛星と称するミサイルを発射したとの一部報道があるが、我が国としては、発射を確認していない」

 この瞬間、国民の頭には2つの疑念がよぎった。「日本政府にはミサイル発射情報を瞬時に得る能力がないのではないか」、さもなければ「情報を得ても瞬時に国民に伝える意思がないのではないか」という2点だ。

ミサイル発射後40分以上たってからの発表

 7時38分に発射されたミサイルの形跡は米国の早期警戒衛星(SEW)によって探知された。安全保障条約を結ぶ日米の同盟関係からすれば、当然、米軍が韓国軍に情報を伝達したのと同時に日本の防衛省にも伝達されていたはずだ。もしそれが伝達されていなかったとすれば、それはそれで大問題になる。

 つまり、政府が「その気」さえあれば、韓国のメディアが報じたのと同時刻に日本でも国民に情報伝達がなされていたはずなのだ。

 ところが、実際は周知の通り、田中直紀防衛相が記者会見したのが8時24分ごろだった。田中防衛相は会見でこう言った。

「7時40分ごろ、北朝鮮から何らかの飛翔体が発射されたとの情報を得た。飛翔体は1分以上飛行し、洋上に落下した模様であります。我が国領域への影響は一切ありません」

 ミサイルの発射に備えているのに、何らかの「飛翔体」という日頃聞かない言葉を使ったのは役所用語そのままという印象だったが、その点は置こう。結局、国民に政府の正式な情報が伝わったのは、ミサイル発射から46分後だったことになる。

 これだけの時間があれば、当然のことながら弾道ミサイルは日本の領空をとっくに通り過ぎている。もちろん日本の領域を狙っていれば、すでに着弾しているだろう。

福島原発事故と似ている官邸への「情報の流れ」

 野党などの批判を受けて、政府はミサイル情報の公表が遅れたことについて「検証チーム」を立ち上げた。斎藤勁官房副長官をトップに防衛省など関係省庁の局長らが参加している。

 これまでの報道によると、第一の疑念である、「情報を得る能力はなかった」という点は強く否定されている。政府は米国のSEW情報を発射直後に得ていた、というのだ。野田佳彦首相と藤村修官房長官、官邸で対策室のトップだった米村敏朗内閣危機管理監には7時42分に情報が伝わっていた、という話になっている。

 当初、官邸の対策室にSEW情報が伝わったのは8時16分としていた。後になって情報は伝わっていた、という話になるのは、東京電力福島第一原発の事故の時と似た流れだ。

 7時50分には自衛隊の幕僚長から田中防衛相に米軍の情報を伝え、8時3分には防衛相から官房長官に、その後8時24分の記者会見で話した内容を電話で伝えた、という。

 だが、この情報伝達の混乱ぶりをみると、本当に国民への情報伝達を準備していたのか疑わしくなる。2つ目の疑念である「情報を瞬時に国民に伝える意思がなかった」のではないか、という点が払拭できないのだ。

 情報伝達には「全国瞬時警報システム(通称、Jアラート)」が使われることになっていた。通信衛星と市町村の防災行政無線を利用し、国が発信した緊急情報が瞬時に住民にまで伝わるというのがウリのシステムだ。

 ミサイル発射前日までの地方自治体の認識でも、ミサイル発射後30秒以内にこの「Jアラート」を通じて、情報が伝達されるはずだった。結局、政府が情報を発信しなかったために、Jアラートでは何の情報も流れなかった。

「発射後30秒以内」は本気だったのか

 最も早い公式情報だった「我が国としては、発射を確認していない」という情報は別のルートで流れた。

 Jアラートは多額の設置費用がかかるため未導入の市町村が少なくない。これに代わって既存の設備が使えるEm-Net(エムネット)と呼ばれるシステムが別に存在するのだ。エムネットは行政専用のネットワークを利用して総理大臣官邸と地方公共団体の間で緊急情報を双方向で通信できる。これを使って「誤報」とも言える第一報が流れた。

 今回のミサイル発射は北朝鮮が「人工衛星の打ち上げ」を予告していたこともあり、万全の体制で臨むことができたはずだ。ミサイル防衛システムPAC3を配備し、防衛相が「破壊命令」まで出した。まさに臨戦態勢を整えることができたわけだ。

 一方、国民にとってもミサイル発射については事前の情報があり、「発射」の一報が流れてもパニックになるリスクはほとんどなかったに違いない。少なくともミサイルは発射後40秒以上は飛んでいたとの見方が多く、「発射後30秒以内」という事前の計画が本気ならば、Jアラートで情報が流れていてもおかしくない。

 逆に言えば、ミサイル発射が失敗していなくても、情報を瞬時に伝達することは難しかったのではないか、と疑われるわけだ。

問われる首相官邸の危機管理態勢

 原発事故の時と同様、今回も官邸内の情報混乱ぶりが際立った。そもそもJアラートに瞬時に流す情報は誰の決断で流すことになっているのか。

 危機管理監の一存で許されるのか、首相の判断が必要なのか。首相にまで判断を仰いでいては、危機に関する国民への情報伝達を「瞬時」に行なうことは不可能ではないか。それとも発射されることは想定していても、発射後失敗に終わることは「想定外」だった、とでも言うのだろうか。

 気象庁が「緊急地震速報」を流す前に首相の裁可を得なければならないとしたら、システム事態が機能しないのと一緒だろう。現場に一定の情報伝達権限を委ねる仕組みが不可欠なのだ。

 ところが民主党政府はことごとく「政治主導」を掲げ、政治家の判断を重視してきた。野田内閣になって「脱官僚依存」は後退したものの、官僚などに一定の権限を委ねる態勢になっていない。

 政治主導の中で、とにかく政治家の裁可を仰ぐという役人意識が根強くはびこっている。つまり、政治家と官僚機構が一体となった首相官邸の危機管理態勢がきちんと出来上がっているとは言い難い状況なのだ。

 情報伝達が遅れた理由として藤村官房長官は「二重チェック」をしたうえで発表するつもりだった、と抗弁している。2009年にテポドン発射の際に誤報を流して批判を浴びた教訓だと言う。だが、それでは結局は「正確な情報」「流しても政権が傷つかない情報」を得ない限り、国民には何も伝えないということではないのだろうか。

 自民党など野党は情報伝達遅れの責任を追及して、田中防衛相の問責決議に持ち込む姿勢を見せている。野党は田中氏が専門家ではないと厳しく攻め立ててきたが、今回の問題は田中氏ひとりの個人の能力の問題ではない。

 危機に直面した時に政府が国民にどの段階でどんな情報を伝えるのか。それをきちんと決め、"実戦"で使える情報収集態勢、情報伝達態勢を事前に整えておくことだろう。