上山信一氏「大阪維新の会」政策特別顧問インタビュー「東日本大震災の復興はなぜ進まないのか」

本日、講談社「現代ビジネス」にアップされました上山信一さんのインタビューを、編集部のご厚意で転載します。

 東日本大震災から4ヵ月以上たったが、いまだに瓦礫の処理などが残り、将来を見据えた復興にまで至っていないのが現実だ。そんな中で、国や県のあり方や、市町村など基礎自治体の役割が改めて問われている。慶応義塾大学総合政策学部教授で、橋下徹大阪府知事が代表を務める地域政党大阪維新の会」の政策特別顧問として「大阪都構想」を推進する上山信一氏に聞いた。聞き手:磯山友幸

−−東日本大震災後の対応を巡って、国や県が後手後手に回り、市町村の苛立ちが強まっている。

上山: 今回の被災地はもともと過疎が進んでいて、基礎自治体の力も弱かった。県庁も十分な力を持っていない。大企業の本社もほとんどない。もともと自立力の弱い地域なのだ。
初動の被災地救援で自衛隊が動いたところまでは良かった。だが、その後の復旧、復興、そして振興のプロセスが遅々として進まない。

 そう考えると、東日本大震災が発生した直後から、もっと国が直接、物量・人材を投入していくべきだったろう。今回は基礎自治体自体が被災し、その機能復旧がなかなかできなかった。国の省庁が自らの職員の一割ずつを送り出すなど、物理的な応援をすべきだった。

−−復興ビジョンを練る復興構想会議を作るのに1ヵ月。それから報告をまとめるのに2ヵ月かかった。

上山: 霞が関の各省の局長クラスを筆頭に選りすぐりを仙台に集めれば、復興構想会議が6月末にようやくまとめたような復興プランは10日でできたと思う。ところが、現地に行ったのは政治家ばかり。しかもテレビに映ることばかり考えている政治家も多くいたという。政治主導を演出するためなのか、政務三役ばかりが現地に行き、役人を行かせない。中には出張禁止令が出ていた役所もあるらしい。役人に手柄を取られたくない、という思いが透けて見える。

 今の政治主導の結果、霞が関の局長級の幹部たちはほとんど機能していない。彼らを現地に行かせていれば、各省連絡会議のようなものができ、それが自然と復興院になっていただろう。実務の知識と権限を持った役人が現場に行かなければ、何も進まない。

−−もっと官僚機構を使うべきだったと。
上山: はい。もともと官僚は、創造的な仕事は苦手だが、復旧のような仕事は得意だ。そうした復旧を役人の手に委ねたからと言って問題は起きない。放っておくと余計な仕事を作り自己増殖するのが役人最大の問題点だが、旧に復する作業なら、余計な権限が増えるわけではない。

−−復興に当たっては「復興庁」や「東北州」など様々意見が出された。

上山: 東北の県をまとめて東北州にすべきだという論議は、リアリティがない。もともと自立できない地域に自立せよというのは無理がある。西日本のような基礎自治体が強く、自立できる場合には中央政府は徹底して介入しない仕組みが大事だ。

 一方で、自立力のない地域には国が県を飛ばして直接作業することが必要になる。英国でもサッチャー政権の時に、問題の多い一部の小学校を文部省が直轄管理したことがあるが、同じ発想だ。全国一律、同じように分権化すればいい、という話ではない。


−−一方で県庁が有効に機能していなかった。

上山: 基礎自治体やその首長の存在感は大きかったと思う。知事も頑張っていた。ところが県庁はなかなか機能しなかった。それは根本的に権限がないからだ。松本龍・復興担当大臣(当時)の暴言はそれを如実に示していた。

−−しかし、権限を持っているはずの国も十分に機能していない。

上山: 官僚機構を機能させないで、官邸主導というのは無理だ。JRの復旧が早かったのは、民営化で民間企業になっていたため、官邸が口を出せなかったからだろう。ところが高速道路は使用許可までいちいち官邸が差配した。そのため高速道路はガラガラなのに民間の物流が止まり物不足に拍車をかけてしまった。

−−日本の政府自体が機能していないように見える。

上山: 大き過ぎるものは機能しない。分割するしかない。だが、これまでの分権化の議論は、霞が関自治体の間の行政内分権どまりだった。霞が関が持っている権限を自治体に分けていくという発想でしかない。そこには地域の自立経営という概念がなかった。さらに悪いことに、民主党政権になって、政治が思いつきで中央から各地に個別介入し始めた。そのために、グチャグチャになっている。

 今の日本は国鉄(現JR)の末期と同じような状況だ。もはや分割民営化をやる以外に打開策はない。

−−そんな中で、大阪は行政の仕組みを大きく変えようと改革を進めている。

上山: 大阪が考えているのは、「いち抜けた」と自立する自治体が出てくることで分権化が進む、というもの。その要が、いわゆる「大阪都構想」だ。大阪府大阪市を統合すれば様々な二重行政が解消できるし、自律的な地域経営ができる。11月の大阪市長選挙の争点になる。4年後の統一地方選挙でも日本のあちらこちらで「地方分権」が争点になっていると思う。

 大阪都構想はの柱は3つ。まず、地下鉄、バス、水道などの事業を民営化すること、次に大阪市を10ぐらいの特別区に分けて、区長は公選にし、教育委員会などの機能を地域に分権する。そして、都庁は河川や道路管理などの広域行政に専念するというものだ。水資源の利用などでは「関西州」を先取りする格好になっていく。電力不足が問題になっているが、自治体で発電することを考えてもいい。

−−名古屋や他の地方に同様の動きが広がっている。

上山: こうした「いち抜けた」という動きが、大阪、名古屋、東京で出始めれば、中央政府を揺さぶり、日本の政治が変わらざるを得なくなる。明治維新も経済力のある薩摩・長州が中心となったからできたと見るべきだろう。