原子力規制庁の独立性に世界の目

政府内では原発再稼働に向けた動きが活発ですが、現状では国民の納得が十分に得られたとは言えないでしょう。エネルギー政策をどうするかという以前に、誰が原発の安全性を担保するのか、その信頼が根本から崩れたままであることをきちんと直視すべきでしょう。原子力規制庁の新設は本来、この信頼を取り戻す大きなチャンスでもあるのですが。。。
産経新聞フジサンケイビジネスアイ」の4月10日付け1面に以下の原稿を書きました。ご一読お願いします。オリジナルは → http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120410/mca1204100503005-n1.htm



 資源エネルギー庁原子力安全・保安院が同じ閣僚の下にある状態を一刻も早く解消させて欲しい−−。

 枝野幸男経済産業相は、繰り返しこう述べている。政府が4月1日を目指してきた「原子力規制庁」発足のめどが立たずにいるためだ。

 日本ではこれまで、原子力発電を推進する立場の資源エネルギー庁と、安全のための規制を担う原子力安全・保安院が同じ経済産業省の傘下にあった。東京電力福島第1原子力発電所の事故によって、原発推進が優先され安全規制がおろそかになっていたのではないかとの疑念が拡大。そうした批判に応えて、政府は独立性の高い新しい規制機関を設置する方針を決めた。

 すでに国会に提出されている法案では、環境省の外局として原子力規制庁を設置。経産省文部科学省に分かれていた規制権限を集約するとしている。

 ところが野党などから政府案では規制庁の独立性が乏しいという批判が上がり、4月に入っても審議入りできていない。新設される原子力規制庁の長官の上に政治家である環境相を置く構造では、政治からの独立性に疑問符が付くとの主張だ。

 野党側は規制庁を公正取引委員会のような国家行政組織法三条に基づく委員会、いわゆる三条委員会にすべきだ、と主張している。自民党は近く、公明党と協議のうえ対案をまとめる。

 実際、政府案のままでは、国際的な納得を得られるか微妙だ。国際ルールでは独立性が強く求められているからだ。国際原子力機関IAEA)の基準では、規制機関の独立性として、規制制定や許認可での独立した権限を持つ事に加え、予算や人事権での独立性も求められている。環境省の外局では、独立した予算権を持つ事は難しく、人事でも一部の幹部を除き、経産省文科省からの出向者が占めることになる。

 最近、ドイツの公共放送ZDFが作成した「福島の嘘」というタイトルの報道番組がネット上で話題になっている。原発推進で固まった政官業の「原子力ムラ」の圧力によってさまざまな隠蔽(いんぺい)が行われ、安全が後回しにされたと結論付けているのだ。

 それが真実かどうかは議論が分かれるとしても、海外メディアが日本の原子力政策に疑念の目を向けていることだけは紛れもない事実だろう。

 現在、国会に設置された民間有識者による東京電力福島第1原発事故調査委員会(国会事故調)の調査が佳境を迎えている。委員会は毎回、公開。英語の同時通訳も付き、外国のメディアの関心も高い。6月をめどに事故原因の究明と併せ、規制組織のあり方についても提言をまとめる予定だ。

 同じ過ちを二度と起こさないためにも、福島の事故を教訓とし、世界が納得をする独立性の高い規制組織を作るべきだろう。(ジャーナリスト・磯山友幸