郵政改革後退を国民は望んでいるか。小泉改革見直しを"全会一致"で決めた自民党は「政策より怨念」?

本日、4月12日、郵政民営化改正法案が衆議院を通過しました。あれだけ大騒ぎして決めた郵政民営化を逆戻りさせる法案は、さほど議論もないままに成立しそうです。「官から民へ」という掛け声が、今や「官民一体」へと大きく変わりました。何でも政府が関与する、大きな政府路線へと一歩一歩着実に変わっているように感じます。でもこれが本当に国民の意思なのでしょうか。日本はこれから、「何でも御上頼み」でいくのでしょうか。郵政民営化改正法案について、現代ビジネスに拙稿を掲載しました。編集部のご厚意で以下に再掲します。ご一読ください。

オリジナル→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32275


「いや、こんなに少数派になっていたとは思いもしなかった。すっかり昔の古い自民党に戻った。もう自民党は終わりだな」

 3月27日に自民党が開いた総務会。2005年の郵政選挙自民党を圧勝に導いた「郵政民営化」を見直す改正法案を、"全会一致"で了承すると、改革見直し反対派の議員のひとりはこう吐き捨てた。

 総務会では中川秀直・元幹事長が「政策転換すれば民主党と同じだ」などと激しく抵抗。小泉進次郎・青年局長らも反対論を唱えたが、塩谷立・総務会長が「了承」で押し切り、総務会の原則である全会一致の形を整えた。中川氏は国会対策委員長政務調査会長として小泉純一郎首相(当時)の改革路線を支えてきただけに、改革後退に抵抗する急先鋒になっている。

 「郵政改革見直し」でまとまったことを受けて、民主・自民・公明の三党は「郵政民営化法改正案」を共同で国会に提出。4月11日にも委員会で可決し、12日にも衆議院本会議に上程する。中川氏は「本会議で反対する」と、党の方針に対して造反する考えを示しているが、同調者が出たとしても、賛成多数で可決される見通しだ。あの「小泉改革」を見直すことになる。

 現行法では、持ち株会社である日本郵政が持つ「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」の金融2社の株式について、2017年9月末までに全株売却し処分することを義務づけている。これを改正案では「全株処分を目指す」との努力規定に変え、時期も明示しないこととする。これによって、日本郵政が2社の株式を持ち続ける余地が生まれるわけで、郵政民営化の後退であることは明らかだ。

 現在、日本郵政の下には、金融2社のほかに、郵便局を運営する「郵便局会社」と手紙などを扱う「郵便事業会社」の子会社4社がぶら下がっている。いわゆる5社体制だが、改正案が成立すれば、郵便局会社と郵便事業会社を統合、4社体制に再編される。現在、国が100%保有する日本郵政株の3分の1超を残し、残りは市場売却などで処分する点は変わらない。

 郵政は言うまでもなく小泉元首相が進めた「構造改革路線」の象徴だった。「民間ができることは民間へ」という掛け声の下、民業を圧迫する官業の代表的な存在として郵政がヤリ玉に挙がった。郵政民営化法案を参議院が否決したことをきっかけに、小泉元首相は2005年8月に衆議院を解散、総選挙に打って出て圧勝した。「官から民へ」の改革路線は国民に圧倒的に支持されたわけである。

 小泉元首相は「自民党をぶっ壊す」と発言し続け、実際に自民党の有力支持母体だった旧特定郵便局長会の利権構造を突き崩した。郵政改革に反対した自民党議員には造反議員のレッテルを貼り、公認を見送った。この時の怨念は今も永田町のあちこちに息づいている。

 小泉改革安倍晋三内閣に引き継がれたが、その怨念によって政権基盤は突き崩されていった。永田町では小泉憎しが構造改革路線の否定へと形を変えていったのだ。この流れは、安倍内閣造反議員の復党を認めて確定的になった。安倍自民党が2007年の参議院選挙で負けたのは、「消えた年金」問題による政府への不信が大きいとされる。だが、造反組を復党させたことによる「改革の後退」によって選挙民の失望を招いた面も見逃せない。決して国民が構造改革路線にNOを突きつけた結果ではなかったのだ。

 一方で、小泉改革で支持を取り戻していた自民党の支持率は再び失速を始めた。小泉元首相は「自民党をぶっ壊す」という"呪文"によって自民党の「崩壊時計」の針を逆戻しして見せた。その針が再び進み始めたのだ。そして2009年に政権交代を迎えたのは周知の通りだ。

 民主党が圧勝して政権を奪取できたのは、国民が構造改革路線を否定したからであろうか。民主党を選挙で勝利に導いたキャッチフレーズは「脱官僚支配」「コンクリートから人へ」「政官業の癒着打破」といったものだった。つまり国民は、自民党ができなかった「構造改革の促進」を民主党に期待したのだ。

 もともと民主党は郵政改革も推進の立場だった。民主党が掲げたマニフェスト(選挙公約)の政策インデックス(野田内閣はインデックスはマニフェストではないと主張)でも郵便貯金の預け入れ限度額の引き下げや、金融事業の早期売却などを記載していた。

 つまり、選挙を通じて示された民意は「構造改革推進」「郵政民営化推進」のままだと考えられる。選挙が行われていない中で、国民が支持した郵政民営化の方針をひっくり返すことを決めた議員たちの拠り所はいったい何なのか。「いや、民意は反改革に変わったのだ」というのであれば総選挙で国民の声を知る必要があるだろう。それとも「地元に帰って声を聞いているから十分」とでも言うのだろうか。

 政権与党には言い分があろう。郵政民営化に反対する国民新党と連立を組んだ事や、予算を組む上で早期に郵政株の売却益が必要という選挙時からの状況変化もある。では自民党はどうか。構造改革にどう向き合うのか。

 今、自民党は次ぎの総選挙に向けたマニフェストの策定を進めている。そこにはどんな文言が並ぶのだろうか。改革路線の見直しに自ら賛成してしまって、どう立ち位置を定めるのか。「官から民へ」に変わって「官民一体」と書くことになるのか。「官邸主導」ではなく「霞が関の自主性発揮」とうたうのか。

 NHKが4月9日に発表した世論調査によると、自民党政党支持率は18.8%と3月の17.2%に比べて上昇した。民主党は3月の18.1%から16.7%に低下、自民が民主がを上回った。だがこれをもって、国民が自民党の政権復帰を望んでいると見ることができるのか。

 史上最低とも言われた内閣支持率7%を森喜朗内閣が付けた2001年4月、自民党政党支持率は21.4%だった。その当時に比べても現在の支持率は3%近くも低い。自民党は国民の支持を取り戻しているとは言い難い。

 郵政民営化改正法案に賛成することで、小泉改革を否定してみても、自民党の「崩壊時計」小泉以前に戻すことはできないように見える。自民党はどんな政党を目指すのか。怨念ではなく政策でまとまることが先決だろう。