政府が好き勝手に「秘密」指定。その数40万件以上? 霞が関支配を復活させる「アブナイ」法改正が着々と進行中

国として秘密を守るルールが必要だという点には賛成しますが、今審議中の特定秘密保護法案は、あまりにも法律として杜撰で、定義もあいまい、拡大解釈、拡大運用の懸念が大ありです。メディア人が縛られるだけでなく、一般の人にも影響が及ぶかもしれません。秘密保護は情報公開でセットで議論されないといけないと思います。日経ビジネスオンラインにアップされた記事です。
オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20130321/245368/


 11月11日、田原総一朗氏や鳥越俊太郎氏らテレビでお馴染みのジャーナリストらが東京都内で記者会見し、国会で審議中の特定秘密保護法案に反対する声明を出した。「取材・報道の自由が著しく制限され、国民の知る権利が大きく侵害されかねない」と批判、廃案にするよう訴えた。

 声明に名前を連ねたのは、田原氏や鳥越氏のほか、TBSの「報道特集」でキャスターを務める金平茂紀氏、元読売新聞記者の大谷昭宏氏、TBS「ニュース23」アンカーの岸井成格氏、テレビ東京週刊ニュース新書」キャスターの田勢康弘氏、キャスターの赤江珠緒氏、作家の吉永みち子氏ら日本を代表する言論人。田原氏は「内閣が承認したら(特定秘密を)永遠に公開しないなんて、ばかばかしい法律があってはいけない」と語気を荒げた。

 特定秘密保護法案は、政府が「特定秘密」と指定した情報を漏らした公務員などに懲役10年以下の厳罰を科すことなどが柱。日本新聞協会や日本弁護士連合会は「民主主義の根幹である『国民の知る権利』が損なわれる恐れがある」などとして強い危惧を表明し、反対を主張したが、安倍内閣は10月25日に法案を閣議決定した。

 「外交交渉の場でも繰り返し、秘密保護の法律を作るように求められてきた」と外務省の幹部は言う。日米交渉などでしばしば日本の機密保持が「緩い」ことが指摘されてきたというのだ。自民党でこの法案を支持する幹部のひとりも「今のままでは、日本政府には重要な機密は教えられないと外国政府要人からしばしば言われる」と語る。安全保障にかかわる機密が「日本政府に伝えるとすぐに外部に漏れる」というのだ。「特別職」の公務員である大臣や、「一般職」の省庁の職員には、今でも公務員としての守秘義務が課されている。にもかかわらず情報漏れが防げないのは罰則が緩すぎるからだ、というわけだ。

日本版NSCの機密保持保証が目的

 安倍内閣は防衛や外交など安全保障上の問題を議論する国家安全保障会議、いわゆる「日本版NSC」を官邸に創設することを目指し、法案を提出、すでに衆議院を通過させた。これは第1次安倍内閣の時からの懸案で、当時、米国との政策協議で、米国のNSCとの継続的協議を行える組織を日本にも設けるように要請されたことがきっかけだと報じられた。継続的協議で米NSCから機密情報を提供するためには日本版NSCから情報が漏れない「保証」が必要だというのが米国の立場で、それが特定秘密保護法案につながっている、という。

 そんな背景は理解できるとしても、今、政府が提出している法案は余りにも杜撰だ。「秘密」の定義がどうみても曖昧なのである。内閣官房が公表している法律の概要にはこう書かれている。

 「漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要な未公開の情報を『特定秘密』として行政機関の長が指定」

 そのうえで、「別表」を掲げ、「防衛」「外交」「外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止」「テロ活動防止」を上げている。だが、どこまでが「著しく」安全保障に支障を与えるおそれに該当するのか定かではない。

 霞が関を取材したことのある記者なら誰でも知っていることだが、官僚の性癖として、何でも「マル秘」扱いにしようとする。官僚たちにとって、情報を自らの手に独占しておくことこそ、規制や権限を振るう権力基盤であるからだ。今回の法案では「行政の長」が指定すればそれで「特定秘密」となる。行政の長である各省の大臣さえ「うん」と言えば、秘密なのである。

 官僚組織を敵に回した大臣が何もできずにその地位を追われることは民主党政権時代の長妻昭厚生労働大臣の例をみるまでもない。よほど信念を持った政治家でない限り、官僚の描いたシナリオを否定できないのである。

 そして、特定秘密が増えれば増えるほど、特別職の公務員である大臣もそれに縛られていく。大臣として発言する際、それが秘密に該当しないかどうか、いちいち気を配らなければならない。そうなれば官僚が用意したシナリオ通りに演じるのが最も安全である。かくして大臣は完全に役所のコントロール下に置かれるに違いない。 官僚の裁量によって「特定秘密」の範囲がどんどん拡大して歯止めがきかなくなるという懸念は、現実のものになりそうだ。というのも、特定秘密の対象が当初の段階で40万件以上になるという見方が出ているからだ。

何でも秘密にしたい人たちが秘密を指定

 11月上旬に大手新聞などが報じたところによると、特定秘密保護法案が成立したあと、政府はまず40万件の情報を特定秘密に指定する方針だという。2007年に政府が作った秘密基準である「特別管理秘密」をそのまま「特定秘密」に横滑りさせることを、礒崎陽輔首相補佐官共同通信とのインタビューで示唆したというのだ。「特に定める」ものが40万件にも及ぶとなれば、数万件の増加は誤差範囲。その数がどんどん増えることになるだろう。何せ、何でも秘密にしたい人たちが自ら秘密を指定することになるのだから。

 もう1つの問題が、何が秘密なのかを将来にわたって国民が知るルールが明確でないことだ。

 法律概要には「指定の際には有効期間(上限5年で更新可能)を定める。ただし、有効期間満了前でも指定要件を欠いた時は速やかに解除」と書かれている。

繰り返し秘密指定の「更新」が可能

 一見、5年以内に秘密指定が解除されるような錯覚に陥るがそうではない。5年たっても内閣が承認すれば「特定秘密」を更新することが可能で、しかも繰り返し「更新」することができることになっている。会見で田原氏が「永遠に公開しない」と指摘しているのはそういう意味だ。何が秘密かも分からないまま、秘密が秘密のまま隠され続けていくことになりかねないのである。

 米国やその他の先進民主主義国では、秘密文書の取り扱いについて明確に規定しているが、どの国も20〜30年で文書を公開する情報公開ルールを確立している。1972年の沖縄返還に伴う密約文書を日本政府は認めてこなかったが、米国で期限が来て情報公開される文書からその内容が明らかになった。米国並みの秘密保護法制を整えると言いながら、米国並みの情報公開法制はまったく整える気が安倍内閣にはないようなのである。

 野党は特定秘密に指定する際に第三者がチェックする機能を置くべきだと主張している。だが、これにも応じる素振りを見せていない。国会で圧倒的多数の議席を握る「力」を背景に、このままでは強行採決で可決しかねない雰囲気だ。

秘密保護法問題の報道は、視聴率が取れない

 弁護士やジャーナリスト、野党議員などが強く反対しているものの、今ひとつ国民の間に危機感は乏しい。テレビのワイドショーは高級ホテルや百貨店での食材偽装の話題や、徳田毅衆議院議員公職選挙法違反問題などで賑わっているが、特定秘密保護法案が取り上げられる時間は短い。視聴率が取れないというのだ。

 今回の法律では情報を漏らすよう「教唆」「煽動」した人、つまり情報受領者も罰則の対象になっている。何が教唆に当たるのかも定義は曖昧で、公務員から何かを聞きだそうとしただけで、ジャーナリストだけでなく一般人も犯罪者になる危険性があるのだ。為政者の「使い方」によっては国民にとってかなりアブナイ法律なのである。

 法律に反対する側が強調するのは「国民の知る権利」が犯されるということだ。もちろん憲法で保証された権利を守ることは大事だが、国民の中には、政府にある秘密を知るのも権利だと無理な主張をしているかのように感じる向きもあるようだ。

 だが、それは大間違いだ。民主主義国家では政府が「国民に説明する義務」を負っている。「秘密は秘密」だと、その義務に頬被りしようとしているのが今回の法案だ。国民の代表である国会議員すら永遠に知ることができず、下手に聞き出そうとすれば犯罪者にされかねない。それが霞が関の一存で事実上できてしまうところに危うさを感じる。